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ここで装備していくかい?

ゼロさんの説得に成功したので、アリアさん達とお出かけなう!神殿の外に出たら豪華な馬車が待っていた。街中までそんなに離れていないのに、驚いたよね。


みんな、さも当然のように馬車に乗せようとしてくるから、後退っちゃった。こんなので街中に行ったら悪目立ちだよ。歩いて行きませんこと?


きょとん顔をされたけれども。…おしゃべりしながら歩けばあっという間についちゃうよ。立派な脚は飾りじゃないのですん。


そういえば、護衛についてくれたお姉さん二人は、ファタさんとファルマさんという、褐色美人さんでした。他国出身で、元修道女なんだそうです。甲冑は目立つから、私服に剣を刷いてもらっている。


護衛を任されるほど強いって、すごいな…。それにしてもこの空間、顔面偏差値高くないかい?私だけ画素数低いバグに罹ってるんだが。プログラマー許さぬ。


「シンジョウ様はどんなお色がお好みですか?」


「青系かなぁ。綺麗な色は何でも好きだけれど。」


「甘いものはお好きですか?この通りに人気のお菓子屋さんがあるんです。」


「わぁ、いいねぇ。帰りに買っていこう。」


『聖女様』と街中で呼ばれるのは拙いので、名前呼びに変更してもらったのじゃ。おすすめのお店に向かいつつ、情報収集されています。多分後でウォンカさんにわたるんだろうな。私の趣味趣向の情報。それより、


「ついてきてるよね。」


「ですわね。」


「追い払いましょうか?」


ドン〇バチョ似の教皇の後ろにいつも侍っていたおっさんが、店二軒程の距離を保ってついてきている。…やっぱりフラグを建設してしまっていたようだ。ガッデム。


ちなみになんでわかったかというと、ガバチョ(仮)教皇が派手好きなのか、すごいギラギラしてるんじゃよ。服飾品が。今日みたいな晴れの日には、日光を反射してピカピカ輝いてるから気になっちゃうよね。光魔法かよ。


護衛のファタさん達だけじゃなく、素人の私やアリアさん達にまですぐにバレているあたり、尾行の人選間違っておるな。…もしくは、独断先行?


「ほっとこう。まだ害がないのに手を出すと、言い掛かり付けられるかもしれないし。」


「わかりました。注意を払うのみにいたします。」


「ありがとう、よろしくね。」


人を使う感覚は、なかなか慣れないけれど。自分に出来ないことを補ってもらっている。というスタンスでメンタル保ってますなう。だからお願いでいうし、お礼もするぞ!みんな最初は困惑していたけど、諦めたのか慣れてくれた。うむ。よきよき。


「シンジョウ様、こちらです!」


「お、おおお?」


なん、なんだこれ。デイジーさんが案内してくれたのは、本日の予定地。でもこれ、どう見ても…。


「スチームパンクだ…。」


外観は普通のお店。しかし、店舗前に立つマネキンに着せられている服は、例えば貴族のようなドレス。ただ、装飾がガチガチのレザーコルセットや編み上げのブーツ、はたまた大きなバックルや飛行帽。膝丈のフリルスカートに、全体的に彩色低めで装飾用金具多め。ええ…、本格的にわからなくなってきた…。


「でも好き…っ!」


好みでいうとアリ寄りのアリです。いや、ドレスの時もそうだけれど、元の世界で着たらコスプレでも、こっちの世界では普段着とかザラだからね。


動きやすさ等を鑑みても、アリだと思います!私のわくわく顔がわかりやすかったのか、アリアさん達に促されて、いざ、ご入店。


「うわぁ、すごい…。」


外に置いてあった服も可愛かったけれど、中はもはや別空間だった。こんなにつける必要があるのか?というほどベルトがつけられたコルセットや、スタッズや宝飾が打ち込められているベスト。どうやって着けるかわからないような装飾品がてんこ盛りだった。


「あら、思っていたよりも質がいいですね。」


アリアさんが近くのマネキンの生地を撫でて、品質を確認しているあたり抜かりない。私はただ圧倒されて、わぁわぁ感嘆の声を上げるだけのbotと化しているんだぜ。


いや、シャツの種類すごいな。フロントボタンの両サイドにフリルがついていたり、シャツ自体に襞が寄っていたり。同じシャツかと思ったら肩口のデザインだけがよく見ると違う。というような、些細だけれどこだわる人には重要なポイントに差がある。


