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休みの日の1日は体感30分。

「ぉああ、しあわせ…。」


指先に、爪先に。血が巡ってしびびび、ってなるよねぇ。身体が。気持ちいいと、声が勝手に出るんだなぁ…生理現象だきっと。ふわふわな頭で、何度も似たような感想が湯気と一緒に浮かんでは消える。お風呂、最高である。


「綺麗になるし、良い匂いになるし、手をかけるほどピカピカになるし。」


良い事尽くしだよね。血行促進マッサージなう。でもそろそろ上がらないと、茹で蛸になりますわ。頭くらくらしてきたからね!


「サスラ、出るよ?」


ぷかぷかお風呂で浮かんでいるサスラに声をかけると、濡れてつやんつやんに光を反射しながら、こくりと頷いた。


「あれ、ゼロさんおかえりなさい。」


サスラのつやボディを拭いて自分の髪を手入れしていたら、ゼロさんが戻ってきた。なんで部屋の入り口で立ってるんだい?とっとこ近付いて、ごはんの入っているだろう紙袋は回収させてもらうぜ!買い出しありがとう!


「…お前は。」


「うん?」


「服を着ろと言ってるだろうが…ッ!」


「いふぁいいふぁい!」


今日のご飯はなんじゃろな?って中身確認しようとしたら、ほっぺ左右に伸ばされたでござる。なにゆえ!?むいむい引っ張られて微妙に痛いんですが?!


「服着てるじゃん!」


ぺいっ!とゼロさんの手を払いのけて、ほっぺをさする。なんてことするんだ…、冤罪で罰を与えるなど。ゼロさんのシャツ着てるから装備はしてるぞ。踏ん反り返ると、頭痛が痛いみたいな顔で溜息つれたでござる。遺憾の意(みかんのみ)


「自分の服を着ろ。」


「ええ…、だって楽なんだもん。」


Tシャツにジャージとか無いんだもんこの世界。ゼロさんのシャツ、オーバーサイズで丈感ちょうど良いんだよね。図ったかのようにばっちり膝上。もはやワンピ。風呂上がりって熱いし、今いる街は大体常春気温だし。


昨日に引き続き、今日もなんにもしないで休む許可を貰ったから、もう全力でだらだらする気でいるからね!恰好から入るタイプ!働いたら負けだと思っている。キリッ。


「服くらいはちゃんとしろ。」


「部屋着きてるもん!外でないのに!オフトゥンでゴロゴロするのだ私は!」


ぺそっとテーブルに紙袋を置いて、ベッドへダイブなう!現代ほどじゃないけど、高い宿屋だからふかふかだぜ!モフモフ最高!ベットでお昼寝に興じようとしていたサスラが、飛び込んだ私の余波でポインって跳ねた。ごめん。うつ伏せで枕をかき集めて、駄々っ子の様に足をバタつかせる。うぉおお!唸れ私の脚力!


「…そうか。何度言っても聞き入れないようだな。」


「へぁッ?」


がしっと足首がゼロさんの大きい手に捕獲された。そのまま右足が引っ張られて、仰向けに回る。ああああぶねッ!見苦しものがちらリズムしたらどうするんだ放したまえ!


「俺は、言ったからな。」


「ん、ぇ?」


ベッドへ乗り上げてきたゼロさんが、思いの他至近距離にいた。と言うか、私の上にいたわ。近ッ!這い出ようとしたら、捕まれた足首から折り畳む様に太腿に向かって手が下りてきて。


「ぅひぁッ!ちょ、ゼロさんくすぐったッ、ゃんッ!」


太腿の内側、脚の付け根に指がかかる様に手を置かれて、ビクッと身体が跳ねた。そのまま左手がシャツのボタンの間から中に入って、お腹から胸に向かって上がって来たあたりで頭の中のセンシティブさんが警報を鳴らす。反射的にガシッとその手を抑え込んだ。


「ぇッ?ヘッ?」


な、なんで突然ヤる気スイッチ入ってるんだい?意味がわからないよ!ぎしっと軋むベッドに冷や汗が流れる。あ、あれ?これ拙いのではないかね?


「そんな格好でいるんだ。誘ってるんだろう?」


「んんん?!違いますがッ?!」


完全に覆い被さられて、思わずゼロさんを押し退けようと力を入れるけど、まぁ無理だわな!ビクともしないんですがッ?!ちかいちかい!


