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覚悟しろよって言い捨てて。

「聖女様、お迎えに上がりました。」


誰だキサマ!名を名乗れェい!馬上の派手な服装のおっさん(推定50代頭皮寂しめ)が私をみて声をかけてくるけど、なんで降りないんだい?そしてなんでこんなに大勢で取り囲んでくるんだ。


「どちら様ですか。私の護衛はみんなここにいますし、誰かがお迎えに来るような連絡は受けてませんが。」


露骨なキョトンGAOで聞いてみる。私は君を存じないぞ!不審者め!


「…これはこれは失礼いたしました。私はブルータス・ブルトゥスと申します。ベイルート国王陛下の命により聖女様をお迎えに上がりました。」


「…こんなに大勢で?ご苦労様ですね。」


あっぶねぇ、つい反射的に『お前もか』って言いそうだったわ。


「いえいえ、大聖女様の安全にもしもがあってはなりませんから。」


未だ馬上で笑っているブルータスくんに同じように笑い返しとく。悪い顔してらっしゃるのは丸っとお見通しだぞ。


「それでは聖女様、どうぞ此方へ。ベイルート様がお待ちです。」


「…、」


やっと馬から降りたかと思えば、今自分が乗っていた馬に乗せようとしてるのか手を出された。…え、相乗り?嫌すぎて思わず固まっちゃった。どうしよう乗らなきゃダメかな。大人しくするって約束したし、言うこと聞いた方がいいよね?


「お待ちください、聖女様は我々がお連れ致します。」


ブルータスくんの手を取ろうと伸ばした右手が、背後から伸びてきたゼロさんの手に掴まって戻された。…お、おお?ダズが敬語で喋っとる。


「…貴方がたの仕事は、ライハまでの護衛では?」


「まさか。安全にコールへお戻り頂くまでが我々の任務です。」


ゼロさんとは反対、私の左側に立つダズがふ、と鼻で笑ってブルータスくん煽ってる。副音声でお前等が危ねぇんだよって聞こえた気がした。今回護衛隊のトップだから丁寧な口調でお話ししてるのかな?違和感すごいでござる。


「…なるほど?紫の教皇、デュヴァル・オルタンシア様も同様でしょうか。」


「コール国王、ダルムシュタッド陛下の命により、大聖女様の護衛を仰せつかっております。それから、」


ブルータスくんに軽く礼をとって微笑むデュオさんの周りにパチパチと黒い火花が飛んだ。線香花火みたいなそれが何個も弾けては消える。なんだなんだ、魔法?


「『禁術について』ベイルート陛下から直接説明を受けるようにと、教会本部から言付かっております。」


私が中二病だった時に流行ってた暗黒微笑とか黒笑って表現する感じのお顔で凄んでるデュオさんの眼が、またキラキラ光ってる。あれって『瞳』の力を使ってるときに光るんだっけ?綺麗!


お、ブルータスくんの顔が苦虫を噛み潰しとる。いやはや露骨露骨ぅ!禁術って私とアイリちゃんだったかを召喚(誘拐)した儀式だったはずだ。


「…それでは皆様、どうぞ王城へ。ベイルート様がお待ちです。」


どっこいしょって感じで馬に乗り直したブルータスくんは、一瞬ゼロさんを鋭く睨んで来た道へ踵を返す。…知り合いなのかな。ゼロさんをチラ見したら、タイミングが同じだったのかバッチリ眼があった。…うん、別にイラッと来てないよ。悪いのは私ですし。ちょっとモヤッとボールが私の頭に降り注いでるだけだ。


「リン、」


くん、と捕まったままだった手を軽く引かれて、無抵抗でいたら抱えられて馬に乗せられた。そのまま後ろに乗るゼロさんに、なんとなく触れたくなくて。いつもはお任せしてる背筋を正した。あーあ、可愛くないな…私。


「…サスラに乗りたかった、」


無意識に出た呟きは案外大きかったのか、ダズの馬の前に座ってるサスラのお顔がキラッキラッに輝いてて、めっちゃ眩しい。私の獣魔きゃわたんすぎませんか?そんなに喜ばれると私の口も緩んじゃうよ。


乗せたいけど我慢してるのかそわそわしながら人型を保ってるサスラが、自分のほっぺたを押さえてニマニマしているのが微笑ましくて二人で笑いあってた。から、ゼロさんが背後で落ち込んでたことは後日ダズに密告されるまで知るよしもなかった。


案内された王城は、一ヶ月以上たったからかはたまた泥酔していたからか、さっぱり見覚えがなかった。おのぼりさん爆誕である。はじめてのお城が敵の根城かぁ。世知辛いぜ!