「いらっしゃ~い、何をお探しかな?」


店内を見回して、そういえば従業員がいないな?と首をかしげていたら、奥からビキニのような格好のお姉さんが出てきた。露出度ぉ…。え、動揺してるの私だけなの。みんな平然としてるの怖いんだが。腕や足回りは装飾過多なのに、胴体の防御力ほぼ紙じゃないか。


「シンジョウ様、気になる物がおありでしたら、遠慮なくお申し付けくださいね。」


今はビキニのお姉さんか気になるかな。言わんけど。


「うんうん、お嬢ちゃんは貴族様かな?」


にんまり笑うお姉さんに、私がどう映っているかはわからないが、否定するのも…。うむむ、じゃあなんで従者五人も連れてるんだね?ってなるよね。冷やかしではないから許してほしい。


「…動き易くて、私のサイズに合う服が欲しいのですが。見立てていただけますか?」


ビキニのお姉さんの格好に驚いたけれど、違和感なく着こなしていて、めちゃめちゃ似合っている。この人は、『自分に似合う』物が何かわかる人だ。たぶん、店長さんなんじゃないかな。


私のお願いにも快くお返事をいただいて、店長さんが選んでくれた服を試着しつつ、アリアさん達が選んだ服と合わせて5着まで絞った。


「楽しい…。」


「それはよかった。お嬢ちゃんは顔が中性的だから何でも似合うねぇ。」


そんなことは初めていわれた。思わず店長さんを見ると、コルセットを締めながら笑われた。


「女にしては低めの声に髪が短くて、服装を見なければ、一瞬声代わり前の少年かと思った。こうして整えているとちゃんと女の子に見える。でも、身体はしっかり大人だから、お嬢ちゃんって年じゃないね。」


勘違いしてごめんね。と態々謝ってくるあたり、律儀な人だ。骨格とかで、私が大人か分かったのかな。最近よく間違われるから気にしていないけれど。


「髪はこのまま伸ばすとして、服装に女性らしさを入れましょう!」


「そうですわ。冒険者組合で『装備』として服を探すと、無骨か露出度が極端に高いものばかりですもの。」


「確かに魔物やモンスターの素材で、物はいいのでしょうけれど…、ねぇ?」


美人神官三人組がわいわい盛り上がっている。それに護衛のファタさん達も相槌を打っているあたり、女性冒険者は苦労しているようだ。


「うちも魔物やモンスターの素材を使っているから、物はいいよ。お値段がちょっと張るけれどね。」


それについては、ありがたいことに問題ない。聖女用のお布施をもらったからね。金ならあるんや!一般的な服の金額はわからないから、私一人で来てぼったくられても、気が付かないだろうな…。みんなと来てよかった。


「それに、シンジョウ様がいくら気にならないと仰っていても、折角こんなにお可愛らしいのですから!」


「この魅力をぜひ前面に押し出してくださいませ。騎士様を骨抜きにしましょう!」


「はぁあ、そのお召し物もよくお似合いですっ!少年のようで少女のようで…、脆く妖しい雰囲気がなんとも…っ。」


「あ、ありがとう…?」


興奮気味に一斉に喋られて、ほぼ聞き取れなかったけれど、褒められた?たぶん。うん、それにしてもとても動きやすい。サイズがぴったりなのもあるけれど、補正パーツが多くて動きが邪魔されないんじゃ。どうなってるかは全くわからない。


結局、あれやこれやとアリアさん達三人組と店長さんで話し合いになって。わたし?白熱する皆についていけなくて、全面的にお任せした。…原稿修羅場の時の友達みたいで怖かったんじゃよ…。


代わりにファタさんとファルマさんに、他国の話を聞いていた。ほほう、獣人とな。スパイスたっぷりの料理とな。海鮮料理がおいしいとな?…お腹すいてきた…。頭の中が完全に地中海だよ。パエージャとかアクアパッツァたべたい…。材料売ってないかなぁ。


なんて考えていたら、話し合いが終わったようだ。今着ている服と、他に着まわせる組み合わせで6着購入することで落ち着いたのかい?うんうんOKだよ。ありがとうね。


「また来てねぇ~。」


ゆるゆるな店長さんに見送られて、お店を後にする。ううん、よき買い物ができたのでは。試着をそのまま着ているので、スクエアネックでバルーン袖のシフォンブラウスで、上からコルセットベスト。下は脚にピッタリフィットするパンツスタイル。よくわからぬ。あとブーツ。


