第25話 ニヤニヤからの初討伐クエストです
「えっ?今、何と?」
ザージンさんは顔を真っ赤にしながら、アイシャに聞かれ、モジモジしながら答える。
「だ、だから、その…。さっきアイシャさんを見た時から…。す、好きに…」
なん…だと。
ザージンさんはアイシャに一目惚れをした…だと…。
私は横からアイシャの顔を見た。
アイシャは一切表情を変えずにザージンさんに言った。
「貴方の私に対する感情はともかく、後をつけられるのはあまり良い気はしません。明日のクエストもあります。とりあえず今日の所はお引き取りになってください」
冷たっ!アイシャ冷たくないっ?きっとザージンさんは必死だよ?
「で、でも……。わ、分かりましたっす。すいませんっした」
ザージンさんはそう言い残し、その場から立ち去った。
後ろ姿がどことなく…いや、かなり寂しそうだった。
アイシャは私達の方を向き、
「さあ、武器屋の方に急ぎましょうか」
何事もなかったように歩き出した。
武器屋さんに向かう道中。
さっきから私とクウネのニヤニヤが止まらない。
たまらずアイシャが私に言ってきた。
「お嬢様。クウネ。その締まりのない顔、止めてもらえませんか?」
「えっ?だって、ザージンさんにあんな事言われて、アイシャは何も思わないのかなーって」
「別に何も」
「えー!?だって好きって言われたんだよ?」
「そう言われても、初対面の人ですからね。ナンパみたいなものでしょ?」
「ふーん、そうなのかー」
しかし、アイシャは自分で気付いていない。
自分の顔も少し赤くなっているということを!
私とクウネは顔を見合せ、ニヤニヤしながら歩いていた。
私達は武器屋に到着し、クウネの手甲を選ぶ事になったのだが、
「すまんね、手甲はもうこれしか残ってねえんだわ」
そう言って、武器屋のおじさんはカウンターから一組の手甲を出した。
それを見たクウネは
「ぶー、可愛くない…」
「お嬢ちゃん、可愛いくないって、手甲だからね…」
「じゃあ、このへこんだヤツを直して、強くして、可愛いく出来ますか?」
「か、可愛くって、どんな感じにだい?」
「えっとねー…」
クウネは武器屋のおじさんに、手甲に着ける装飾などを詳しく説明していった。
おじさんは戸惑いながらも、クウネからデザインを聞いてメモしていた。
「…分かったよ。お嬢ちゃん。ちょっと日にちはかかるけど、気に入ってくれるように頑張ってみるからよ」
「わーい!よろしくお願いします」
クウネはおじさんの手を握り、尻尾を振って、可愛いさオーラ全開でお願いした。
おじさんはまんざらでもない笑顔で、照れくさそうに頭を掻いていた。
恐るべし…。クウネの無邪気可愛いさパワー。
そしておじさんは私の方に向かって
「そうそう、あの三日月型の刃物も追加で五枚ほど出来てるけど、今日持って帰るかい?」
「あ、もう出来てるんですか?」
「ああ、そっちの背の高い姉ちゃんから二十枚って言われてて、まだ五枚しか出来てないけど」
アイシャ、二十枚も追加お願いしてたのね…。
私達は新しいクウネの手甲と追加の三日月を受け取り、へこんだ手甲は修理と補強をするのに預かってもらい、武器屋さんを後にした。
そしてギルドに寄り、受付カウンターで一応、ジーノさんの新しいクエストが出ていないか、確認しに行った。
「こちらのトサレタ商会さんの指名クエストですね」
明日の朝に受注する予定だったが、もう出ていたので、手形を確認して受注も無事に完了した。
今日の護衛クエストの報酬も受け取る事が出来た。
三日前にクエストボードで見た金額よりも多かったので、受付の人に聞いた。
「依頼主の方から追加で、と伺っておりますので、そちらで間違いないですよ。バスクさんにも追加報酬が出ていますね」
どうやらジーノさんが報酬を増やしてくれたみたいだった。
まだお金には余裕はあるのだけど、あればそれは助かるし、ありがたい。
でも私達はジーノさんに家賃を払う為に、ジーノさんのクエストで報酬を得ていたら、ジーノさんの儲けは少なくなっちゃうな。
これからはできるだけトサレタ商会のクエストは受けないで、他の依頼主のクエストにした方がいいよなと私は思った。
ギルドでの用事を済ませた私達はギルドを出て、家に帰って来た。
まだ日没まで時間があるので、私は新しい三日月を出して、裏庭で練習することにした。
クウネも新しい手甲を馴染ませる為に少し体を動かすと言って、一緒に二人で裏庭に出て行った。
アイシャは夕飯の支度をすると言って、台所に行く。
裏庭に来た私とクウネはアイシャが台所に入ったのを確認して、裏庭の隅で
「ねえねえ、クウネ。ザージンさんの事、どう思う?」
「えー?アイシャちゃん、キレイだもんね」
「まあ、確かにアイシャは美人だけど、いきなり告るって、勇気あるよねー」
「あのザージンって人、明日、大丈夫かな?」
「そうだよねー。あれはフラれたというのかな?」
「でも付き合って!とか言ってなかったし、好きです!って宣言?」
「ちょっと難しいねー。明日、どうなんのかな?」
私達はそんな話ばっかして、結局ほとんど練習しなかった…。
その後もアイシャは何事もなかったように過ごしていたが、夕飯の時とかザージンさんの話題になると、表情こそ変わらなかったが、アイシャの顔が少し赤くなるのを私は見逃さなかった。
翌朝、私達は準備を整えて昨日のトサレタ商店に行った。
ジーノさんに迎えられ、転移ゲートのある部屋で私達は待っていた。
まだバスクさんとザージンさんは来ていなかった。
まさか、昨日の事を引きずってザージンさんが来ないなんて事はないだろうか?と思っていたら、バスクさんとザージンさんが一緒に部屋に入って来た。
「おう!お嬢ちゃん達。待たせてすまねえ」
「遅れてすいませんっす」
「おはようございます。バスクさん、ザージンさん。まだ時間前ですし、大丈夫ですよ。私達が早く来すぎただけなんで」
私がそう言うと、クウネも
「おはよー。バスクさん。ザージンさん」
そしてアイシャも
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
するとバスクさんは
「おう!こちらこそよろしくな!頼りにしてるぜ。三人とも!」
ザージンさんも特に昨日とはあまり変わらない様子で
「よろしくお願いしまっす」
私達は挨拶されてふと、アイシャを見たら少し顔が赤くなっていて、ザージンさんの顔を見たら、アイシャを見て同じように少し赤くなっていた。
……えっ?二人とも、めっちゃ意識してる…!
大丈夫なのか、これ?
すると部屋にジーノさんとマクダさんが入ってきて、ジーノさんが私達に話し掛ける。
「では、皆さん揃いましたので、討伐クエストをお願いしたいと思います」
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