「聖女様、いかがですか?」


通された豪奢なお部屋に残されて、お着替えなう。着の身着のまま謁見するのはダメなんだって。いつもならお前は何を以下略、ってするとこだけど大人しく島国強化中なのでTPOを弁えることにした。


「うん、これでいいよ。ありがとう。」


別れて着替えることもみんなが渋っていた。敵陣ど真ん中だから当然だよね。でも、礼儀を飛ばせるほどの力はアルたんに押さえ込まれているから…変に警戒されても困るし、部屋の中にサスラ、少し開けた扉を挟んでゼロさんが部屋の外で待機して納得してもらった。


「大変よくお似合いですわ。」


「ええ、聖女様にはベイルート様の青がよく似合います。」


ゼロさんとはまた違う、少年王の色なのであろう明るい青色…天色ってかんじだな。そんな色の露出度の高めなドレスを着せられて、髪の毛巻かれてゴテゴテとアクセサリーを盛られる。金ばっかで重い。誉めそやしてくるメイドさん…侍女さん?の言葉を受け流して鏡に映る自分を見たら、マフィアのボスとかに侍ってるお姉さんみたいな格好だった。oh…悪役…


肩も腕も背中も全部でてる上、胸の防御力もめっちゃ低い。おまけに身体のラインが出るドレスで太股までスリットが入ってる。あとアクセサリーが重い。


アリア達って、やっぱり優秀なんだなぁ。選んでくれるのも、ゼロさんの紺…金青色と青色が差し色でメインが白だったしこれ見よがしな露出もなかったもの。でも持ってこられたドレスでこれが一番ましだ。他はなんか…レッドカーペットかよって感じだったからさすがに無理。


「はぁ…、」


「マスター大丈夫?」


よいこで待っててくれたサスラを抱き締めて可愛い成分を補充しとこう。うむ。


「マスター、ドレス似合ってる!」


「わぁいありがとぉ」


サスラたんはまだ趣味趣向はわからないから、率直に私への好意で全肯定だもんね。でも嬉しいよ可愛い。


「お待たせしました。」


癒されてちょっと元気でたからそのまま部屋から出た。わぁ、ゼロさんが固まっておる。そんで段々眉間に皺が寄ってきた。THE☆不機嫌だね。


「…ッなんだその格好は、」


「悪役っぽくて割とありな気がしてきた。」


頑張って良い所を上げてみたけど、私も不本意なんだぜ?イライラが押さえられないのか般若みたいになってますやん。顔こっわ。


「高々布切れですから。早く行って終わらせましょう。」


一緒にゼロさんと扉の前で待機していた騎士さんが此方をお構いなしに歩き出したので追いかける。少し遅れて後ろからガツガツ足音が近づいて来てて、露骨すぎてちょっとワロタ。なんで怒ってるのかな~?色が気に入らないのか露出度か、はたまた単純に品のない格好が好みではないのか。ご機嫌ナナメな理由を考えるほど、ただゼロさんの嫉妬とか独占欲なのでは。って答えになってしまってお口がもにょる。


「マスター楽しい?」


「…ちょっと、ね。」


私の頭の中がハッピー野郎過ぎてお恥ずかしい限りです。小声で話しかけてきたサスラに、同じく小声で返して笑う。ま、単純に危機感持てとかまた心配かけやがってとかそんな所でしょ。ピアスとブレスレットは外れないけど、指輪は別のを付けるからって回収されかけたのをゼロさんに渡したし。もしくは、この格好とかブルータスくんの態度とか、明らかにこっちを馬鹿にして下に見ているのを隠しもしていない少年王の対応に怒髪天をついてるのか。