「ちょッ、やめ…ッ、朝だよ!?」


昨夜致した記憶が消えているのかキサマ!何を言っているんだお前はフェイスが出来るような余裕なんて無いけど、じりじり近付いてくるゼロさんを叱咤すると、平然としたすまし顔で。綺麗な顔しやがって!


「お前が勝手をするなら、俺が何をするのも自由だろう。」


「ごもっともッ!」


くっそ言い返せないわこれ、アカンこれ。ダブスタはよくないもんね!OKブラザー!


「まッ、着替える!着替えるからッ!」


少しづつ上がってくるゼロさんの手が、強制終了のカウントダウンの様で冷や汗が出る。そんな私におかまい無しで、目の前のお兄さんは悪い顔をしているしね!


「…別にこのままで構わないぞ。俺の服を着ているのもリンの華奢さが際立ってかなり扇じょ」


「ッストーップ!目がヤバいッ!色気出すのやめよう?すみませんでした!」


物理的にゼロさんの口を手で塞ぐ。何口走ってるんですか目が捕食者みたいになってますやん!頑張れ私、負けるなッ。甘い雰囲気を無理矢理にでも霧散させなければ、今日一日足腰起たなくさせられてオフトゥンと親友にさせられるぞ。奴は本気だ。


「っ、」


「…フッ、」


ど、どうする?助けてライフカード!思わず目が海水浴を楽しんでいたら、口を塞いでいた手の平をべろっと舐められて。跳ねた肩と熱くなる顔に、ゼロさんを睨みつけると、ご機嫌に嗤われてしまった。ぐぬぬ、エロテロリストめッ!これが大人の余裕かッ。


「わっ、」


ぐぬぐぬしていたら、引き抜くように持ち上げられて、定位置に座らせられたなう。お腹にしっかり回された腕と、背中に感じるゼロさんの体温に、つい安心して身体から力が抜ける。ジャストフィットなう。


「楽しみは夜にとっておくか。」


「忘れてくれて良いよ…、」


ご機嫌だぁ。思わず脱力して減らず口を叩いてしまう。悔しみが深いゆえ。


「今すぐ楽しみたいようだな。」


「ひゃッ!夜で良いですッ!」


間髪入れずに抱き竦められて耳元で囁くものだから、ビャッと身体が跳ねた。見ろこの手の平ドリルを!柴ドリルだったら毛が逆立ってるよ?腰擦らないでくれるかな?!


「くっ…ふ、ふふ、すまん。」


「むぐぐぐ、」


何故かゼロさんが笑っておる。不可解。いや、無茶苦茶からかわれたのはね、わかってるけどね…わかりたくないでござる。乱れていたのか、髪を撫で直されて。そのまま後頭部に口付けられた感触がする。


「拗ねるな。」


甘い楽しそうな声に、正直もう八割五分くらい許してるけど。良い声しおって。声も容姿もよくて、おまけに良い匂いもする。欲張りセットか…我が侭ボーイめ。


「リン。」


ふーん(´_ゝ`)そんな優しく呼んでも知らぬ知らぬ。恋愛経験値が低くてすみませんね。どうせ滑稽ですとも。への字に曲がった口も、見えないだろうと膨らんだ頬も、この機嫌の良さ的にバレてるんだろうけど。知らないもんね。


「拗ねてない。」


ふい、と顔を逸らすと、捕まっている右手が視界に入った。ゼロさんに抱えられると、最早癖のように手を握られて、一通りもちもち遊ばれて、指を絡めて握られるんじゃ。現在進行形のそれをぼんやり見ていたら、


「リン、」


握られた手に口付けられて、悪かった。と、謝罪された。…声が笑ってるの、気が付いてるからね。絶対忘れた頃に報復してやる。一人お腹の中で決意を漲らせて、表面上許すことにした。大人ですからね!原因は私だって?アーアーキコエナイー(∩゜д゜)。


ちら、とゼロさんを窺い見たら、目があって横抱きにされた。そのまま、楽しそうに私が話すのを待っているのがわかるから、握られたままの手を緩く握り返す。むぐ…、右に左に眼が泳いだけど、とりあえずなにか言わねば。とは、おもうんじゃ。あ、そうだ。


「…ゼロさんもサスラとお出かけしよ?」


「ああ、わかった。」


合格発表の時に、テイマーギルドのカード発行されたからね。やっとお出かけが解禁されたんじゃ!街にくり出すのだ。ふんすふんす息巻いていたら、ちゅ、とこめかみに軽い感触とリップ音が響いて。


…ぅ、ゼロさんのスキンシップが激しさの一途を辿っている。ここら辺でビシッと一言申すべきでは?嫌なわけではないけど、その、心臓に負荷がかかってるからね。恥ずかしいから!


