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愛売る商人  作者: 紫 燕
1/1

旅立ち

「将来は勇者様のお嫁さんになるの!そのために私はまず、魔法使いになって勇者のパーティに入る!」


ーーーなんて言って、本当に魔法使いになって勇者パーティに入っちまった奴を、俺は知っている。


「勇者の恋人って言ったらやっぱり魔法使いでしょ!」


なんて頭のゆるいこと言いやがって・・・。

勇者の嫁って言ったら故郷の町娘か勇者パーティの僧侶だろ。

そんな俺の独断と偏見は、


「成れないものには成らないの!」


はっきりとした態度で一蹴しやがる。

いや、そうじゃないだろ。お前は幼馴染みの俺と結婚するんじゃなかったのかよ。

いいじゃないか、勇者なんかと結婚しなくたって。

家を買おう。高い家は買えないけど、そこに幸せをいっぱい詰め込んでいくんだ。

きっと、勇者の金なんかじゃ買えない、素敵な家になる。幸せいっぱいの小さな暮らし。

そんな生活を俺と営んでいってくれよ。

金は貯めたんだ。コツコツコツコツ、7年間。お前と結婚するための金なんだ。

だから、勇者パーティなんかに行くな。

今ならまだ引き返せる。

ごめんなさい、やっぱり私はこの世で一番私のことを愛してくれる人とこの村にいます。

それで万事解決だ。


「さっきから何ぶつぶつ言ってるの?じゃ、私行くから!」


おい、ちょっと待て。


「バイバーイ!魔王倒したらまた会おうね!私、絶対幸せになってくるからね!」


魔王倒すのと勇者と結婚するのを並べるな!

ってゆーかほんとに、


「待ってくれーーーーー!!!・・・あ、」


ーーー夢、か・・・。

・・・・・・・いや、夢じゃない、んだよな・・。夢なら醒めて欲しいくらいだ。

どうしたって思い出してしまう、もう1週間も前のことなのに。

本当は今すぐ追いかけたいんだ。勇者と結婚するのは止められなくても、せめてこの手で守ってやりたい。

だが生憎剣も振れない、魔法も使えない、そんな、特別なスキルなんて何一つ持っていない俺には、勇者の仲間になるどころか好きな女1人守ることも叶わない。

あるのはコツコツ貯めた金・・・。

幸せを掴むために貯めてたのに、今は何の役にも立ちはしない。


・・・・・・・・・、


「商人がきたよーー!」


絶望に打ちひしがれた俺が、村の子ども達のキャーキャー騒ぐ声を耳にしたのは、更に3日経った後だった。


「ひゃー、ここまで来るのに苦労したぜー。」


と言う割に余裕な表情を見せ、爽やかな笑顔で汗を拭いているその商人は、俺よりも一回りほどでかい体躯をもつ、精悍な顔つきをしたやつだった。


「お、そこの兄さん、今ちょうどいい品がはいってるんだが、見ていくかい?」


部屋の窓から外の様子を伺っていた俺に気づいた商人の男が声をかけてきた。


「・・・いや、いい。」


今は欲しいものなんて特に何もない俺はぼそりと呟くように言った。おそらく相手には聞こえていない。


「あー!?何だってーー!!?」

「・・・・・」


でかい声で聞き返してくるが、何も答えずに部屋の奥に引っ込む。


「ねーねー、おじちゃん!僕達に売ってよ!」


元気な男の子の声が響いてくる。


「おー!いいぞー!!何が欲しい?」


負けじと響く男の声。何歳なんだこいつは。


「俺その真っ赤な飴が欲しい!!」


僕もー私もーと便乗した声が上がる。


「あー、これか・・・。悪い!これは少々値が張るんだよ。」


えー、やだー、これがいいーと駄々をこねだす子ども達。男の戸惑う顔が目に浮かぶ。

しばらく男の声はしなかったが、相変わらず子ども達の駄々をこねる声は聞こえる。全く、親はなにをやってるんだ。

しかし、


「・・・よし!わかった!!」


という男の声で子ども達の喚き声はピタリと止んだ。


「俺も商人だ。取引をしよう!と言っても、子どもから高い銭を巻き上げるわけにはいかねえ。代わりに、一つおつかいを頼まれてくれないか?」


おそらく思いっきり赤字になるのであろうが、子どもの夢を壊さない方を選んだようだ。商人にしては甘いやつだ。


「この村にナターシャって女の子がいるはずなんだ。その子を探してきてくれないか?」


!!!