「聖女様をお連れ致しました!」


「わぁ、」


でっかい扉にシャンデリア。阿保みたいに広いホールに、これまた阿保みたいにたくさん人がいらっしゃった。これはあれか。珍獣聖女観察会とかなのか。人数×2の眼が私に突き刺さってきて、愛想笑いが引きつったのが自分でもわかる。ひぇええ。


人目のど真ん中、ホールを突っ切るレッドカーペットの上を進めばひそひそ声がサトウキビ畑顔負けに騒めいて、結構五月蠅い。聖女鑑賞の感想は終わってからやれよなぁ。サスラたんは流石に隣を歩かせられないから、途中で待っていたダズに回収された。少し後ろにゼロさんが付いてくるけど、それもあって尚更騒めかれてる気がする。


「はじめまして。」


前を歩いていた騎士さんに促されて立ち止まりますは上座の真ん前。何も言わない少年王に痺れをきらして当たり障りなく言った私をギッと鋭く睨みつけてくる少年王。王座って奴だろう大きな椅子にだらしなく座って頬杖をついている彼のことは、泥酔しててほんとに記憶にないんだ。ヴォイスさんのところでマリリンに見せてもらった映像ではみたけど。


明るい金髪に明るい青色の眼。端正な顔立ちというより、険の強い顔だ。綺麗なのに勿体無い。名乗りもしない少年王に、私も頭を下げる気は毛頭なくて…あ、大人しくするなら下げた方が良いのか?一先ずドレスの裾…スリットの入って無い方だけ軽く持ち上げて礼(笑い)をしておく。


「ハンっ、そんな恰好で俺に取り入るつもりか?あいにく年増に興味はないが…、」


上から下まで舐めるように見られて、視線が乳で固定されたのがわかる。この距離でわかるほど凝視すんなよ…。あ、少年王いま19歳くらいだっけ?じゃあしょうがないか。性欲に振り回されてやんちゃする時期だもん。会話の意味をわかってないサスラたんが良い子にしてくれてるのに後ろからピリピリ刺さってくるのはゼロさんの怒気かなにかかな?やめてクレメンス。というか、


「…もう一人の召喚者はどうしたんですか?」


アイリちゃんだっけ?ホールを見渡してもマリリンの映像で見た美少女が居ない。お嫁さんにするとか街で噂になってたのに、なんでおらんのじゃ!私ばっかり観察すんなよ美少女みたい!みたい!


「白々しい…ッ!お前がアイリから聖なる力を奪ったんだろうッ!!」


な、なんだってぇえ!…いや、ほんとになんだ。どういうこと?


「女神アルヘイラから賜った力を転移の瞬間アイリから奪ったことはわかっている!アイリ自身の若さ美しさに嫉妬したのだろう、醜い奴め!」


「ほぇえ、」


やべ、思考回路ショートしかけて伝説の萌え豚製造少女みたいな声出たわ。


「転移に巻き込まれたのかと思い憐れんだ俺を、お前は腹の底では嘲笑っていたのだな。ライハの騎士団長を篭絡し味方につけ、後ろ盾であるウォンカ・ペルトスを通じ教会を謀っているのはわかっている。奪った力だろうと聖なる力には変わりない。教皇の鑑定がお前を『大聖女』としたのはその所為だろう。地位を確立するために隣国で繋ぎをつけダルムシュタッド王にまで毒牙をかけるとは…ッ、最早見過ごすことは出来ない!」


王座から立ち上がって突然語りだした少年王は、怠惰さんもかくやという迫真ぶりで叫ぶから、ホールに声がこだましている。


「聖龍がお前ではなく王城に来たのは、()()()()()がどちらであるか聖龍にはわかっていたからだ。しかしアイリには聖龍を抑え込むだけの神聖力はない…。民の悲鳴に自分の無力さにアイリは心を病んでしまった…。食事も碌にとらず、部屋から出てくることも無く…。ッしかし、お前の悪行もここまでだ!女神アルヘイラは我々を、愛娘である本物の聖女を見放すことはない!」


