第26話 たぎる血
ジーノさんが転移ゲートを開き、私達は一人づつその中を入って行った。
討伐隊のリーダーはバスクさんが務める事に決まり、私達は現地でバスクさんの指示に従うと決まった。
「ま、急造チームとはいえ、昨日の戦い方を見てると俺が仕切るまでもないと思うが…」
バスクさんはそう言っているが、この中で一番実戦経験が豊富なのでお願いした。
マクダさんも転移ゲートを通り、採掘作業場まで同行する。
この後、私達は森の中に入って行き、最優先でグレイベアのボスを探す。
見つけ次第、討伐を開始するのだが、マクダさんは転移ゲートの側で待機となっている。
「じゃあ、嬢ちゃん達。用意はいいか?」
私達は三人とも緊張した面持ちで、無言で頷いた。
ザージンさんも少し緊張しているようだった。
その四人の反応を見たバスクさんは
「そんなに緊張しなさんな。お前さん達なら昨日の感じでやれば大丈夫だ」
私達はザージンさんを先頭に、森の中に入って行った。
森の中は静かで、時々鳥や小動物の鳴き声が聞こえるぐらいだった。
木が多く、それほど先の方までは見えないので、ここではザージンさんの索敵が重要になってくる。
バスクさんが先頭のザージンさんに声を掛ける。
「ザージン。どうだ?もうスキルは発動させてんのか?」
「はいっす。もうやってます」
スキル?
私はバスクさんに小声で尋ねる。
「バスクさん。ザージンさんは何のスキルを使ってるの?」
「ああ、それは五感の感覚を一時的に向上させるスキルだ。五感が鋭くなるから、音や匂いにとてつもなく敏感になる」
なるほど。だから昨日は匂いで分かるって言ってたのか。
森の中を20分ほど歩いた所で、ザージンさんが手を挙げて、私達に止まれの合図を送る。
そして後ろにいる私達に小声で話し掛ける。
「かなり近いっすね。グレイベアの匂いがするっす。今は匂いだけで索敵してるっすけど、音も拾って、何匹か固まってないか確認するっす」
少ししゃがんだザージンさんは目を瞑り、神経を集中させる。
手を耳の所に当て、頭をいろんな向きに変えて、周りの音を探っていく。
そして一点を指差した。
「あっちの方で、たぶん三匹ぐらいはいるっす。もうちょっと近づけば、はっきり分かるんすけど」
「よし。そっちの方に行くぞ。全員、足音に気を付けてな」
私達はザージンさんが指差した方に慎重に進んで行った。
またザージンさんが止まれの合図を出した。
そして振り返って、バスクさんに何事か手で合図を送ると、一人で前に進んで行った。
私は慌てて付いて行こうとすると、バスクさんに肩を掴まれた。
「あいつが先行して、様子を見に行ってる。俺達はここで待機だ」
私達はその場にしゃがみ、待機する。
間もなくザージンさんが私達の所に戻って来た。
「ビンゴっす。この先に木とか土を積み上げて、根城を作ってたっす。けど、ボスは見えなかったっす」
「何匹いた?」
「見えたのは三匹っす」
「よし、ラフィーネ。アンタの物を飛ばすスキルはどのくらいの距離まで飛ばせる?」
「え?たぶん見えてる範囲だったら、自由に動かせると思う」
「それじゃ、それを初手に使って、奇襲を仕掛けるぞ。根城があるって事は必ず近くにボスがいる。いいか、ボスは絶対に他のベアより体がデカい。見ればすぐに分かる。そいつが姿を見せたら、全員で集中的に攻撃するぞ。ラフィーネはスキルを使って他のベアを先制攻撃してくれ」
私達は無言で頷き、ザージンを先頭にして根城の方に進んで行った。
しばらく進むと、根城らしき丘の前に三匹のグレイベアがウロウロしているのが見えた。
私達は全員息を殺し、身を潜めている。
私は三日月と矢を全て取り出し、自分の真上に放った後、グレイベアの頭上の空中に音もなく、それらを静止させた。
もちろんグレイベア達はそれには気付いていない。
そしてバスクさんが腕を振り下ろしたと同時に、矢と三日月の雨をグレイベアに降らせた。
ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!…
「?グボァ!ゴボォ!?」
三匹のグレイベアは何が起きたのか、理解できないまま痛みで悲鳴を上げる。
同時にアイシャとクウネ、バスクさんが飛び出し、悲鳴を上げる三匹のグレイベアとの距離を詰める。
突然降ってきた三日月と矢に気を取られたグレイベア。
ブスッ!
