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美味しいと大抵のことは許せる。

押しても引いても振っても離れないし、さっきの転倒を警戒してるのか手首すら回せない。此奴、私が回復魔法出来るからって痣すれすれの強さで握ってるな?


ギッと睨み付けると、ゼロさんの肩が跳ねてうろうろと所なさげに目が泳いでいる。


「おぶっ、」


「おら、睨んでんなよ。話し合いするんだろ?」


ペチーンとめっちゃいい音を立ててダズにおでこを叩かれた。ぐぬぬ。ちら、とゼロさんを見ればなんか泣きそうだし。まるで私が虐めているみたいじゃないか。


「ここじゃ邪魔だからさっさと宿に帰れ。寄り道すんなよ。」


「これどうするの。」


これ、といいつつ解放されない右手を掲げると、手首を掴んでるゼロさんの手も持ち上がる。


「一緒に連れてきゃいいだろ。嬢ちゃんは考え込みすぎだからちゃんと口に出せ。ロックスはテメェでどうにかしろ。」


「むぅ…、今日は君にお世話になったからな。わかった。」


くい、と軽く引くとゼロさんがそのままついてくる。なんだこれクマの散歩か。


「ゼロさん、手首痛いから掴むなら手にして。」


「ッ、すまん。」


ば、と放されたが今度は壊れ物のように手を握ってくるから、段々どうでも良くなってきた。なんだかなぁ…。


「面倒だから私の泊まってる方で良いよね?答えは聞いてないけど。」


一応確認するとゼロさんが無言で肯いて。そういうおもちゃみたい。まぁいいや。


サスラを起こしてダズに別れを告げる。そのまま大人しく何も話さないゼロさんを連れて、ジョットさんのいる宿へ帰った。


「ただいまぁ。」


「お帰りなさいませシンジョウ様。お久しぶりですロックス様。」


「…あぁ、なるほど。久しぶりだな。」


ホールに入ればすぐジョットさんが現れて、にこにこ笑顔でお出迎えされた。おや、ゼロさんとお知り合いかね。


「ハーブティー入れて。レモンバーム、カモミール、トケイソウでどれか。」


「不眠ですか?」


「お話し合い。」


「でしたらレモンバームに致しましょう。軽食もお持ちしますね。」


「お願い。」


ジョットさんに言われてはじめて、そういえばご飯食べてないな。と思い出した。オネムなサスラをベッドのクッションに寝かせてストールをかけつつ考えていたら、ぎゅ、とゼロさんと繋いでいた手が握られて。いつまで離さない気だこの人は。


「ずいぶん、ジョットと気安いな?」


わぁお。お顔に不機嫌ですって書いてあるよ。いいのかい繕わなくて。なんて返事をするか迷うな。いいや、そのまま聞くか。


「嫉妬?」


「ああ。」


嫌そうな顔のまま、間髪入れずに返事を返されて面食らったんですが。え、その不機嫌、嫉妬なの?…ええー、


「…外見ろって言った癖に?」


「っそ、…れは、」


「…最初に敬語使わないでってお願いされたんだよ。仕える側だからって。だから代わりにチップ弾んで渡してある。」


しどろもどろで言い淀むゼロさんに、うっすら罪悪感を感じて。早口で捲し立てると、そうか。なんて言いながら息をつくから…胸の奥が不安でざわざわして、言われたことを思い出してムカムカして、やきもちがちょっと嬉しくてぎゅーってなる。


「もぉおお!なんなんだ君は!何がしたいんだ!ちょっとそこに座りたまえ!」


勢いに任せて握られている手をぺい!っと外して、床の上(ふかふかカーペット)を指差して叫んだらゼロさんが言うとおりに正座するからもう、もうこの野郎…!


「説明!はよ!」


「っ、その、言葉足らずに無神経なことを言ってすまなかったと、」


それ(謝罪)は後!なんであんなこと言ったんですか?こっちはもうフラれたモノだと思ってたのに恋人だとか言うし!」


「ちが、別れてない!そんなつもりは無い!」


「だからそもそも何であんなこと言ったのかって聞いてるんですよこの野郎。」


思わず両手で胸ぐらを掴んでしまう。ええ、お行儀のいいお嬢さんじゃ無いんですよこちとら。必要とあれば手も出るぞ☆どうせ君にたいしたダメージ入らないだろうけどね。


「そ、の、だな…。」


さっきまでの勢いはなんだったのかという程段々声が小さくなっていくゼロさん。考えを纏めているのか言いたくないのか知らないが、その間に運ばれてきた軽食とハーブティーがテーブルに並んで。ジョットさんが恭しく頭を下げて退出していった。うむ、ハーブティーうまし。


「…リンは、俺以外に頼るモノがいなかっただろう。」


「そうですね?」


レモンバームの香りに癒やされていたら、ふいにゼロさんが話し出した。けど、何の話?転移してきたときの話しかい?


