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リウィアへの信頼

 丸一日、観光を思う存分楽しんだタルキウスとリウィアは今日泊まる宿へと戻る。

 国王としての身分を隠し、一般の旅人として振舞うために宿は極々普通の場所が選ばれた。

 特に飾り気の無い二人部屋だったが、タルキウスもリウィアも特に問題には感じていない。


「いや~。食った食った!」

 宿の夕食を食べ終えたタルキウスはベッドの上に寝転び、両手でお腹を撫でる。


「ふふ。たくさんお召し上がりになられましたね」


 タルキウスはこの宿の食堂で大人用の食事を五人分も平らげるという大食ぶりを披露した。その食べっぷりには宿の亭主や他の客まで驚く有り様だった。


「うん。ここの飯はとっても美味かったからね。まぁ、リウィアの料理の方が美味しいけどさ」


「ふふ。ありがとうございます。それでタルキウス様、今日一日、町を回られて何か分かりましたか?」


「う~ん。流石に町を歩き回ってるだけじゃあ収穫はほとんど無いかな。強いて挙げるなら、空き家や閉店している店が多かったって事くらいかな。見た限り、どこもここ最近になって発生してるようだったから」


「カプアの財政はかなり厳しい状態にあるという事でしょうか?」


「たぶんね。そんな報告は聞いてないから何とも言えないけど。やっぱりここは潜入調査かな!」

 妙に楽しそうにタルキウスは語る。


「もう! またご自分で危ない橋を渡ろうとなさって! タルキウス様は王様なんですから、そういう事は誰か他の方にお任せになれば宜しいのに」


「えー! 自分でやった方が楽しいじゃん! それに人任せってのは俺の性に合わないしね!」


「まったくタルキウス様は……」

 タルキウスの言葉にリウィアは頭を抱える。

 タルキウスは為政者として優れた手腕を有している。それはこの一年間の治世で存分に発揮されており、国民にも周知されていた。


 しかし、やはりタルキウスはまだ十一歳の子供なのだ。時には自分の好奇心や興味に流される事もしばしばある。とはいえ、タルキウスにも多少言い分がある事もリウィアは知っていた。


 仮に調査団を組織して派遣しても、調査団をカプアが金で買収して嘘の報告をさせるという恐れがあるという事だ。

 いくらタルキウスが独裁体制を構築して、黄金王による恐怖政治を施行しても、長年に渡ってエルトリアに蔓延してきた貴族の腐敗を払拭するのには長い時間を要し、今はまだその途上にあると言って良い。だからこそタルキウスは自分の目で事実を確認したい。そんな思いがあったのだろう。


 リウィアは優しい手付きでタルキウスの頭を撫でる。

「どうせ私がお止めしても無駄でしょうし、何も言いません。タルキウス様の事ですから、何も心配はしていませんが、無茶だけはいけませんよ!」


 エルトリアへの反逆を企てているかもしれないカプア市長の根拠地への潜入。うまくいけば反逆の噂の真偽も確かめられるだろう。しかし下手をすれば敵陣のど真ん中で戦闘に、という最悪のケースも考えられる。

 タルキウスであれば、仮にカプア市長が動員し得る全ての戦力を一度に相手しても難なく蹴散らせるだろう。


「うん! 分かってるって! リウィアはここでのんびりしててよ」


「……はい」

 本当ならばタルキウスと一緒に行きたいという気持ちがリウィアにはあった。

 しかし、タルキウスと違ってリウィアの戦闘能力は皆無に等しい。一緒に行ったとしても足手纏いにしかならないのはリウィア本人が一番よく理解している。

 そのためリウィアは、タルキウスに同行したいとは言い出さなかった。


「もし俺が怪我をしてもリウィアがすぐに治してくれるでしょ。それが俺にはすっごく心強いんだ!」

 リウィアの考えている事を察してかタルキウスは無邪気な笑みを浮かべながら、そんな事を言い出した。


 リウィアは戦闘能力には乏しいものの、外傷を治したりする事ができる医療魔法と呼ばれる分野の魔法に関しては天才的な技量を有していた。

 医療魔法は膨大な知識と緻密な魔力制御を必要とし、数ある魔法の中でもトップクラスの難易度がある。そのため、医療魔法を専門に扱える医療魔導師は貴重な人材あり、それがリウィアを聖女たらしめている大きな要因だった。


「ふふ。そう言って頂けて嬉しいです」

 タルキウスの無邪気な笑みに負けないくらいの満面の笑みを、リウィアはタルキウスに対して向けた。


「それと、リウィアにこれをあげるよ」

 そう言ってタルキウスは金で作られた鷲の首飾りをリウィアに渡す。

 その首飾りに触れた瞬間、リウィアは首飾りに膨大な量のタルキウスの魔力が込められているのに気付いた。

「あ、あの、タルキウス様、これは?」


「俺の魔力を込めておいたから、もしリウィアを襲おうなんて奴がいたら、この首飾りが守ってくれるから安心して!」


「ありがとうございます、タルキウス様」

 タルキウスからの贈り物を嬉しそうに受け取ったリウィアは早速、その首飾りを自分の首に付けた。

 喜んで貰えた、と思ったタルキウスは無邪気な笑みを浮かべる。

「ふふ。とっても良く似合ってるよ!」


「俺は必ずここへ戻って来るから。リウィアもそれまではここを動かない様にしてね」


「はい! 分かりました。では、ここでタルキウス様が戻られるのを待っていますね!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] タルキウスの活躍は楽しみだけど、政治という側面で考えると大変ですね。タルキウスがいくら強くとも体は1つしかありませんので。其辺が今後の問題となりそうですね。しかもリウィア守りながらでは。 …
[良い点]  終始毅然とした態度の聡明で剛腕無双な主人公がヒロインには甘えっぱなしで頭が上がらないのが微笑ましいです。  文章も実に洗練されていて、テンポのよさと説明の丁寧さのバランスがいいです。紀元…
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