スカートの時より機動力があがっているぜ!運動神経は上がっていないけどね。…どこかにバフ付きの装備、売ってないかなぁ。


「選んでくれてありがとう。」


「いえ、とても楽しかったですわ。」


「ええ、それに、まだ次がありますわよ!」


なにか三人のやる気に火が点いているようだ。うん、触れないでおこう。次のお店で下着なんかを調達する予定のため、自然とその会話になりつつ。


お腹が空いたので、アンネさんおススメの食堂でご飯。この国は主食がパンかジャガイモのようで、建物もドイツっぽいんだよなぁ。ハーブ入りのヴルストおいしい。


そう考えると、今朝着ていた服もディアンドルみたいだったし。…考えないようにしていたけれど、この世界、ゲームか何かなんだろうか。


いや、もう一人の…アイリちゃんだっけ?が、アルたんに色々お願いしている時言っていたっていう単語がさ。まぁ、こういう展開になった時の王道として願ったのかもしれないけども。


日本人、ラノベで神様を無能扱いしすぎ問題勃発してるからなぁ。実際神様フランクだったけれど。怖いからアルたんに聞きたくないし。


…聖女の仕事が浄化で、例えば空を飛べる乗り物か動物に乗ってさ?聖物が出ないギリギリに、浄化全力で高速移動したらすぐにこの仕事終わるよね。


そうしたらさ、元の世界に…帰る、んだろうか。


「…まぁ、無理だな。」


呼べないのに帰せるわけがない。アルたんは。でも、魔法使いは呼べる。ワンチャン、帰せるんじゃないか?…いや、どこから引っ張ってくるか、指定して呼んでいるわけじゃないのか。アルたんが後天的に力を植え付けてるんだから、あれは聖女を呼ぶ儀式じゃなくて。


「異世界人を、呼ぶ儀式。」


どこの誰かも、わからないまま呼び出すだけの。そこに毎回アルたんが干渉して、聖女にしてるんだ。だから結果だけ見れば、聖女召喚の儀式として残ってるんだな。


…ウォンカさんが最初、私が聖女だとわかっても塩対応だったのは、その所為か。なるほどなぁ。何で後天的能力だって知ってるんだあの狸。


塩対応→アルたんの説明→名乗りだったよね。敵か?うーん、ゼロさん達の育ての親の様な立ち位置みたいだし、害はなさそうだから今は放置だな。


私が知らないだけで、文献とかがあるのかもしれぬ。


「シンジョウ様、どうかなさいましたか?」


「なんでもないよ。それ、かわいいね。」


女性冒険者用のお店に隣接している下着屋さんで、試着なう。当たり前のようにひん剝かれるから、慣れてきたでござる。さよなら恥じらい…。


急ぎの時は古着屋さんだったから仕方ないけれど、ここの下着かわいいな。全部手縫いだから、いいお値段だけれど。あっちでも売れるわこれは。遜色ないもの。


「こちらはどうでしょう?先ほど買ったものにちょうどよさそうです。」


「こちらも、紺色の刺繡が繊細で素敵ですよ。」


来る前に青色系が好きと言ったから、色んなタイプの青色を持ってきてくれる。うーん全部かわいい。悩む。花の刺繍が多いなぁ。


もしくは青地に白のレースか白地に青のレース。あとは総レース。下着は全部四点セット売りだった。上下とガーターベルトとストッキングで四点。豪華ぁ…。


「これ、旅中で手洗いだよね…?傷まないかなぁ。」


「それは、隣の店で専用の洗剤等が売っておりますよ。」


「もう少し値が張りますが、形状維持や汚れ難くなる付与付きの下着もあります。」


なるほど。天才か。女性の悩みは万国どころか異世界でも共通なんだね。安心する。ということで、持って来てくれた中で付与付きだけ買うことにした。もちろん隣で専用洗剤とかも買うよ。完璧ではないかね。


「全然完璧じゃなかった。」


入用なものを買ったのは良かったんだよ。女性冒険者ようのお店で、ああ!これほしかったんです!なんてものも買っていたら、荷物が増えてしまった。これ、短距離はいいけれど、長距離を持ち運ぶと重量がシャレにならぬぅ。


「シンジョウ様、こちらにマジックリングやバックの取り扱いがあるそうです。ご覧になりませんか?」


「なります!」


アリアさん有能!即答して駈け寄ったら、別室に案内された。高級品だから、万全を期すのと、買う方も自然と裕福もしくは冒険者として成功している人に限られるからだそう。


あれだ、高級宝石店とか宝くじ当たった人が銀行でやられるやつだ。VIP対応。


「これがマジックリング?」


丁重に運ばれてきた指輪は、一見普通のシンプルなシルバーリング。隣には、同じように高級そうな布に包まれたシンプルなポーチ。ベルトにつけるタイプだそう。


「マジックリングやポーチには、空間魔法が使われております。扱える魔道士が限られていますので、値段が上がるのです。装飾にこだわったものは、魔法をかけ辛いそうで、シンプルなものが一般的ですね。」