力強く振り上げられた拳が、シャンデリアに照らされて、呆気に取られている私の頭の中で\コロンビア/と少年王がダブって見えていた。


「お前が聖龍の力すら奪い闇に落とし黒龍にしたことも報告を受けている。聖龍の反撃を受け、神聖力を封印されたこともな!」


…すごいな、辻褄だけばっちりあってる。移動ルートとか私が出会った人達を調べて筋書きを考えたのか、本気でそう思ってるのか…どっちだろ。


「もしお前が女神アルヘイラより使わされた本物の聖女であれば…、その手に巻き付いた封印をどう説明する?女神の力が溢れるそのブレスレット…、本物の聖女であれば浄化を託されたお前の力をなぜ封じる必要があるのだ。」


「…私が、偽物だから封じてるって言いたいんですね。」


「ああ、その通りだ。…抵抗はやめろ。お前の力はあるべきところに戻す。それまで大人しくしているのならば、お前に危害は加えず…全てが終われば王国法に則り罪を償ってもらう。」


アルたんを呼べない今の私に、ここにいる大勢を納得させることは出来ない。教皇程度の神聖力はあるけれど、そもそも奪った力だって言われてるから証拠にならない。ゼロさんも護衛の皆も、私に篭絡されてるから私の味方なのは当たり前で真偽云々の話にすらならない。途中まで待機してくれてる皆とか、背後のゼロさんから出ていた殺気が無くなって、演説が終わった今も誰も何も反応していないのは証明することができないからだ。と、おもうので。


「わかりました。仰る通りに致します。」


いままでゼロさんのいう事を聞かないで、武力行使というか強行突破ばかりで問題を解決していたツケが回ってきてますね…。外堀を埋めて色んな人と協力してたら、私の為人を知って貰えていれば、こんな風にはならなかったんだろうか。んん、ついさっきゼロさんからの信用も無くしましたしね…。はぁあ、自業自得過ぎてやってらんねぇ~。


「シンジョウ…だったか。お前の悪事を知った今、聖女として扱う事は出来ないが召喚した者の責務は全うしよう。身の安全は保障する。大人しくしているように。」


「ありがとうございます。」


大人しく島国強化中だからね。任せてくれ。少年王のその言葉が最後だったのか、武装した騎士二人が両隣に来て移動を促してくる。おお。罪人ムーブですな。


「リン、」


「大丈夫です。ちゃんと大人しくしてますから。」


篭絡されたとか言われてるゼロさんが、護衛騎士として私につくのは無理だろう。神聖力無くなってもゼロさんは関係なく鬼強だからね。アルたんから任命された『聖女の騎士』も本来はアイリちゃんの騎士としてだから!って言われそうな気がするし仕方ないね。私にできるのは、波風立てずにこのブレスレットをどうにかする方法を考える事かな。


「そんな顔しないで下さい。私は大丈夫です。」


大丈夫、ちゃんと反省してるよ。暫くどころかこの騒動が終わるまで会えないかもしれないのに、そんな悲痛な顔でお別れしないでほしい。ピンチの時ほど太々しく笑うもんだって、有名弁護士がいってたぞ。お手本に笑って見せると、アルカイックスマイルを打ち返された。くッ、これだから顔のいい奴は…!


騎士さん達に案内されたお部屋はとっても普通(異世界貴族基準)なお部屋で、独房じゃなくてとっても安心した。地下牢に連れていかれるかと心配したぜ!


「ベッドふわふわだしご飯も出るし、お風呂も入れる…。天国か?」


いや置かれた現状はまったく逆だがな!晩御飯もしっかり頂き支給されたナイトウェアに着替えて部屋で一人ベッドへダイブを決め、無駄に大きい枕に顔を埋める。ナイスもふもふ。


「私が行動すると、やることなすこと裏目に出そうだなぁ…。」


知らない天井に一人ごちる。うむ、寂しい。せめてサスラたんは返して欲しかった。…サスラたんが獣魔ってことはバレてるのかな?合成獣でも登録したスライムでも人型でも、サスラって呼んでたからワンチャンあるな。


「あとはアイリちゃんのことも気になるし…、」


彼女は何がしたいんだろうか。アルたんの言う通りならまさに何もかも生まれ変わったようなもので、美しくてニューゲームだろう。逆ハーレムがどうとか言ってたみたいだから、わざわざ聖女に拘らなくてもあの美しさなら恋人は選びたい放題じゃない?