「ゼロさ、んぅ」


顔が熱いのはキリがないから無視して、気合を入れて目を合わせたら、顎を掬われ。当たり前のように唇を食べられた。


「…ん?どうした。」


鼻先が触れる距離の青い瞳に、光が差し込んで…水底の中に私が映り込んでいるのがわかる。柔らかく微笑む雰囲気が、幸せって、聞こえるから。


「…ぉぁあ、」


すごいでれでれだね、うん…。あまいめでみるのやめて…色男の圧に心機能が異常をきたすわ。耳どころか全身熱い。頭がグラグラする。うぅ、意識するな意識してはならぬ。意識したら最後、機能停止ガ〇ダムになるのは目に見えているのだ。


「リン、…リン?」


「…ッ、わかっててやってるでしょうっ!」


耳元で名前呼ばないで、声が響いてぞくぞくするんだよ腰抜ける、ッキスしてこない!笑ってるのも聞こえてるんだよぉっ!なに睨まれて嬉しそうにしてるのかね君は…、ちょ、やめんか押し倒すんじゃな、ゃ、んッだめだってば足撫でないでちょっとま、ぁッ、おいカメラとめろぉおお!


------ 終了 ------


はい。着替えて持ち直したよッ!(クソデカボイス 朝なんて存在しなかった。いいね?そんなことより、やっと、やっとサスラを堂々と連れて歩けるよ!ハレルヤ!


「はぁあ、長い戦いだった…。体感で言うと一月かかった気がする…。」


サスラを抱えたまま首が傾く。お待たせ、待った?なんて、サスラに言いながらモチモチ撫で回す。


「出かけると言っても、どこか見て回るのか?」


もしくはテイマーギルドで依頼を受けるしかないが。そう言うゼロさんに、ちっちっち。と指を振る。わかっていないなワトソン君。


「この間デートの時に発見した、怪しい魔道具屋に行くのだ!」


「…正気か。」


頗る正気だが、何か問題でも?ツヤツヤしやがってこの野郎。前回意気揚々と店の前まで行ったら、ゼロさんに引き止められて中に行けなかったからね。店先にあったうさん臭いマンドラゴラの瓶詰とか、ショーウィンドウにあった革表紙の魔道書とか、明らかに綿埃なケサランパサランとか見たいんだもん。SAN値なら昨日今日でかなり回復して黒字だよ。たぶん89位あるわ。


「しかしな…、」


むっちゃ渋るねゼロさん。デートの時に知ったけど、一般的にタコっぽい生き物とか海産は『グロテスクで気色が悪い』らしい。そういえばヴォイスさんにご飯作った時も、タコ捌いたら複雑そうな顔してた。まぁ日本人からすれば美味しそうにしか見えないんだがね!


…仕方ない、あんまりやりたくはないけど、最終奥義を使うしかないようだ。


「おねがいロックス、いっしょにいこ。」


必殺、『露骨にあざといおねだり』…端的にいうと小首傾げて困り眉毛に涙目。身長差あるから自動的に上目使いだし。地の利は我にあり!


「ダメ?」


ついでにゼロさんの指先だけ握って軽く引っ張ってみる。自分の年齢と羞恥は全力でしまっちゃおうねェ。こういうのは正気を保つとカウンターで死ぬからね。


「…ッ、少し見るだけだからな。」


「やった!ゼロさん大好き!」


本当になんでこれが効くのか謎なんですが。赤面してるゼロさんに心の中でツッコミを入れつつ、説明されてもメンタルファンブルしそうだから蓋しとこう。


と言うことで、ぁゃιぃ魔道具屋なう。うむ。今日も薄暗くて雰囲気あるね。天井からは乾燥した植物やドリームキャッチャー(魔)みたいなのがぶら下がっているし、掃除が行き届いていないのか四隅に蜘蛛の巣が張っている。むしろ雰囲気に合っていてよき!ぼろぼろの埃が積もった棚には、ごちゃ混ぜの本が収まっていたりブックエンドの様に横倒しになっていたり。ガラスの小瓶にピンクの液体。油紙で封のされたスキットルの周りには赤黒い染み。うーん、見ているだけで楽しい。ヴィレ〇ァン並みのごちゃごちゃ感と圧迫感。