「へ~。」


こんなに小さいのに、リングは今日買った荷物の倍は余裕で入るそう。手持ちの荷物全部入れられそうだね。ポーチのほうは、対象物を入り口に近づけると収納されて、取り出すときは何が入っているか本人にしかわからない。リングと両方とも、買った時点で持ち主を登録するから、死ぬまで本人しか使えないとか。


どうなってるんだ魔法。いや、携帯電話とかに置き換えると、納得はできるけども。収納については原理が謎だから、便利だな~。で済ますのが得策とみた。とりあえず、


「両方買います。」


「あ、ありがとうございます!!」


ウォンカさんにお布施もらっておいてよかった。お金は怖いからアリアさんに預けてるよ。重いの持たせてごめんね…。さっき買えるかなぁ?高いんだよね?って相談したら、5個は買えるって言われて怖くなったから渡しちゃった。


これで道中らくちんだぜ!やった!


「あ、少量の荷物は持たれた方がいいですよ。マジックリング等は高く売れますから、荷物がない人間は持っている可能性が高いので、破落戸などに狙われます。」


「世紀末じゃん…。」


なにそれこわい。襲って殺すか指切り落として指輪持ち逃げってなに。恐ろしすぎない?


ドキドキしながらリングとポーチを身につける。リングはサイズが自動でぴったりになるそうだから、一先ず右手の薬指につけておこう。


…段々アクセサリー増えてきたなぁ。ピアスが二個とリング。これ以上増えるなら、リングはチェーンに通そう。


「よし、買い出しはこれで全部だね。つき合ってくれてありがとう!」


「シンジョウ様のお眼鏡にかなう服が見つかって、良かったですわ。」


「皆が見立ててくれたから、とても満足です。」


「ふふふ、私達も、とても楽しませていただきましたわ。」


時刻は夕方。人混みの邪魔にならないように、大通りから少し離れた道。そこで、楽しいからと話し込んだのがいけなかった。


「おやおやおや、随分と女性らしくなりましたね。まるで男を誘う華のようだ。」


薄暗い路地奥から現れたのは、ドン〇バチョ似教皇の側近。と、見るからにガラの悪い浮浪者のような男達。


「テンプレ展開でフラグ回収しないと、爆発四散するのかい。」


「意味のわからないことを…。ああ、貴女は気が触れているのでしたか。自らを聖女様と吹聴し、ウォンカ・ペルトス教皇を籠絡なさって。」


ウォンカさんのフルネーム、はじめて聞いたでござる。後ろの破落戸はニヤニヤ笑いをしてるけど、ちゃんと待てが出来るんだね。ヒャッハータイプかと思った。


「無礼者。一神官如きが聖女様、教皇様を侮辱するなど、到底許される事ではありませんよ。」


「許されないのは、その女の方でしょう。聖女召喚の義に居合わせただけの女を、あろうことか聖女として祭り上げるなど。本物の聖女様は、国王様が寵愛を注ぎ、王宮にて保護されているではありませんか。ウォンカ・ペルトス以上の鑑定能力者はいない。これは大陸中が知る事実です。だからこそ、真実を知るのはウォンカ・ペルトスと、共犯のその女のみ。」


良く喋るなぁ。身振り手振りが芝居がかっていて、見てる分には愉快だけど。そのうち、怠惰ですねぇ!って言いそうなくらい、ギュインギュインしてる。


確かに、アルたん呼んだときは私とウォンカさんとゼロさんだけだったし、鑑定できるウォンカさんが詐称すると、簡単に詐欺を働けるんだよなぁ。


「ふふふ、言い返さないのですね。何も言わない、いえ、言えないのは図星だからでは?」


ご機嫌で私を指指す神官。もうね、目がヤバいんだよな。狂信者ってこんな感じなのかな。目も口も弧を描いて、ギラギラと欲を光らせてる。


「わざわざ君に、私が聖女であることを、証明する必要が無い。」


「負け惜しみを。出来ない、の間違いでしょう。」


何でも良いよぉ。だって、呼ぼうと思えばこの場にアルたんも呼べるし、マリリンも呼べる。此奴に()()()()()事は簡単にできる。でも、そんなことをする必要は無い。此奴から信頼を得る必要も、崇拝される必要も、無いのだから。


