第94話 秘密の呪法
ものすごい速度で飛ぶイスネリの背中からランシーアの町が見えた。
まだ全然日没はしていない時間だ。
イスネリは聖樹の森に向かった時の半分ちょっとの時間でランシーアに帰ってきてくれた。
リズシーレさんの家の近くに降り立った私達は、すぐにリズシーレさんの家に向かった。
「イスネリ! イスネリは休んでていいよ。だいぶ飛ばしたから疲れたでしょ?」
人間の姿になったイスネリが私達の後をついてきながら、私に言った。
「大丈夫ですの。まだ全然余裕ですの」
私達はリズシーレさんの部屋に行って、扉をノックした。
中からリズシーレさんの返事が聞こえたので、中に入る。
「リズシーレさん! 聖樹を取ってきました!」
私達の姿を見て、ちょっと驚いたリズシーレさんが話す。
「ずいぶん早かったね。もうちょっとかかると思っていたよ」
私はノユンから受け取った数本の聖樹を出し、リズシーレさんに話した。
「持って来れたのは、これだけです。またすぐに取りに行きますんで、先にこれでナヴィの封印を解いてくれませんか? お願いしますっ!」
私達はリズシーレさんに頭を下げた。
その慌てたような様子の私達を見たリズシーレさんが腕組みをして、私達に尋ねてきた。
「森で何があったの?」
私は聖樹の森でノユンに会った事、そしてこの聖樹はノユンから貰った物だという事をリズシーレさんに話した。
「なるほど…」
リズシーレさんはそう呟くと、上を見て少しぼんやりした。
そして私がリズシーレさんに話す。
「ノユンはリズシーレさんに自分は元気だったと伝えて欲しいと言ってましたけど…。もう体が少し透けていて、消えそうになってました…」
リズシーレさんは私を見た後、目を瞑り頷いた。
「あの、リズシーレさん。ノユンを何とか助ける事はできませんか?」
リズシーレさんはゆっくりとした口調で話し出す。
「結論から言うと、…不可能だね」
「そう…ですか…」
肩を落とした私に向かってリズシーレさんは更に続ける。
「ノユンは精霊としての寿命を迎えようとしている。それは自然の流れなんだ。もう私達ではどうしようも出来ないよ」
私の後ろからアイシャが私の肩にそっと手をかけた。
リズシーレさんが更に続ける。
「だけど、そのノユンの最後の願いだ。その聖樹でナヴィちゃんの封印は私が解いてあげよう」
私が顔を上げてリズシーレさんを見る。
「彼の願いなんだろう? 封印の解けたナヴィちゃんを彼に会わせてあげるといい」
「そう…ですね。せっかく私達に託してくれたんですもんね」
「じゃあ、早速取りかかろうか。聖樹の枝をくれるかい?」
私は手に持った聖樹の枝をリズシーレさんに渡した。
そして、リズシーレさんが私達に言う。
「封印を解く呪法は隣の部屋で行う。危険は無いが、呪法がどういうものか、秘密にしたいんだ。だから申し訳ないが、ナヴィちゃん以外の者はここで待っててくれるかい?」
「分かりました。ナヴィをよろしくお願いします」
「うん。任せてくれ。じゃあ、行こうか。ナヴィちゃん」
リズシーレさんに連れられて、ナヴィは隣の部屋に入って行った。
しばらくすると、リズシーレさんが入って行った隣の部屋からリズシーレさんの囁くような声が聞こえてきた。
「呪文…ですね」
アイシャがボソリと呟いた。
そしてまた少し隣の部屋が沈黙した。
また何やらリズシーレさんの声が聞こえたと思ったら、次はナヴィの絶叫が聞こえてきた。
「にゃーーーっ!」
「ナヴィ!」
私が思わずその部屋に行こうとすると、アイシャが肩を掴んで止めた。
「ダメです。お嬢様。ここで待つようにと言われてますから」
「でも…」
ナヴィの絶叫はすぐに途切れた。
私は心配で、隣の部屋への扉を見つめる。
すると扉が開いて、リズシーレさんが私達のいる部屋に入ってきた。
私がリズシーレさんに尋ねる。
「あ、あの、ナヴィは?」
ふうっとタメ息をつきながら、リズシーレさんはいつもの椅子に座り、私達に話す。
「うん。成功したよ。ナヴィちゃんの封印は完全に解けたよ」
「本当ですか? でも、ナヴィは?」
「ああ、そうだね。…ナヴィちゃん! こっちへおいで。ラフィーネさんが心配しているよ」
リズシーレさんが扉に向かって呼び掛けると、その扉からナヴィが現れた。
ナヴィの外見には、全然変わった様子はなかった。
「心配させて、ごめんにゃ。もう大丈夫」
私達にそう話すナヴィの顔は、私の目線と同じ高さにあった。
…えっ? ナヴィが…宙に浮いてるんですけど…。
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