「ハッ!ゼロさんこれ、レンのガラスだって。こっちは銀の鍵って書いてるよ?」


「…楽しそうだな。俺にはよくわからないが…。」


棚に並んでいる小物を指差しては、矯めつ眇めつ一人で鼠列車な動きをしてしまう。だって触って良いって書いてないからね!商品の真贋はさておき、ネーミングから混沌の香りをかぎ取ってわっふるわっふるしちゃう。


ネクラロリコン(魔道書)とかありそう…!」


「魔道書なら魔道士ギルドに行けば売っているぞ?」


「あ、そう言えばそうでしたね。」


剣と魔法の世界だもんねココ。それにしても、やっぱり中二だったりうさん臭い感じの名前って、世界どころか異世界でも共通なんだね。棚に並んでいる本には『世界終焉の勇者』とか『☨暗黒騎士☨』とか、背中が痒くなりつつも心がちょっと引かれるタイトルが並んでいる。き、気になる…!


「その辺りは、リンには読み辛いと思うが。」


kwsk(クワスク)…じゃないや、どういう意味です?」


「その辺りの著者は、言い回しが難解で有名だからな…。リンの言語力が日常会話程度だろう。一般的な本は読めるが、遠回しや比喩、喩え、表現が独特なものは難しいんじゃないか?」



「そういう感じの本かぁ。」


愛工作先生みたいな文章で書かれてるのかな。背表紙を流し見していると、ふと違和感を感じる。もう一度、通り過ぎた棚に戻り、今度は一つ一つのタイトルを確認しながら進んでいく。


「何か気になる物でもあったか。」


不審な動きをしてる私の背後に、ゼロさんが立って。ちょうど影が重なった場所に、違和感を感じた白いハードカバーの本を見つけた。


手に取れば、中々年期の入ったぼろぼろ具合で、端はすり切れ紙も薄く、綴じ紐が浮き上がっている。タイトルは『世界の大全集その①世界の成り立ちと大陸』


ぱら、と1ページ捲って、すぐに違和感の正体がわかった。


「ゼロさん、これ、このシリーズの本が全部欲しいです。」


「…店主に確認しよう。店にある分なら全て買えるが。」


「出来れば、中を確認したいです。可能であれば。」


「わかった。少し待て。」


何も聞かず、店の奥へ歩いて行くゼロさんを横目に、もう一度本を開く。一番最初、本のタイトル。2ページ目には目次…ではなく。


『ここではない、別の世界の貴方へ。この本が、どうか貴方の役に立ちますように。』


手書きで書かれたそれは、間違いなく日本語だった。その下には英語や中国語、恐らくドイツ語などで訳されている。そして、それらは全て文字の劣化具合が違う。…恐らく、後から読んだ者が、書き足していったんだ。


「リン、この店にはその本以外に同じシリーズは無いそうだ。」


「そうですか…、ありがとうございます。」


文字の上をそっと撫でて、店内を見渡す。…この本と同じ違和感を感じる物は、無いな。プーカの視線やアルたん達のお陰か、神聖力の所為かわからないが、『感』としか言いようのない、漠然とした力が生まれていた。


『見られている気がする』『違和感を感じる』『嫌な予感がする』そんな虫の知らせのような不確かな。でも、何故かこういった場面においてそれは『確信』出来る。いま何も感じないのは、私の探している物が本当に店内に存在しないからだろう。


この店に入ったこと自体は、偶然なはずなのに。まるで()()が私の手に渡るように、仕組まれているようで、見えないものに操られているようで。どくどくと、せり上がってくる吐き気と不快な気分に負けないように、下唇を噛んだ。


「わっ、…何をするか!」


突然、髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。犯人の手を確保すると、捕まえていない手で髪を整えられたでござる。…なんだね?


「他にほしい物が無いなら、他の店も見るか。今日はサスラと出かける日、だろう。」


訝しげに見上げていたからか、ゼロさんの手が伸びてきて眉間を解された。そのまま瞼に指が滑って、頬を撫でられて。


「それは帰ってから読めば良い。俺もいる。」


「…うん。へへ、そうだね。」


大丈夫だって、ゼロさんが笑うから。安心感極まる!うむうむ。さすが元保護者ですな。ナイス精神安定。今日は楽しくお出かけなのだから、他のことは帰ってから考えよう!サクッとお会計を済ませて、本はリングの中にしまった。


「うーん、サスラのものが買いたいなぁ。最近よく寝てるから、クッションとか、タオルケット?」


「それなら商業ギルド内にある複合店舗か、このまま大通りの小売り店から好みを探すかだな。」


店外へ出ると、ひょい、と手を繋がれて、それに気が付いたサスラがゼロさんの肩に移動してそのまま動かなくなった。…寝た?