「それをわかっていて、俺がお前を囲ったから…、」


うろうろと泳いでいた目が、今度はカーペットの一点をジッと見つめて動かない。言葉を選んでるんだろうか。


「…リンが俺を選んだのは、すり込みのようなものだろう。」


吐き出された言葉に、何を言っているんだお前は。と。…誰かアスキーアート持ってきて。


「つまりなんですか。私の好意は勘違いか何かで?今節穴でも他の男を見れば正気に戻ると?」


「そ、れはわからないが。」


頭痛くなってきた。思わずゲン〇ウポーズで押し黙っちゃうよね。


「いやあの、私が『貴方の隣にいたい』っていったの聞いてましたよね?忘れた?」


「覚えている!」


おお、そんな身を乗り出さなくていいよ。どうどう。…何やってんだろ私。阿呆らしくなってきたな。


「じゃあなんですか、別れます?ゼロさんから見て私の想いは勘違い。すり込みから来る吊り橋効果で、他の男に言い寄られればゼロさんのことも忘れてしまうんでしょう?」


「…っ、嫌だ。」


ちょっと眉間に皺も寄っちゃうよね。っというか嫌って。何がしたいんですか貴方は。ため息をついて、カーペットに座るゼロさんの向かいに座る。


「ゼロさん私を傷付けたのわかってます?」


お仕事頑張ってゼロさんに褒めて貰おうとかそりゃあ下心ありましたよ。それはしょうが無いよね。それでナンパされて疲れて、癒やされようとしたら恋人はご機嫌斜めで八つ当たりされ。興味も無いのに、()()()()()()()のある異性と仲良くなればいいといわれ。お店にも迷惑かけたし、激おこ案件だよ。


「すまん、悪かった…。」


いたたまれないほど大きな身体を小さくさせているゼロさん。これってこのままだと拙いよなぁ。なにか対策を立てねば。


「わかりました、謝罪は受けいれます。私も散々暴れたのでチャラにして下さい。で、生産性のある話し合いしましょう。今後の関係性についてです。」


「…は、」


「ぽかんとしてないでこっちに座って下さい。ジョットさんが準備してくれたリラックスできるハーブティーです。お腹空くと頭も回らないので食べて下さい。」


「わ、わかった。」


正座しているゼロさんの手を引いて椅子に座らせる。…なんでか手に触れたらビクつかれたけど今は無視。準備されていたお茶と軽食を前に置いて、自分のお茶を追加で入れた。私の勢いに押されてるゼロさん面白いな。


「そもそもゼロさん、なぜそんなに私に対して消極的というか自身を過小評価するんですか?」


私がゼロさんを好きだと言ってるのに、他を知れば私がどこかに行くと思ってるとか私の中のブラックマンバがぶっ飛ばせって言ってるんだが。


「…お前を、泣かせてばかりだろう俺は。」


一瞬夜の話かな?と思う程度に私の頭の中が平和でゴメン。いやさっきのマンバはミミズだったよてへぺろ☆…だって、ゼロさんが悪いって言い切れるの夜しか思い当たらないんだもん。真面目に考えますすみません。うーん、確かに昼間混乱したり恐怖したり驚いたりして涙腺緩んでるなぁ。


「ゼロさんの所為じゃなくて、ジェネレーショ…違うな、こっちの世界と向こうの世界の違いが大きすぎてついて行けてなかったので。すみませんもっとしっかりします。」


「いや、俺がもっと気遣えてやれれば良かったんだが…、女相手の加減がわからず…、」


んえ、つまりエスコートできてないのが良くないって事?


「それに、さっきも言ったがこの世界をよく知らない、来て一月もないうちに俺が、」


「私も好きで一緒にいるのでそれは問題ないのでは?」


「う、…ぐ、そ、うなのか。」


そうなのかってゼロさんデートとかの記憶消えてるのかな。心配になってきたぞ。ふむ、由々しき事態では?改善点はここな気がするし、こちらに損はないから試そう。


「ロックスの声が一番好きなんですよ。低くて落ち着くので。夜は逆に落ち着かないけどもまぁそれは置いといて。」


「…は?」


わぁ呆気に取られている顔だ。今日ポカン顔多いね、読み込み中かい?