「同じ転移者同士、仲良くしたかったなぁ。…歳が離れてるし無理か。」


現役女子高生だっけ。たしか。少年王がめちゃめちゃ大事にしてるっぽいから、よろしくやってるとは思うのでそこは心配してないけれども。


「ほぼケンカ別れとかタイミング最悪だぁ…。」


少年王とアイリちゃんより私の方がヤバイじゃないか。うぐぐ。だってさ、似た境遇のヴルムに死にたそうにされたら、悲しいじゃないか。いずれ私もそうなるのかもって、思わないのは無理だよ…。相談しろって、しても結局壊すのは私でしょ?アルたんの力にこの世界の人間が勝てるわけ無いんだもん、じゃあ結果的には同じじゃないか!


「同じじゃ、無いのか…、」


同じじゃないから怒ってるんだ。ゼロさんが強いからって、突然いなくなって傷だらけで帰ってきたらめちゃめちゃ心配する。ゼロさんは強いから負けないし、傷は私が治すから結果的には無傷だ。でも、心配する。もしかしたら怒っちゃうかもしれない。言ってくれれば一緒に行くのにって。


「ううううううう、」


何度も何度もゼロさんから注意されて怒られて、それでも進歩しない。これは本格的に愛想をつかされるんじゃない?直すって言ったのに有言実行されることはなくて、反省しないし逆ギレするし歯向かうし。そんな、気が強いだけの女なんて、


「可愛くないな…、」


そう言えば元カレにも言われたな。お前は一人でも生きていけるじゃん。とか、可愛げが無いから無理とか。


ビシッとスーツを着こなして、どんなことにも負けずに立ち続ける、そんな格好いい女の人に憧れた。そんな大人の女になりたかった筈なのに。


「ただのクソガキだぁ…、」


自己中心的で自分勝手で、礼儀知らずで厚顔無恥で。思いどおりに行かなければ不機嫌になるような、そんな、


「もうダメポ、」


自己嫌悪で胃が痛くなってきた。でっかい枕を抱き締めて唸るけど、痛みは退かなくて下唇を噛んだ。泣きたくないのに胸が苦しくて、息が詰まって涙が出る。


舐めてたんだ。私は私のものだから誰の指図も受けないなんて、バカみたいに斜に構えて。相談して欲しいって、知らせて欲しいってだけでなにかを強要されたことなんて無いのに、憤って。


ちゃんとわかってた筈なのに。一緒に悩んでくれて選ばせてくれて、私よりよっぽどゼロさんの方が私を大事にしてくれてるって。それでも目先のことに先走って、後で言えばいいやなんて、怒っても許してくれるなんて、ゼロさんのこと舐めてたんだ。


これは完全に終わった。信じられないっていわれたし…。まったく本当にその通りですよ。私の言動に信用できる要素がないもの。これは完全に処される奴ですわ。


「…いや、実際全部終わったら処刑されるのか。」


少年王の演説は事実とはまったく違うけれど、辻褄があってる上に無実を証明する手立てがないから、大人しく従った。それはあのホールにいた恐らく貴族達からすれば、罪を認めたもので。


「本当に、持っていってくれないかな。神聖力も、大聖女も。」


あ、全部無くなると私無職か。その上激弱だから直ぐ死ぬな。この世界の殆どは私より強いってゼロさん言ってたし。聖女じゃなければ必要ないもんな私。世知がれェ…。涙ちょちょぎれそう。今日は独り反省会で夜が明けるな…こんなテンションじゃ寝られない。


「…グズッ、」


「ッリン、大丈夫か?!」


「…へぁっ?」


え。なんかいまゼロさんの幻聴が聞こえた?寂しさと自己嫌悪で可笑しくなったのか?