「ゴボォッ!」
まずアイシャが一番手前にいたグレイベアの喉に深々と剣を突き立てる。
もの凄い速さで助走をつけたクウネが、勢いそのままで別のグレイベアの横っ腹を殴り、離れた。
ボォゴンッ!!
殴られたグレイベアは、足元がふらつきバランスを崩した。
そこをバスクさんが間髪入れずに、剣を振り下ろし、そのグレイベアの肩から胸にかけて大きく切り裂かれ、その巨体は力なく崩れ落ちた。
残りの一匹は私の三日月が片眼に刺さったまま、アイシャの方に走る。
アイシャは最初にグレイベアに突き刺した剣が抜けず、仕方なく腰の短剣を抜き、走って来るグレイベアを迎え撃とうとする。
すると繁みからザージンさんが飛び出し、向かって来るグレイベアとアイシャの間で立ち止まり、短剣を構える。
あの人、戦闘力はそんなに高くないってバスクさんが言ってたよな?
私は咄嗟に飛ばしたバックラーを走るグレイベアの顔面にぶつけた。
バァギィンッ!
よろけたグレイベアに、バックラーを足場にして反動をつけたクウネの渾身の拳が、眼に刺さった三日月の所にヒットした。
バァゴンッ!
「グボァァァァーー………」
ドシーーッン!
三日月が深々と眼にめり込んだグレイベアは、断末魔を上げて仰向けに倒れた。
電光石火の奇襲で、三匹のグレイベアを倒したが、ボスの姿は見えない。
「…あの、いつまでそうしてるのでしょうか?」
アイシャを背にして、目をつむったザージンさんが、仰向けに倒れたグレイベアに向かって短剣を構えていたが、アイシャに声を掛けられ、目を開けてアイシャの方に振り返った。
「あ、アイシャさんが危ないっと思ったら、体が勝手に…飛び出しちゃいました…」
「もうそのグレイベアはクウネが倒してくれてますよ」
「あ、ホントっすね」
はぁっとアイシャがため息をついた。
グレイベアがアイシャに向かって走っていったから、思わず飛び出しちゃったんだ!
アイシャを守ろうとしたんだー!
きゃー!
思わずニヤけてしてしまう…。
アイシャから私に殺気が…。
「お嬢様。その締まりのない顔…、止めてもらえませんか」
「ご、ごめん…」
怖かった。今の顔、マジで怖かったよ!アイシャ!
「ラフィーネ!気を抜くのはちょっと早いぞ。根城の向こう側だ!」
グルルルルゥー……。
私達は根城の方に振り返ると、低い唸り声が聞こえる。
うず高く積まれた根城の上から、そいつはゆっくりと姿を現した。
グレイベアの群れのボスだ。
バスクさんの言った通り、すぐに分かった。
他のグレイベアよりも体が大きく、グレイではなく漆黒を思わせる黒い体躯が、根城の上から私達を見下ろす。
そいつは根城からゆっくりと下りて、少し距離を取った所で立ち止まり、私達を順に見回す。
私はそのボスを、正面から見据えた。
不思議と恐怖感を覚えなかった。
それよりもこいつと勝負したい、倒したい。
そんな気持ちが勝っていた。
これはグレリオン家の血なのかもしれないな。
私は頭の中で冷静にそんな事を考えていた。
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