「あと撫でてくれたり優しく触れてくれるので手も好き。大きくてごつごつで指長くて剣を握るからか厚み凄いでしょう?私の手と違うのが面白いし格好いいなぁって。」


「なん、」


「身長差がそこそこあるので見上げるのが大変なんですけど、空の色に融けてロックスの髪と目がキラキラして見えるのも綺麗で好き。抱き上げられると睫毛とかも青いの凄いなぁって。距離が近くなるのが嬉しいのでそれも好き。」


「まっ、」


「困ってる時とか焦ってるときに、年上なのに表情が子供っぽくて可愛いなぁって思ってます。笑ってるときも。普段は格好いいのでお得ですね。」


「ちょっと待て…っ、」


「なんです?まだ外見の話しかしてませんけど。」


ジャブだよ。なんて笑いながら、言いたい放題好きなところを上げていたらゼロさんが死にそうなくらい赤面してた。ハハッ愉快。人の好意を疑うからですよ。顔から火が出そうですねっというか、顔どころか手とか首とか全身赤いですね。


「で、私の好意は勘違いだって?」


「…悪かった。」


追い打ちをかけたら蚊の鳴くような声で降参された。体温が上がってるからか涙目で顔を押さえてるの面白いな。


「それに、私もロックスに後ろめたいことあるよ。」


絶賛羞恥に溺れてるゼロさんをおかずに、サンドウィッチが美味しい。鶏肉にオレンジのソースとかお洒落だな。お茶で流し込みつつ言えば、きょとん顔のゼロさんと目が合う。


「『大聖女の騎士』はアルたんが勝手にロックスの職業にしたでしょう?それの所為で私のお守を強制させられて、申し訳ないなって。きっとロックスならどんな仕事でも選べる立場だろうに。本当はやりたくないんじゃないかなぁってさ。」


折角だから私も後ろめたいことを共有しておこう。軽く話す事は出来るけど、気持ちは大分重いのだ。


「…それは無い。」


「結果的にお付き合いしてるから?」


セーフ判定だったかな?と首を傾げたら、ゼロさんもお茶を頂いて、おかわりも入れだした。お、気に入ったのかい?


「俺は、……っお前に会ったときから惹かれていた。もともと『大聖女の騎士』とされる前から、リンが許す限りは行動を共にしようと、その間に信頼を得ようと考えていた。」


「へぁっ?!」


驚きすぎて変な声出た。突然の暴露話に頭が回らない。え、騎士にされたのはじめましての日だよね?その前って、私が吐いてゼロさんがクビになった時ってこと?泥酔してて私の記憶がぶっ飛んでたとき?……え、物好きすぎないかゼロさん。


というか、付き合い始めの時に感じた違和感それか!前から甘い目で見られてた気がしたけれど、初対面から漏れてたんだね…。ゼロさん罪深ッ。


「なんかお互いに恥をかいて相打ちになった気分…。」


お互い脱力してるし。頭の中のダズが『だから話し合えって言ったじゃねぇか。』って言ってくる。五月蠅いやい。


「…恥ついでに言えば、俺はリンより五つも上だろう。」


「逆に私は年下な上にこんななので、子供っぽいかなとか申し訳ないんですが?」


「可愛いとしか思っていない。」


「わーいやったぁ。ゼロさん私にチョロすぎでは。私もゼロさんにチョロいけども。」


「チョロい?」


「私に甘い。」


「それはそうだろう。」


何を言ってるんだお前は。って顔された。解せぬ。なんか可笑しくなってきて、思わず笑ったらゼロさんも笑いだした。これあれだよね。俗に言う痴話喧嘩。サスラ食べてくれないかな?寝てるから無理だな。