今こいつなんて言った?確かに「ナターシャ」って聞こえたぞ。


「なんだいあんた、ナターシャを探しているのか?」


たまたま通りかかったであろう男が話しかけているようだ。


「ナターシャは10日ほど前に旅立ったよ。なんでも勇者のパーティに合流するとか言って。」

「え、そうなのか。じゃあこの村に特に用はなくなっちまったな。でもおかしいな、確か今日ーーー」

「ちょっと待ってくれ!」


気がついたら俺は窓から外に飛び出していた。


「ナーー、ッカ、ゴホッ、ガハッ!」


くそ、久しぶりに大声を発したせいか咳き込んでしまう・・・!


「おいおい、大丈夫かあんた?風邪薬なら結構安くで売れるぞ、ほら。」


違う、別に風邪なんか引いてない。俺の尋常じゃない様子を見ればわかるだろう。本当に商人かこいつ。


「ち、がう・・・!」


薬を差し出してくるのを手で制しながら無理やり咳き込むのを押さえつける。


「・・・っ、おい、今あんたナターシャって言ったか?ナターシャに何かあったのか!?何があった!?あいつは今無事なのか!?誰かに狙われているのか!?」


息を整えるやいなや早口でまくし立てる俺をその商人は「落ち着け」と軽く制しながら、


「ナターシャの安否は俺には分からない。元々今日、俺は彼女を迎えに来る予定だったんだ。手紙もよこしてるはずなんだが・・・。ああ、自己紹介が遅れたが、俺はーーー」


事情を俺に説明しだした。なるほど、話を聞くにどうやらこの商人、アルフレッドは勇者パーティの一員らしい。そんでもって今日は事前に手紙を送っていた通り、勇者パーティと合流すべく迎えにきたとのことだった。ただ、どういうわけかアルフレッドがこの村に着く前に先に出てしまったらしい。

あいつが村を出たのは10日前の15日・・・。

まさかあいつ、頭の中で25日、25日と唱え続けているうちに15日に勝手に変換しちまったんじゃ・・・、あいつならあり得る・・・。

・・・いや、流石にあいつでもそこまでバカではないはず、仮に勘違いしたとしても、手紙を読み直せば済むのだから。

ということは逆に手紙の内容の方が間違っていた可能性もある。


「これがその手紙の写しだ。」


アルフレッドから手紙の写しを見せてもらう。重要な手紙は写しを保存しておくと聞いたことはあるが、実際に手紙の写しを見るのは初めてだ。


「・・・確かに、25日に迎えに行くと書いてあるな・・・。」


こんな形で最後の希望が消えようとは・・。つまりあいつは勝手に日付を勘違いした上に手紙を読み返すこともせず、迎えが来ないと業を煮やしてさっさと旅立ってしまった、正真正銘の、


「ーーーバカだ。」

「ま、まあそう言うなよ。手紙の文字が何かしらの理由で読みにくくなってたのかもしれないし。」

「いや、フォローしないでくれ。あいつはほんとにバカなんだ・・・。」

「いや、アルフレッドさん、コイツの言う通りナターシャの奴はほんとにバカなんだよ。何であいつが勇者さんのパーティに入れたのか分からないくらいだ。」


2対1であいつの非難とそのフォローの図式ができあがる。同じ村の人間が2人とも非難している側という悲しい図式だ。まあ、よく知っているからこそ非難しているわけだが。


「ま、まあどのみち俺がここにいる意味はこれ以上ないみたいだし、今からでも何とから追いかけてみるよ・・・。情報提供ありがとな。」


会話もそこそこに村の出口の方を見やったアルフレッドは、「さて」と前置きしつつ、


「10日分の遅れを取り戻さないと、だな。」


と呟いた。本人は爽やかな笑顔で言っているつもりなのだろうが、若干引きつっている。普通に考えて10日分先行してしまったやつを追いかけるのはかなり骨が折れる。

かなりめんどくさいことになったと引きつった表情は物語っている。


「俺も連れて行ってくれ。」

「は?」


気づくと俺はそう言っていた。もちろん、アルフレッドの心中を慮って出た言葉ではない。単にあいつが心配なのと、「商人」という職で勇者のパーティに入れるなら、そのままあいつと共に旅をすることもできると考えていたからだ。それなら戦えなくてもあいつをサポートすることができるし、最悪盾になって守ることもできる。・・俺は死ぬかもしれないが。


「いや、あんた何言ってーーー」

「10日分の遅れを取り戻すなら、あいつの思考を読み取って先回りするくらいのことをしないと追いつけない。俺はあいつのことはあいつ以上に分かってるつもりだ。俺も一緒について行って、あいつの行動を予測すれば5日もあれば追いつける。」


アルフレッドが何か言う前に言葉を繋ぐ。


「・・・それに俺も、あいつのことは心配だ。せめてきちんと合流するまでは見届けたい。」


駄目押しの言葉も付け加えた。あくまで「合流するまで」の間であればギリギリ同行を許してくれるだろう。


「・・・アルフレッドさん、こいつの言ってることは間違ってない。こいつはナターシャの幼馴染で、ナターシャのことは誰より理解している。何よりナターシャを想う気持ちは誰より強い。それは村中の皆がよく知っている。どうか連れてやってくれないか。」