「サスラ、本当によく寝るなぁ。…病気じゃないよね?」


「リンが毎食与えている神聖力で治らない病だとすれば、この辺り一帯が瘴気の焦土でもなければありえんな。」


それもそっか。うーん、でもなんだろう?ご飯はしっかり食べているし、起きてるときは特に何も訴えてこないのだ。とてもよい子に過ごしている。たまにゼロさんと謎のじゃれ合い(戦闘)が挟まったりしているけども。


「成長期とか?」


「…そもそも、スライムからホーリースライムになったからな。スライムは食べるものによって進化するが…本来なら、もっと段階を踏んでいる筈なんじゃ無いか?」


「うんと、スライムの次はビックスライム。みたいな?」


思い付くのは、多分元の世界で一番有名なスライム。王冠を被ったぽっちゃりになったり、クラゲみたいになったり、可愛いよね。


「スキルに分裂や増殖なんかが増える。とギルダー先生が言っていたな。サスラにはそれが無い…もしかしたら、身体が力に追いついていないのかも知れない。」


「スキルって技能だっけ?つまりサスラは小学一年生で飛び級して大学生になってて、身体は小学生だから筋力や身長が劣るのもむべなるかなって感じか。」


ううん、成長痛。で、いいのかな。力に合わせて、身体が無理に成長しようとしている…蛹のように、生きているけど眠ってるのに近いか。


「クッションとタオルケット買ったら帰ろうね。はやく身体が馴染むと良いんだけれど…。」


ゼロさんの肩のサスラをそっと撫でる。私に引き摺られて、無理をさせているのだから申し訳ない。ごめんね。


「…講習で聞いたと思うが、サスラがリンを受け入れなければ、テイムできないんだ。従魔になったということは、サスラはリンの側にいる事を望んでいる。謝らなくていい。」


「…うん。」


「モンスターや魔物が強さを求めるのは本能だ。謝るより、沢山褒めてやれ。」


「うん、わかった。」


そうだよね。私が心配するよりサスラはずっと強くて、私を仲間だと思ってくれてる。護るために、強くなってくれてるんだもんね。


「起きたら沢山褒めねば!」


頑張りに見合う報酬を!わが社はホワイト企業ですから!フンスッと気合一発。言葉以外にも行動で示さねばならぬ。両方が合わさることで最強となるのだ。という事でご褒美を買いに行くぞい!


「サスラは真っ白だから、何色でも似合うなぁ…。」


「核の色が金だから、暖色にするか?」


「そうだねぇ。私が寒色ばっかりだから、逆にそれもいいね!」


青系の緑とか緑系の青とか、好きな色って無意識に買っちゃって増えていくよね。私の持ち物、全部ワンポイントに青系の色が入ってるわ。


「ハッ、ある意味推し色なのでは?」


モフモフのオレンジ色クッションを持ったまま、私の言葉にゼロさんが首を傾げていて面白い。大きい男の人が可愛い物持ってるとギャップ萌えがすごいね。


「好きな人のイメージカラーの小物を持ったり、服を着たりするとメンタルが安定するでやんス。私は元々寒色が好きだから、むしろゼロさんが収集物の一つの可能性が微レ存…?」


「…誰が収集物だ。そこは俺の色だからと言う所だろう。パートナーの髪色や瞳に合わせた色を身に着けるのは一般にもあるぞ。」


「ゼロさんは私の色が目も髪も黒色(まっくろくろすけ)だから特筆して身に着けてないのに、私は差し色含めると全身寒色入りだから、はたから見るとゼロさんに盛大な片思いして見えてるってことか!」


ゼロさん髪と目が青系統だもんね。とんでもないことを知ってしまったぞ。なんていいながらショールを漁っていたら、夕日の様なグラデーションが綺麗な一品を発掘した。おお、これは良きなのでは?


