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ネバーエンディング・ゴールデンタイム

作者: 川里隼生
掲載日:2022/04/01

 火の鳥。または不死鳥。英語でフェニックスと訳されるそれは、死と生を繰り返しながら悠久の時を生きる伝説の生き物。不老不死や死者蘇生に対する憧れが、このような伝説を産み出したのだろう。古代中国の皇帝も探し求めた永遠の命を、しかし人は時として悲観的に表現する。曰く自らだけが時の流れに取り残され、老いて死にゆく周囲を見ていられなくなるのだと。あるいは、この悲しみに溢れた世の中で生き続けることこそが苦痛であろうと。


 イソップ寓話の酸っぱい葡萄に描かれた狐と同じなのだろう。人間が不死になることはないのだから、不死の者はきっと苦しむに違いない。そう思い込みたいのだ。何万年もかけて、結局人類は負け惜しみを言うことしかできなかった。


 ところで今日の葡萄は本当に少し酸っぱかった。正確に描写するなら、昼に大学の食堂で食べたフルーツポンチが酸っぱかった。確かに三月は葡萄の旬ではないが、保存方法を工夫するなどすれば味を良くできた筈だ。食堂で食べる最後のメニューだったので、少し残念に思った。四月からは新生活。私は脳科学の研究者としての第一歩を踏み出すのだ。


 なぜ脳科学者を志したか。それは私の奇妙な体験に起因する。私には高校を卒業するまでの記憶がない。ある日突然、目が覚めたと思ったら大学一年生の春だったのだ。友人や家族などの名前は覚えており、彼らと最長十八年の付き合いを積み重ねてきた感覚はあったのだが、具体的な思い出が一切残っていない。


 これからは、己が何者なのかを研究していきたい。そう決意を新たにしていたため、横断歩道での左右確認を失念したのだろう。帰宅していた私は、信号を無視したトラックに吸い込まれていった。

「危ない!」

 私の隣で信号待ちをしていた高校生の叫び声。彼は私を突き飛ばそうとしてくれたようだが、残念ながら私の巻き添えとなってしまった。悲鳴のようなブレーキ音が私たちを支配した。


 薄れる意識の中、私は走馬灯を見た。長い長い、大学生活の断片だ。四年分ではない。八年、十六年、三十二年……。数え切れないくらいの長い長い学生生活。どれも違う学生のものらしい。それぞれの学生たちは学部が違ったり、学校の設備が違ったりしている。性別も違うらしい。それでも尚、これは私の走馬灯であると認識した。




 どれだけの時間が経ったのだろう。俺は病室で目を覚ました。

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