「サンドウィッチ美味しい。」


「そうだな。」


「ジョットさんお友達?」


「ダズの執事だあいつは。」


「なるほろぉ。」


サンドウィッチ美味しかった。後で作り方聞こう。お腹いっぱいになると、人心地つくというか安心できる。まぁ今悩みが解消されたという意味でも一息ついてるけど。


「最初から聞けば良かったなぁ。気も張ってたし気を遣ってたし、どうしていいかわからなくて。」


「リンの状況を考えると仕方ない、と思ってだな…、いや、俺も同じようなものなんだが。」


「大人って面倒だね。気を遣ったり慮るのが当たり前で遠回りしてるというか。一周まわって無駄足踏んでるというか。」


「ふ…、そうだな。ああ、そういえば敬語で話すのは人を選んでるのか?」


「本当はこの方が話しやすいんです。毎日仕事と家の往復で、仕事中は敬語ですので。話しやすいだけで、砕けてる方が素なんですが。」


もうこれ以上恥とかないな。と、たぶんゼロさんも思ってるのか他愛も無い話がぽんぽん進む。


「いつの間にダズと仲良くなったんだ。」


「成り行き?昨日追いかけてきて宿教えて貰って。話し合えって言われて。ダズは面倒見いいね。」


「そうだな。気が付くと孤児を拾って来たりするからなアイツは。いつの間にか大所帯になっていた。」


「わぁお。そういう星の下にでも生まれてるのかな。」


笑いあっているうちに、だんだんゼロさんの眼が泳いで酸欠の金魚ばりに言い辛そうになっている。こうしてみてるとわかり易いなゼロさん。


「…今日、その、邪魔をして悪かった。赤毛の男と話していただろう。」


「タイガくん?そうだ、もし今後会うことがあったら謝ってね。失礼この上なかったよ!我々の方が大人なのに。」


「わかった…、言い訳になるが、リンが楽しそうにしていたからその、カッとなった…。」


…ゼロさん結構やきもち焼きなの?ヤンデレフラグとかないよね?怖いんだが。


「話しているだけで嫉妬するのに、よく外を見ろって言ったね。」


にやにや揶揄いながら言えば、眉間に皺を寄せてるけどちょっと顔が赤いから拗ねてるみたい。可愛い。


「悪かったな…。今まで一人で何も問題なかったんだが…、自分でもよくわからん。こうなるとは思わなかったからな。」


ふいっと顔を逸らしてそっぽを向いて拗ねているゼロさんが尊いんですが、恋愛ゲームのイベントだかスチルって奴みたいだなこれ。くそ、写真取れないのが悔やまれる…。仕方ないから心のシャッター連写しておこう。美味しい。(^q^)


「私からするとかなり複雑ですよ…。この世界成人が16歳じゃないですか…。下手するとナンパに来た子のお母さんと同い年でしょう私。戦慄するんですが。」


「それは…、そうだな。」


「しかも何度も30歳だと言っても信じて貰えず、かと言ってお客様を無下にも出来ず…。ストレスが凄いままゼロさんと喧嘩し…。」


「う、…ぐ、すまん…。」


「まぁ虐めるのはここまでにしましょう。いまゼロさんが可愛いのでチャラです。」


頭大丈夫か?みたいな憐みの眼で見てくるのを止めるんだ。可愛いって大事なんだぞ。カッコイイだけだと、かっこ悪い所を見たら冷めちゃうけど、可愛いならかっこ悪かろうがダサかろうが何しようが可愛いから許せるんですよ。ちなみにソースは赤ちゃんな。


そんなことを話していたら、心ここに在らずでそわそわし始めたゼロさんと目が合った。なんだい?


「その、今日はここに泊まるとしてだな…、明日からは元の宿に戻るか?」


「んん~、悩むなぁ。ベッドふっかふかだし至れり尽くせりだし個室にお風呂あるし。」


「ならここに移動するか。」


「問題はここがダズの持ち物で、…私の予想だとダズの職業は盗賊とかのシーフ系だと思うんですが。ダズは割と気が利くことが判明したから野暮なことはなくても、下の人達はわからないよね?という。今も盗み聞ぎされて、ウォンカ翁とかに報告されたらやだなぁ…。って。」


そういって、ちら、と閉まっている扉を見つめる。…うん、『いる』気がする。ジョットさんが控えてくれているんだろうけども、スキルとかで聞かれてるかと思うと微妙よね。聞かれて困るような事話してないけど。


「ということで、ゼロさんだけ帰りたまえ。仲直りはしてすっきりしたし。」


「なんでそうなる。」


む、と膨れたまま立ち上がったゼロさんに詰め寄られて、ちょっと焦る。


「明日にはそっちに戻るよ?今日はもう遅いから、」


「俺がいるのが嫌なのか…。」


「ちょ、違うから。落ち込まないで落ち着くんだ。」


きゅんってなるからしょんぼりしないでくれるかなあざとい!単純にさっき言ったことがすべてだよ!


「だから、盗聴対策できてないからやなの。ダズは信用してるけどその他大勢は無理なの!ダンくんに防音障壁とか作れないか聞いてみるからそれまで待っ、おわっ!」


「…リンは何と戦っているんだ?というか『ダン』とは誰だ。」


ひょい、と痺れを切らしたように抱えられて覗き込まれる。人の逃げ場潰すの止めて貰えます?