「ゼロさん見てみて、凄い綺麗なの見つけ…、うん。大丈夫かい?」


「んん゛、」


戦利品を広げながらゼロさんを見たら、あらぬ方を向いたまま固まっていた。耳が赤いよどうしたの。そんなに強く握ったらクッション変形しちゃうから、棚に戻した方が良いと思うよ?あ、でもそれ買っちゃおうか。円形クッションに、暖色で模様が刺してあってかわいい。カシミールのアーリ刺繍に似てる。よし、これにしよう。


「…すまん。」


お買い上げして戻ってきたら、謝罪されたでござる。


「貴様、さては、周りからそう見えてることを知っていて黙ってたな?」


買ったものをポーチにしまいしまいしつつ、ゼロさんを見たら目が泳いでた。いや、良いけどね。そんな乙女なムーブしてるなんて知らなかったけど、知ったからって着替えたり脱寒色とかしないから。それより耳を赤くしてるゼロさんの方が面白いし。


「あれ、でも逆に私に自分の色を着せてる…、束縛してるように見えたりしないの?」


「…見えるだろうな。」


ほほう、なるほどなるほど。居心地悪そうだね。片方だけだとそんな惨事になるのか。マーキング的な?ほぼほぼ一緒に行動してるのに。いや、だから余計に目立つのか。


「ヒューゥ!独占欲の強い男だな!」


ここぞとばかりに囃し立てたら、ちょっと強めに睨まれた。でも怖くないもんね!ニヤニヤしてたらフッて鼻で笑われて。


「今更知ったのか。」


「開き直られた!ふっふふ、ちょっと待って、」


確かにこっちに来てからずっと一緒にいるけどね?そんなに付き合いは長くないでしょう。いや、こっちで関わった人達の中ではダントツに長いけれども。好意を知ったのも最近なのに、今更ってドヤ顔で言い切られて可笑しくて、ちょっと笑いのツボに入ってしまった。


「…笑い過ぎだ。サスラを寝かすんだろう。」


「ん、ふふ、そうでした。」


軽く手を引かれて歩くのを促されるのも、それだけで何故だか笑えて困る。箸が転がってもおかしい年頃なう。さて、今日買ったものは向こうの既製品みたいに糊付けされていないから、水通しとか要らないかな。一応浄化したからピカピカですしお寿司。宿に戻ってから、枕元に買ってきたクッションを置いて、サスラを乗せてからショールをかけた。うむ、ばっちり。可愛い。我大満足である。


「明日はギル先生にお呼ばれですよね?」


「ああ、テイマーギルドに来るよう言付かっている。」


なんじゃろな?今後の予定的には、一先ずサスラを連れて歩けるようになったから、もうこの街にいる必要はない。今日見つけた本は読みたいけれど、旅の合間にも読めるし…。あ、聖物のチェックもしなくちゃいけないのか。すっかり忘れてたんだぜ。


「SAN値も回復したから、お仕事頑張りますかぁ。」


「…まだ今日(休み)の内だろう。明日の朝までは大人しくしろ。」


差し出された手にはお菓子が摘ままれていた。あ、これこの間くれた金平糖と雛あられの間みたいな食感のお菓子。ノット警戒心で口を開けたら、予想通り中にお菓子が飛び込んできて。うーむ、うまし!


「ゼロさんが全力で甘やかしてくる…。」


「なんだ、不満か?」


楽しそうにお菓子を放り込んでくるゼロさんに、もぐもぐしながら首を振ってみる。


「甘やかされるのが当たり前だと勘違いしないように、自分を律して生きねばと思う次第。」


「ふ、説得力がないな。」


「今日はセーフってゼロさんが言ってたので、文句はゼロさんに言ってくださーい。」


キリっとキメ顔で言ったら、口の端を拭かれたでござる。おお、なにゆえそのようなところにお出かけしておるのだ貴様。


「明日、ギル先生のお話が終わったら街の外に出たい。出立でも、お出かけでもいいんだけど…。人目のつかないところがいいなぁ。」


「…聖物か?」


難しい顔で呟くゼロさんに頷いて、ピアスに触れる。


「たぶん、大丈夫。私も、ゼロさんも。ただ、人目に触れるのは不味いと思うから。」


「そうだな…。わかった。」


私にしか使えない、私だけの最終兵器。少年王の欲しているもの。一体何が出てくるのかはわからないけれど…。発狂した前聖女が無意識に人を殺めてしまうようなもの。今の私で、はたして扱いきれるのか。…うーん、案ずるより産むが易しってことで。ここまでの積み重ねと自分を信じるしかないな。










ちょっと私用で更新頻度が牛歩と化してますごめんね!気長にお待ちくだされ!

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[一言] 何が出るかな♪何が出るかな♪って感じですね〜(笑)
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