「何かされたのか?どこか痛むか?」


「…はぇ、え?」


目の前にゼロさんがおる。あれ、私が逃げ出さないようにって、部屋の外から鍵をかけられてる筈だしここは三階だぞ?幻覚?


何故か辛そうな顔のゼロさんの背後、バルコニーの窓が開け放たれてカーテンが揺らめいてるのが見えた。え、あそこから来たの?もっかい言うけどここ三階だぞ?


「ゼロさん…、」


さよならしてたぶん12時間くらいしかたってないよ?現状についていけていない私を他所に、今度はなにも見えなくなって、苦しいくらい抱き締められた。わぁぬくい。幻覚じゃないわ本物だわこれ。


「リン、」


なんで?なんでここにいるの?アレもしかして監査かこれ。現状信用皆無な私がまた勝手になにかやらかしてるんじゃないかと見に来た感じ?それは不味い。多分いまゼロさんとの関係性に王手が掛かってる気がする。無実をアピールしなければ元カレの時みたいにフラれる!ゼロさんにフラれるのはヤダ!


「だっ、大丈夫だよ!」


「…ッ、」


いつの間にかほっぺに当てられていたゼロさんの手を捕獲して、無罪を主張する。もう直談判しかない!


「ちゃんと、大人しくしてる。約束したから…、今度はちゃんとまもるから、」


あ、そもそもこんなことしても信用無いじゃん私。はは、ウケる。ついさっきまでダウナーだった情緒のせいで、力強く言いきるつもりだった語尾が小さくなっていくし、息苦しさが上がってきて下唇を噛んで耐える。耐えれてないけどな!だってゼロさん目の前にいるんだもんッ!甘えてんなよ私ぃ!ほんとそういうとこやぞ!


「ごめんなさい…、」


もうダメだ、失敗してしまった決意表明に誠意など感じられないだろう。謝るしかない。日本人だもの謝罪は得意ですッ!心中が荒れ狂うせいでコントロール不能になった涙腺が勝手に涙を落とす。涙腺の出目が荒ぶってやがる…ファンブル祭りだ。全然止まらないんだけどこれ本当に私の涙腺か?


「…ッ」


自分の涙腺と格闘してたら肌がピリついて、顔を上げたら魔王が降臨してた。ひ、ひぇえ…ッ!お、怒られる?怒られる?!


「少しだけ、待っててくれ。」


「へ、」


「お前を嘲笑った者も傷付けた奴も、皆殺しにしてやりたいがそうもいかない。が、こんな馬鹿げた芝居など続ける必要はない。」


皆殺し?皆殺しって言った?一瞬幻聴かと思ったんですが気のせいじゃないみたいだ。あれ?私の監査に来たんじゃないの?


「んッ…ぅ、」


「ハ…、また明日来るから、バルコニーの鍵は開けておけ。いいな?」


ちゅうされたでござる。…ん?なんで?吃驚して涙止まった。頭がまったく働かないけどとりあえず、オレサマ、バルコニー、アケトク。


「う、うん、」


「いい子だ。」


勢いに負けて何度も頷いたら、破顔したゼロさんにまたキスされて、呆然としてるうちにゼロさんはバルコニーから飛び降りて行った。


「…ぉぅふ、」


なん、なんだったんだいまの。なんだったんだいまの!!


「乙女ゲームかッ!!」


奴はとんでもない物を盗んでいきましたぁあッ!涙止まったし独り反省会で引きずってたマイナスメンタルが強制回復させられた。なにこの早さポケセンかよッ!あと本当に何しに来たんだゼロさんはッ!


ベッドに倒れ込んでジタバタなう。セミファイナルより暴れております。


「あっつい!!」


くっそ、息上がった。心臓爆発しそう。顔熱い。心臓うるさい。うぁあぁあ!!


「…安眠できるわ。」


さっき眠れないといったな。あれは嘘だ。


「…大人しく島国は継続で。イイコ、なので。」


勝手に緩むほっぺを揉んで、早く明日が来るように、よい子はさっさと寝るのだ。


いい夢見ろよ!(´Д`)

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