「別にそれでいいよ。」


「聖女様!」


アリアさんどうどう。落ち着いて下さい。手を挙げて、待って、のポーズをとればすぐに頷いて下がってくれる。顔は不満げだけれど、プロだなぁ。


「話は終わり?もう夕ご飯の時間だから、戻らないと。ゼロさん心配するし。」


そう、もう結構暗くなってきているんですよ。早く帰らないと、ゼロさんが心配する…というか、怒られる気がする。そっちの方がヤダ。


「ハッ、あの騎士は国王に下げ渡されたんでしたか。男と二人旅など、何か間違いでも起きそうですね。聖女としての資格すら、もうないのでは?」


「ええ、気持ち悪…。発想が独り身拗らせた、童貞非モテ男の妄想じゃん…。」


此奴、清貧・貞潔のテンプレ聖女盲信派か。処女厨のユニコーン先輩ですら、美少年可だぞ。末期だな。偽者聖女と言っておいて、聖女として資格が無くなったとか、言ってること滅茶苦茶じゃないか。


思わず哀れみの目でみつめる。途端に神官が、ブルブルと顔を赤くして震えだした。どれが図星だったんだろ。童貞かな。


「ふんっ、こんな女が聖女な訳があるか。慎みも恥じらいもなく、粗野で…まるで野良犬だ。」


「え、突然の自己紹介ありがとう。でも君と仲良くする気は無いから、名乗らなくてもいいよ。」


お前みたいな神官がいるか。鼻で笑いながら言外に含ませれば、ギリッと歯軋りの不快な音。


「この、売女が!身の程をわきまえろ!」


神官が吼えた瞬間、待ってましたと言わんばかりに破落戸達が飛びかかってきた。…やっぱりヒャッハーじゃないか。


ファタさんとファルマさんがすぐに剣を構え、私の前に立つ。破落戸の錆びた剣を叩き落とし、空いた胴に蹴りを入れては吹き飛ばしていく。それでも、相手だってこの世界で生きているのだ。すぐに立ち上がっては襲いかかってくる。


現代社会人で、喧嘩に明け暮れている大人なんてほぼいないだろう。私も怒声や嫌味なんかはよく聞くけれど、『暴力』なんてもっての他だ。


つまり、粋がってみせたけれど凄く怖い。ちょっと手は震えるし、大きい音が鳴ると肩がはねる。刃物を向けられて、心臓が早鐘をうつ。でも、此処では私が一番偉いのだ。怖いからと、泣いたり逃げたりなんて、格好悪いことは出来ない。


ファタさんとファルマさんが、頑張ってくれてる。アリアさん達も、私を庇うように前に出て、護ってくれている。だから、


「…おすわり。」


私は私に出来ることをしなければ。


地面に這い蹲る男共。…女の為の女神が主神なら、この場の図がこの世界の力関係な気がするな。


神聖力は目に見えない。まぁ、魔力も類する物も、特別な眼が無いと見えないそうだ。だからこそ、力を使うときはイメージがとても大切で。逆を言えば、イメージが出来れば、大抵何とかなる。それだけの神聖力を、私が有しているから。プレゼンツ・バーイ、ウォンカさん。


「何だ?!何をした!!」


「うっぐ…!はなせッ!この化け物!」


「こんなん聞いてねぇぞッ!」


喧々囂々、唯一挙動を許された顔だけが、怒りに赤く染まり、はたまた恐怖で青ざめて叫んでいる。


「聖女様、これは…。」


「神聖力を重しみたいに乗せて、強制的に土下座させてる。」


なんとか笑ってみせるけど、乾いた笑いしか出てこない。むーん。手の平が汗で気持ち悪い。


「さて、警察を呼べばいいのかな?此処だとなんだろ。衛兵?」


「衛兵よりもギルドの方が早いかと。呼んで参りますわ。」


そうだね、戦えるファタさんとファルマさんが居ないと、心細いし。デイジーさん一人だと心配だから、アンネさんも一緒にお願い。


「こんな事をして、許されると思うなよ!」


白目を剥きそうな勢いで睨み付けてくる神官。私は、そんなに恨まれるような事をした覚えが無いんだが?


「一級フラグ建築士志望かい?この件は、すべてウォンカ翁に任せて…」


「それは、困りますね。」


くん、とお腹を圧迫されて、後ろに引かれるのと、耳元で男の声がするのが同時だった。

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