第54話 古城の白い少女
私達を乗せたイスネリは古城の下に降り立った。
夜の古城は昼間とは違う雰囲気をしており、月明かりだけに照らされたその城は不気味にそびえていた。
昼間は他の観光客も少しいたが、今は誰もおらず辺りは静まりかえっていた。
私は改めて古城を見上げて、クウネとイスネリに聞く。
「さっき見た人影はまだ見えるかな?」
イスネリは人の姿になり、同じように古城を見上げて答える。
「いえ、いなくなっておりますの」
クウネはアイシャの腕にしがみつきながら、上を見上げて答える。
「う、うん。見えなくなったね」
私はそれを聞いて
「せっかく来たし、とりあえず上まで登ってみよっか?」
クウネにしがみつかれたまま、アイシャが答える。
「上まで行って何もなかったら、すぐに帰りますからね。お嬢様」
「うん、分かったよ」
古城の中は灯りもなく、窓から月明かりが差すだけなので、かなり暗く、静かな城内には私達の足音だけが響く。
目がいいイスネリが先頭を歩き、私が続いて、後ろにアイシャとクウネがピッタリと寄り添いながら付いていく。
階段を登って行き、最上階の一つ手前の階層に来た所でイスネリが立ち止まった。
「どうしたの? イスネリ」
「あちらの方で気配がしますの」
そう言ってイスネリの指差した方を見ると、回廊が続いているが、ロープで行けないようにしてあり、そのロープには『立ち入り禁止』と書かれた札がぶら下がっていた。
「この回廊の先ってこと?」
「そうですの」
そう言われてアイシャを見ると、アイシャも頷き、
「私もそちらに気配を感じました」
私達はロープをくぐり、その回廊を進むことにした。
すると、回廊の先…暗くて見えないが、扉がバタンっと閉じる音が聞こえた。
その瞬間、クウネがひゃあっ! と驚いた声を上げた。
夜の古城がこんなに暗いと思わなかったな…。
ちゃんと灯りになるような物を持って来たら良かったと思いながら、私達はその音のした方へ慎重に進んで行く。
やがて回廊は突き当たり、角を曲がった所に、恐らくさっき閉じる音がした大きな扉が見えた。
「開けて中を見てみよっか?」
私は皆に確認して、イスネリに開けるようお願いした。
イスネリが頷くと、扉に手を掛けその扉を開け、私達はその部屋に入った。
まず目に飛び込んできたのは、大きく立派ベッドだった。
大きな窓からは月明かりが差し込んで、かなり明るくなっていた。
その窓のすぐ横に立っている人影に私達は気付いた。
人影は私達に振り返り、私達に問い掛ける。
「誰?」
人影は少女だった。
真っ白な服が月明かりに照らされて、その肌も真っ白に見えた。
あまりに白すぎて、幽霊と言われても信じるかもと思ってしまうぐらいその少女は白かった。
アイシャにしがみついているクウネが、後ろから私の腕も掴んできた。
私は一歩前に出て、その少女に尋ねる。
「ごめんね。勝手にお邪魔しちゃって。私達はお昼にこのお城に来たんだけど、あなたはこのお城に住んでいるのかな?」
少女はちょっと上を見て考えてから答える。
「うん。ずっとここに住んでる…」
「一人で住んでるの? 他に誰かいるのかな?」
「うん。今は私一人だけ…。もうずっと他には誰もいない」
「そっか。あ、私はラフィーネっていうの。窓からあなたの姿が見えたから、見に来ただけなんだ。あなたは?」
「私はナヴィ」
「ナヴィちゃんはここで何してるの?」
ナヴィと名乗った少女は少し考えてから、答えた。
「出られないから、ここにいるの」
私は後ろにいる三人と顔を見合せた。
振り返ってもう一度、ナヴィに尋ねる。
「出られないって、このお城から出られないの?」
「うん、あれ…」
そう言いながら、私達の位置からはベッドが死角になって見えない壁の方を指差した。
私達は少し移動して、その壁を見ると一枚の大きな絵画が飾られており、大きな鋭い牙を剥き出した、四本足の白い怪物が描かれていた。
それを見て、ナヴィに尋ねる。
「ここに描かれている怪物のせいなの?」
ナヴィは首を横に振って答える。
「ううん、私は太陽の光を浴びると、この怪物になっちゃうの」
な…んだって…!?
「それは何でなの?」
ナヴィは少し視線を落として、暗い声で答える。
「私は歳を取らない、食事も取らない。だけどこのお城から出られない。もしお城を出て太陽の光を浴びたら怪物になって人を襲う…。だからこの部屋の中で太陽の光に当たらないようにしてる。そういう呪いをかけられているの」
の、呪いだと…?。
「で、でも、絶対に怪物になるって決まってないでしょ? 今だって人間に見えるし、試したわけじゃないんでしょ?」
ナヴィは激しく首を横に振って、大きな声で答えた。
「なるもんっ! 今日だって、怪物になって人を襲っちゃったんだもん!」
えっ…。ウソ? マジで?
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