「・・・。」


考え込むアルフレッドにヤージ(通りがかりの村人の名前だ)が取りなしてくれる。


「・・・ダメだ。」

「っ!!」


それでもアルフレッドの答えは「ノー」だった。


「外の世界は危険だ。命の保証はできない。」

「っ!!命なんて惜しくはーー」

「軽々しく言うな。皆の命を守るために命懸けで戦っているやつらに失礼だろ。俺たちはお前達の命を守るために戦う決意をした。軽々しく命を捨てるような発言は控えろ。村人Aはおとなしく村人をやってろ。」


くそっ、正論を言われちまったら反論もできねぇ。でもな、


「ふざけんなっ!あんたの価値観を押し付けるんじゃーー」


叫びながら砂を蹴り上げると同時に跳び上がる。


「っ!!」


蹴り上げた砂はアルフレッドの目に入り、


「ーーねぇっ!」


蹴り上げた足でそのままアルフレッドの肩を蹴り込み、背中から地面に叩きつける。

そして掠め取った売り物のナイフを首元に突きつける。ナイフの刃先が喉元に軽く触れ、そこから軽く血が流れる。


「っ!!」

「ねー、どーしたのー?」

「ヤージさん、見えないよー。」


子ども達の目は瞬間ヤージが隠したおかげでアルフレッドが血を流しているこの現状は見ていない。


「おい、もう一度だけ言う。俺も連れて行け。」

「・・・っ!!」

「・・・おい、早く連れて行くと言え。」

「・・・アルフレッドさん、わ、悪いことは言わねえ。合流するまでなら間だけ連れて行ってやってくれ・・・っ!こ、こいつは昔からナターシャのことになると目の色が変わるんだ・・!!」

「・・・ちっ!どうやらそのようだな・・・!!」


イラついた目でこちらを睨みつけてくるアルフレッド・・・。この状況でこの表情、どうやら先ほどのこいつの言葉は本気のもののようだ。


「・・・わかったよ、連れて行ってやる。ただし、本当に合流するまでの間だけだ。それで納得できないなら殺せ。」

「・・・わかった。二言はないた。」

「・・ちっ、ねーよ。」


アルフレッドの言葉を受けてどいてやった。一旦は了解させたが、これから俺は自分の有用性を示していく必要がある。でないと合流してから勇者のパーティについていくことができない。

・・・だいぶマイナスからのスタートになってしまったが。


「・・・しっ!もういいぞ!」


地面の血を足で消しつつ、血止めの薬を喉元に塗ったアルフレッドがヤージに声をかける。それを受けてヤージが子ども達の目を塞いでいた手をどける。


「もー!何だったの!」

「悪い悪い、ちょっとな。」


ヤージは子ども達に謝りながら、こちらを恨みがましい目で見てくる。


「いやぁ、悪かったな。あ、そういえばお礼の飴がまだだったな、ほらよ。」


何一つ悪くないアルフレッドが子ども達に謝りつつ、馬車にかけてあった透明な袋から赤い飴玉を3つ取り出して子ども達に渡した。


「やったー!」

「おじさんありがとー!」

「わーい!おいしー!」


子ども達は口々に叫びながら飴を頬張り、走り去っていく。


「転ぶなよー!」


それを笑顔で見送るアルフレッド。子ども達に大きく手を振っている。


「さて・・・とっ!!」

「っ!!!」


子ども達が見えなくなった瞬間、急激に表情を変えたアルフレッドに殴り飛ばされた。

こいつ、ほんと商人なのか・・!?すごい力だ。


「それはそれとして、不意打ち食らわされた礼はしないとな。これであいこだ。」

「・・・」


ぐうの音も出ない。くそっ、相当聞いたぞ。


「改めて自己紹介といこうか。俺の名前はアルフレッド・ハント。勇者パーティの商人だ。」


・・・いきなり何を言いだすんだ、こいつは。


「お前の名は?一時的とはいえ同行するんだ、名前くらい教えろよ。まさか村人Aとは言わねえよな?」


・・・そういうことか。舐めやがって。


「・・・Aでいい。」


立ち上がりながらそう言った。


「あんたがきちんと名前を呼びたくなったら、その時に聞け。」

「・・・上等だ。」


半分命令されるように名前を教えたところで、こいつの中で俺が「村人A」であることに変わりはない。ナターシャと合流した後も同行を続けるには、まずこいつに「仲間」と思わせる必要がある。


「胸に刻んだおけよ。『今のところ』お前を倒した男の呼び名なんだからな。」

「・・・バカ言え。負けたなんて思っちゃねーよ。」


ーーーかくして、前途多難な俺の旅は始まった。

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