第69話 力加減はゆるめにお願いします
遠征二日目。
私は待望の手綱を少し握らせてもらった。
ジャーバさんとはお昼休憩をとる所まで、と約束して、二頭の駝竜に繋がった手綱を握る。
おっ…おおー!
思っていたよりすごい力強いっ!
ちょっと油断すると、非力な私は御者台から落とされそうになる。
横でアイシャが超不安そうに見ている…。
反対側でジャーバさんも軽く手綱を握ってくれてるから、大丈夫だって!と心の中では思っていたが、結局お昼休憩の所まで私の握力は持たず、途中で本来の御者担当のミーラズさんに交代した。
ジャーバさんが楽しそうに私に話し掛ける。
「どうだった? 始めての手綱は?」
「楽しかったけど、思っていたより大変で…。クウネとイスネリはもうちょっと引いてましたよね?」
「あの娘たちは見た目と違って力が強いみたいだからねー。最後の方はイスネリちゃんと手綱の取り合いしてたよ」
さすが獣人娘とワイバーン。
私とは元々の力が違うな…。
アイシャが私にぼそりと話し掛ける。
「お嬢様はそういう事に関してはポンコ…、非力なんですから、仕方ないですよ」
ポンコツと非力は関係ないよ…。
私は自分が力弱いの知ってるし!
そんな事もありながら、この日も順調に行程通りに馬車は快調に進んでいく。
この日は、この草原地帯を走り抜け、山岳地帯の麓の荒野地帯の入口付近でキャンプを張る予定になっている。
明日の三日目はその荒野を走って、ペグナットという町に到着する予定になっている。
おそらく安全に走れるのは今日の草原地帯までで、明日からの山岳地帯はモンスターの出現率もぐっと上がるだろうとアルメダさんが言っていた。
幸い、キャラバン隊はここまでモンスターにも野盗にも遭遇していなかった。
お昼休憩をした後、私とアイシャは先頭の馬車に乗り換え、再びキャラバン隊は出発した。
出発してしばらくした頃、後ろの馬車の方から警笛の音が数回聞こえた。
何かを発見した合図だ。
私達が乗る先頭の馬車は速度を落とし、やがて五台とも停車するとアルメダさんが御者台から飛び降り、後ろの馬車の方へ走り出した。
私達もその後に続く。
するとジャーバさんも馬車を降りて、キャラバン隊の馬車の列の後方の方を指差しながら、アルメダさんに話していた。
「キャプテン。まだ距離はあるけど、マドハイエナの群れが近付いてきてるわ」
アルメダさんはジャーバさんが指差す方向を見て、声を出す。
「ああ、たしかにいるな。まだ警戒して距離はそんなに詰めてきてないけど、来そうか?」
「ちょっと前から数頭で様子を見てる感じだったけど、数が増えてきて、だんだん距離を詰めて来てるから、たぶん来るっすね」
ふーん、と少し考えてアルメダさんが話す。
「馬車はこのまま進める! ミレニア! ラフィーネ! アイシャ! 私達は一番後ろの馬車の荷台に移動だ。あのハイエナどもが襲ってくるとしたら、後ろからだ。もし来たら、私達で迎え撃つよ」
私達は言われた馬車に移動して、五台の馬車は再び走り出した。
私の目にもマドハイエナと言われたモンスターの姿が確認できた。
数は十数頭ぐらいだろう。
走る五台の馬車を追いかけて、ちょっとずつ近付いき、どこに隠れているのか、その数も増えてきている。
しばらく走って私がもう一度振り返って見ると、距離は二十メートルほどに縮まっていて、数も倍ぐらいに増えていた。
アルメダさんが身を乗り出し、小型の弓のような武器で矢を放つ。
ビュッ!
風切り音を残して、その矢はマドハイエナの一頭に命中した。
そしてアルメダさんが叫ぶ。
「ラフィーネ! この距離であいつらを攻撃できるか?」
私は鞄から三日月を取り出し、答えた。
「余裕です! 一瞬で終わらせます!」
私は三日月を数枚、馬車を追いかけて来るマドハイエナに投げつける。
そして念動で操り、最大出力で回転させた三日月を、走るマドハイエナの群れの中でめちゃくちゃに暴れさせた。
「キャウーンッ!」
「ガッッ!」
突然現れた三日月にマドハイエナの群れは次々とその体を切り刻まれていき、悲鳴を上げる。
追いかけて来るマドハイエナの数がどんどん減っていく。
やがて追いかけて来るマドハイエナはいなくなり、私は三日月を自分の手元に戻す。
戻ってきた三日月は血まみれになっていた。
それを見ていたアルメダさんが私の肩を激しく叩く。
「痛っ!」
「なんだそれっ! ラフィーネ! デタラメな強さじゃんか! そのスキル!」
横で見ていたミレニアさんも剣を握ったまま、呆然としていた。
…とりあえず、マドハイエナを追い払えたのは良かったけど、もうちょっと加減してほしかったな。アルメダさん…。
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