「ダンくんはサスラの中の『断罪履行生物くん』の略称だよ…。本日会話可能な事が判明したから命名しました。」


あと戦ってるというか、警戒してるだけです。私の弱みとかもろもろ、誰から誰に漏れて何をされるかわからないから。わたしが弱いから怯えてるだけだ。味方と笑う神を後ろ盾に、憐れみながら切っ先を突き付けてくる王を隣に、傅きながら足に爪を立ててくる信徒を下に。両手は魔物とモンスターを浄化して、人がゆるゆると首を絞めてくる。私の中の聖女は、そんな中心に立っている。


「俺の居場所はないのか?こうしていれば人も信徒も触れられないだろう。浄化はリンがいるだけでいいんだろう。ダンはサスラの中で妖精王の許可もある。お前に俺を付けたのが女神なら、抱えていても問題はないな。」


勝ち誇った顔で言い切るゼロさんに、じわじわと笑いが込み上げてくる。


「ふはッ、あははッ!」


「考えすぎるのも心配しすぎるのもリンの癖だな。起こってからでも大抵の事は対処できる。俺も、サスラもな。」


「…ふふッ、そうですね。」


「心配なら相談しろ。」


「うん。」


確かに、いくら私が心配したところで思いつくことも出来ることも限られている。本当にどうにかしたいと思うなら、広く意見を求めて対策を練るべきだ。まさかこの世界にきて一番苦手な『人に頼る』ことが必須になるとは。…まずはゼロさんに共有することから頑張ろう。この人は私が何を言っても聞いてくれるし、一緒に考えてくれる。


「ゼロさん大好き。」


嬉しくて思わず漏れたけど、存じ上げられてるから問題ナッシングだぜ。今日もぐっすり寝られそうで何より!ここのお風呂も今日で終わりだししっかり楽しんで明日は


「んッ」


かぷ、と口を食べられて肩が跳ねた。なん、びっくりした!


「ちょ、…んぅ、ッゼロさ、ッ!」


ちゅ、ちゅと音を立てながら唇を舐められたり吸われたり好き放題されて、顔が熱くなってきた。…って、流されるな私しっかりしろ!楽しそうなゼロさんを止める為に口が離れた瞬間に手で塞ぐ。


「…邪魔なんだが。」


「いや、あの、駄目だってば。私は聞かれているかもしれない状況で睦み合う趣味はないです。」


ノットアブノーマル。いや、だってなにプレイだよ。ヤダよ!そんな怒ってもダメだからね!


「聞いているかわからないなら、聞いていないかもしれないだろう。」


「わッ、こらこらダメだってば!」


ボスっとベットに落とされてそのままゼロさんが覆いかぶさってくる。ややややばい!食われてたまるか!


「まだお風呂すら入ってないのにいいわけないでッひゃッ!?」


「…別段汚れてもいないが。」


な、舐めおったこやつ…。お腹壊すよ!


「ダメです。もうお風呂入るのでお引き取り下さい。」


ただでさえ珍しくクエストに行っているのだ。埃っぽくなってるし汗かいてるしむりぽ。入らないと私の尊厳が死ぬ!


「…一緒に、」


「何もしない?」


「……。」


「素直か!」


自分で提案しておいてそろっと視線をそらしている辺り、うそつけなさすぎでしょう。


「…我慢する。なら、いいだろう。」


「え、本気で一緒に入る気かい?」


珍しくゼロさんがぐぬぬ、ってなってる。どれだけ帰りたくないんだこの人。明日には戻るのに。…明日大丈夫かな私。


「風呂は無理だが寝るなら…なんとか。」


「うーん、じゃあいいよ。」


風呂は無理なのか。人間葛藤してるとこんな感じなんだね。凄い真剣に思い詰めてるように見えるのに、内容くだらなくて面白いな。


本当に泊まる気でいたらしく、お風呂入って戻ってきたら暫く唸った後に帰って行って笑った。強制しないのいいところだと思うよ!





うちの三十路共は格好良く仲直りしたり決めゼリフがあったりなんてしないのだ。


痴話喧嘩なんて大体くだらない理由ではじまって、相手に絆されたり仕方ないなぁって仲直りする。


かっこ悪いままモダモダ戯れているがよい。

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[一言] 雨降って地固まるですな。 拗らせ方が双方可愛い件(笑)
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