第56話 ナビィの思い
宿屋に戻った私達は、すぐに武器などを鞄に入れていった。
詰めている最中に私はある事をひらめいたので、クウネに振り返ってお願いをした。
「ねえ、クウネがお昼に買ったやつも持って行っておいて」
「え? 後で食べようと思ってたアレ?」
「そう。もしナヴィちゃんがあの猫だったら役に立つかもしれないし。明日、同じ物買ってあげるからさ」
「わかった。じゃあ、持って行っておくね」
一通りの荷物を詰め終えて、部屋を出ようとすると、イスネリが私達に話し掛けた。
「あの、ラフィーネさん。ひとつ、ナヴィさんに試したいことがありますの」
「うん? なにを試すの? イスネリ」
「実はわたくしの持つ恩恵の中に解呪がありますの。もし、ナヴィさんが怪物になる事が本当に呪いだったら、そのスキルで解けるかもしれませんの」
私はイスネリの方に振り返り、思わず声を上げた。
「ホントに? スゴいじゃん! イスネリ!」
アイシャがイスネリに話し掛ける。
「であれば、先ほどその解呪をかけてもよかったんじゃないですか?」
「はい。ですが、解呪は呪いが発現していなければ、効果がありませんの。先ほどのナヴィさんからは呪いの気配は感じませんでしたの。恐らくあの状態の彼女ではなく、呪いが発現して怪物になった状態でないと解呪できないと思いますの。それに…」
私は思わず身を乗り出す。
「それに…?」
「わたくしはまだその解呪を一度も使用した事がありませんの…。だからどのような効果が出るのか自分でもあまり解っておりませんの」
なるほど…。イスネリ自身もどういう結果になるか分からないのか…。
イスネリは続けて話す。
「ですけど、あんなに苦しんでいるナヴィさんをなんとかして助けてあげたいんですの。だから一度、この恩恵を試してもいいですか?」
私はイスネリに向かって話す。
「うん。やってあげよう。イスネリ。もしかしたら、ナヴィちゃんの呪いが解けるかもしれないし、やる価値はあると思うよ」
アイシャとクウネも無言で頷く。
イスネリは私達を見て、微笑むと、
「ありがとうですの。絶対にナヴィさんを助けますの」
「そうだね。絶対に助けよう。じゃあ、もう一度あの古城へ行こっか」
私達は再びイスネリに乗って、あの古城に戻る事にした。
私達がナヴィのいる部屋に着くと、ナヴィは部屋の隅の椅子に腰掛け窓の外を眺めていた。
「ごめんね。ナヴィちゃん。お待たせ」
「ううん、本当に戻って来てくれたんだ…」
「当たり前だよ。私達がナヴィちゃんが怪物になるか確かめて、それで絶対にナヴィちゃんを助けるから」
「…ありがとう」
私は部屋にあった椅子をナヴィの側まで持って来て、ナヴィの正面に座った。
アイシャ達も部屋にあるソファに腰掛けた。
窓から見える月を見上げているナヴィに私は話し掛ける。
「ナヴィちゃん。少しお話しようか?」
「うん。いいよ」
「ナヴィちゃんのその呪いって、誰がいつかけたか知ってるの?」
私が一番気になっていた事だ。
こんな女の子にそんな呪いをかけるなんて、ひどい事を誰がやったんだろうと思っていた。
ナヴィは少し考えた後、答える。
「ごめんなさい。覚えていないの。前は覚えていたような気がするんだけど、今は何でこんな体になったのか、全然分からないの…」
「そっか。じゃあ、ナヴィちゃんはいつからこのお城に住んでいるの?」
「もう何十年もこの部屋にいる」
「その何十年の間にこの部屋に私達以外に入って来た人とかはいなかったの?」
「普段はこの部屋の扉は誰にも見えないはずなの。だからあなた達が何故この部屋に来れたのかも分からない」
え? そうだったの?
何で私達はすんなりこの部屋に来れたんだろ?
「そうなんだ。そういえば歳を取らないし、何も食べないって言ってたけど、寝たりはするの?」
「うん。いつもあのベッドで寝てる」
「そっか。睡眠は取るんだね。まだ眠くなったりしない?」
「うん。いつも夜明け前に陽の光が入らないようにカーテンを閉めてから寝るの」
「そうなんだね。ナヴィちゃんはこの部屋から出たい?」
ナヴィはうつ向いて答える。
「うん。いつも思ってる。ここから出て、自由に色んな所に行きたい…」
そうだよね。誰だって自由に生きたいよね。
そんな思いは私だって同じだもん。
「大丈夫。どこまで出来るか分からないけど、私達がナヴィちゃんの力になるから」
「うん。ありがとう…」
ソファに座っているアイシャ達を見ると、アイシャとイスネリはしっかりと起きていたが、クウネはウトウトしていた。
窓の外を見てみると、月明かりがこの古城を照らし、ひっそりと静まり返るプルメイの町も照らしていた。
私達はその後も色んな話をしたが、ナヴィは自分の過去を全く覚えていなかった。
何故覚えていないのか、彼女自身も分かっていないみたいだった。
私はナヴィの向かい側で彼女と話しているうちに、彼女を助けて、ここから出してあげたいという気持ちがどんどん強くなってきた。
そして空の色が少しずつ明るくなってきた。
とうとう夜明けの時間が近付いてきた…。
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