第31話 いいネタあるよ
トサレタ商会の打ち上げ会当日の夕方。
私達の家に一台の馬車が乗り付けた。
中からジーノさんが降りてきた。
「ジーノさんが迎えに来てくれたんですか?」
玄関から出た私は馬車から降りてきたジーノさんを見て、思わずそう言ってしまった。
「ははは、美女三人をお迎えに上がる役を誰かに譲ろうなんて思いませんよ」
「ははは、お世辞がお上手ですね」
「お世辞じゃありませんよ。ラフィーネ嬢。さあ、こちらへ。足元に気をつけて下さい」
ジーノさんは素早く私達三人をエスコートして、最後に自分も馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと走り出していく。
「それで、クウネちゃん」
「は、はい。何でしょうか?」
「馬車は初めて?」
馬車に乗ってから、物珍しそうに外の景色を見ていたクウネにジーノさんが声をかけた。
「あ、初めてです」
「そうか。クウネちゃんにはお父さんのドラザンさんから手紙を預かってきたよ」
「本当ですか?」
「うん、はい、これ」
クウネはジーノさんから手紙を受け取り、封を開けて中身を読んだ。
クウネの顔がほころんでくる。
私はクウネに聞く。
「お父さん、何て?」
「ラフィーネとアイシャちゃんの言うことを良く聞いて、迷惑掛けちゃ駄目だよって。あとは……読んで」
クウネから手紙を受け取った私はその手紙を読んだ。
そこには、クウネをよろしくお願いしますと記されていて、迷惑だったら、すぐにクウネを村に送り返してくださいとあった。
不安そうに私を見るクウネが
「…大丈夫だよね?」
「もちろん!まだ村になんて帰さないよ!いっぱい楽しい事しよっ!」
笑顔になったクウネが私に抱きついてくる。
そして私は激しく振られたクウネの尻尾を掴んで、手でニギニギする。
「あははは、くすぐったいーっ!」
最近の私の流行りだ。
クウネは尻尾をニギニギすると、くすぐったがるが、尻尾の感触が気持ち良くて、ついやってしまう。
そのやり取りを見て、アイシャが
「ジーノさんが困りますから、二人ともそれぐらいにしてください!」
「いえいえ、良かったね。クウネちゃん」
「ありがとうございます!ジーノさん!」
「また時々、お父さんに手紙を書いてあげるといいよ。きっとお父さんも安心するだろう」
「うん、そうします!」
その間に、馬車は目的地の店に到着した。
トサレタ商会と取引のある酒場を今日は貸し切っているらしい。
店に入ると数十人の人達が一斉に私達の方を見た。
う…何もする訳じゃないのに、緊張する。
クエストの時にいた、マクダさんや従業員さん、作業員のドワーフのおじさんにも声を掛けられた。
みんな、私達のお陰と言ってお礼を言ってくれた。
お礼を言いたいのは私の方だよ。
家にいたら、絶対に出来なかった体験をさせてもらって……。
すると一段高くなった壇上からジーノさんがみんなに挨拶をする。
そして、挨拶の締めで、大いに楽しんでください!とジーノさんが言った後、皆のテーブルにどんどん食べ物や飲み物が運ばれてきた。
私達がテーブルに運ばれてくる食べ物を食べていると、私達のテーブルに一人の男の人が近付いてきた。
「よう!ラフィーネ。アイシャちゃん!クウネも!調子はどうだ?」
「あっ、バスクさんっ!」
「すっかり怪我も大丈夫そうだな」
「うん、クウネ、もう怪我は治ってるよ!」
「そりゃ、良かったな」
私の横に椅子を持ってきて、座ったバスクさんに私が答える。
「でも、バスクさん調子はどうって、どう答えたらいいか、分かんないよ」
「そりゃ、冒険者同士の挨拶みたいなもんだ。気にするな」
お酒を片手にバスクさんは、ちょっといい感じに赤くなった顔で話し掛けてくる。
「冒険者登録して三日の奴がグレイベアボスを倒したって、ギルドじゃ、ちょっとした噂になってんだぜ、ラフィーネ」
「そうなの?あれからギルド行ってないから、知らなかった」
「なんだ?しばらくクエストは休むのか?」
「まだクウネは完治してないしね。もう二、三日は休もうかな?」
「そうか。でも治癒師とか医者の所には行ってないのか?」
「クウネが嫌がるんだよ。絶対に嫌なんだって」
「ああー、獣人だからかな?」
私とアイシャも何度かクウネを治癒師か、医者にクウネを診てもらおうとしたのだが、クウネが泣きながら逃げたので断念していたのだ。
獣人は知らない人間に体を触られたり、調べられたりするのが大嫌いらしい。
「バスクさんは?クエストには出てるの?」
「俺もちょっと休み中だな。だけど、いいネタが入ったから、それは行こうと思ってる」
「いいネタ?」
「おお、ラフィーネ。ワイバーンって知ってるか?」
バスクさんは酒臭い顔を近付けて、私に聞いてきた。
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