第六話『ママの作品世界』
出展者の大宮がギャラリーに戻ってきたので勝巳とありさは、庭に出た。メイちゃんも連れてプールに入れた。初夏の日差しが木漏れ日をキラキラ映し出している。
芝生の庭で、勝巳はいつも展示用に使うイーゼルや額縁を作っている。それぞれの作品に合ったイーゼルや額をデザインしている。ちょっとしたものだが、作品世界をより良く彩っていて、センスが良い。今まで使ったイーゼルや作りかけのイーゼルもあるから、二人はありさの母、利恵の作品を掛けてみた。
「わー、ママの作品世界って感じになるね!」ありさはすごく嬉しそうだ。
「姉さんの絵は、やっぱりいいですよね。」
なぜか、勝巳はよく、ありさに敬語を使う。ありさは慣れているので、気にも留めていないが。
芝生の真ん中にテーブルと椅子も出してあるので、二人は腰掛けてママの絵を見ていた。窓の中では、大宮が来店客を招じ入れて、作品を説明している様子が見える。メイちゃんは子供用プールで水を跳ね散らかして遊んでいる。
ありさは、クリエイティブな職業の母を尊敬している。ありさには、特に絵を描きたいとは思えないからだ。子供の頃、母から塗り絵帳を貰って、灰色のクレヨンで塗り潰したら、母が激怒したのを覚えている。悪気はなかったのだけれど、そうしてみたかったのだ。お決まりの色で塗るのはつまらないと思って子供の反逆精神的にそうなったのかもしれない。でも、母はありさが喜ぶと思ったのに、すごく傷ついたようだった。母は、自身の内側にある子供性を、作品の中に絶えず追求しているように見えた。そういう意味で、嬉々として絵を描く姿は、母の方が子供子供していた。