Cafe Shelly 好き、の一言が
どうしてこんなことになったんだろう。まさか、オレが女の子と、しかもクラスのマドンナ的存在のまゆりちゃんと一緒に並んで歩いているなんて。夢のようなことだけれど、これが事実なんだから。
「ねぇ、ゆうやくんって、食べ物だと何が好きなの?」
「えっ、た、食べ物?そ、そうだなぁ」
やべぇ、女の子と会話なんてまともにやったことないから、すっげぇ緊張してる。手に汗が出てきた。口の中も乾いてきている。これってドッキリじゃないよね?
思わず周りを見回す。ひょっとしたら誰か陰から見ているんじゃないか?
いや、さすがにここには誰もいないよね。何しろここはただっ広い公園。隠れるところなんかないし。
「ゆうやくん、どうしたの?」
「えっ、いや、なんでもないよ。えっと、好きな食べ物だったね。そうだなぁ、オレはたこ焼きと餃子が好きかな」
「あはっ、なんか意外だったな。スポーツマンだから、肉とかそんなものかと思ってた」
そう、オレは一応スポーツマン。今の今まで卓球命で過ごしてきた。うちの学校は卓球部は県内でも一、二位を争うほどの強豪。その中でレギュラー争いもあり、オレは上を目指すことしか頭になかった。それがオレの青春だったのに。
クラスのマドンナ、まゆりちゃんとこうなったきっかけは文化祭である。オレは秋の大会に向けて、部活に必死になっていた。レギュラー入りするかどうか、瀬戸際のラインにいるのを自覚していたからだ。だから、異性のことなんて目にも入れていなかったのに。
わが校の文化祭は結構派手に行われる。その中で演劇部が劇をするのだが。わが校は商業高校なので、圧倒的に女性が多い。さらに演劇部となると、ほとんどが女性。そのため、エキストラとして男性が必要になるため、クラスの演劇部のやつが助けを求めに来た。
「なぁ、ゆうや、通行人の役でいいからさ、劇を手伝ってくれないか?」
唯一と言っていい演劇部の男性部員、はやとがオレに助けを求めに来た。実は、はやとの頼みは断れない関係にある。卓球一筋のオレは、勉強面では正直なところ非常に危ないラインをさまよっている。事実、一学期の期末テストでは赤点スレスレの成績だった。
そんなオレの勉強面を支えてくれたのがはやとである。はやとはオレに勉強を教えてくれて、特に英語ではギリギリの点数にまで引き上げてくれた。そんな恩人の頼みを断れるはずがない。まぁ、通行人程度なら部活にも支障はないだろう。
「わかった、他ならぬはやとの頼みだから引き受けてやるよ」
これが実は大きな間違いであった。いや、大きな罠が仕掛けてあった、と言ってもいいだろう。
文化祭の劇の練習日。オレの他にも三名ほどエキストラという名目で男子が招集されていた。野球部の斉藤、こいつは背が高くてかっこいいのだが、三番手投手で目立つほどではない。テニス部の飯島、ひょうきんものですばしっこい。こいつは残念ながらレギュラーにはなれないのだが、チームのムードメーカーとして活躍している。同じクラスのたかふみもいる。こいつは運動部には所属していないのだが、生徒会の方で実直に活動している。まじめで頭のいいやつである。
「今回は協力してくれてありがとう。早速だけどこれが台本。各自セリフを覚えてくれないかな」
そう言うと、はやとは台本をオレたちに配る。
「セリフ?おい、オレたち通行人って役じゃなかったっけ?」
どういうことだ?台本をパラパラとめくる。どうやら恋愛劇のようだが…
「お、おい、こ、これどういうことだ!?」
斉藤が大きな声で叫ぶ。他の連中も目を丸くしている。もちろんオレも。
「まぁまぁ、これでよろしく頼むよ」
よろしくって、おい、これ、本気かよ?
『好きです、ぜひオレとつきあってください』
オレのセリフの中にそんな文言が書かれてあった。つまり、オレの役目はただの通行人ではなく、主人公の女性に告白をする役目になっている。オレだけではない、他の三人も同じようなセリフを言うことになっている。
「今回の劇は、平凡な毎日を暮らしていた女子高生がとある魔法にかかり、突然モテるようになってしまったという話なんだ。その女子高生に告白をして、取り合いをする役をお願いしたいんだ」
「おい、約束と違うじゃねぇか。こんな猿芝居につきあってられねぇよ」
野球部の斉藤がクソ真面目な顔で言い放つ。
「まぁまぁ、これっておもしろそうじゃん。オレはやるよ。せっかくの文化祭なんだから、楽しまなきゃ。ね、そうだろ」
ひょうきん者のテニス部の飯島が、生徒会のたかふみの肩を抱きながらそう言う。
「まぁそうだな。たまには羽目を外してもいいんじゃないか。ゆうやはどうするんだ?」
「お、オレは…」
断ろうかとも思った。卓球の練習をしたいから。けれど、はやとの頼みは断れない。
「部活の事だったら大丈夫。演劇部の加藤先生からそれぞれの顧問の先生には話を通してあるから」
はやと、手回しがいいな。
結局、飯島の雰囲気に飲まれてみんな演劇には出演することになった。だが、この台本もう一つ問題点があった。
「…とまぁ、こんな感じで四人からの求愛を求められる主人公の愛。そしてその返事なんだけど、その場のアドリブで誰になるかを決めることにしているから」
「おい、アドリブって、じゃぁその後の展開はどうなるんだよ?」
たかふみが質問する。
「それは台本に書かれてあるとおり、誰が選ばれても同じようになるから。選ばれた男は愛を抱きかかえて舞台の袖へと消えていく。たったそれだけのことだから」
「その、主役の愛ってのは誰がやるんだ?それ次第じゃオレは降りるぞ。なにしろ、抱えなきゃいけないんだから」
一番身体の小さいテニス部の飯島の言うことももっともだ。オレもそこが一番気になる。
「ふふん、そこだよなぁ。てなことで、早速主役に登場してもらうとするか。ちょっと待ってろ」
はやとは隣の教室で練習をしている演劇部の女性陣の方へと走っていった。オレたちは主役の登場をドキドキしながら待つ。そして現れたのは…
「主役の愛役の新藤まゆりさんです」
な、なんと、うちのクラスの憧れの的、マドンナ的存在のまゆりさんが主役をやるとは。
「みなさん、よろしくね。じゃぁ、早速稽古に入りましょ。隣のクラスでみんな待ってるから」
まゆりちゃんにそう言われて、断る男子はまずいない。オレもついフラフラとまゆりちゃんの後をついて稽古に入ってしまった。
文化祭まで一週間。この期間は部活生も練習をほどほどにして、クラスの出し物なんかに力を入れている。そんな中、演劇部の練習も熱が入り始めた。
「違う、そこはもっと情熱的に!」
はやとは今回、脚本と舞台監督を務めている。なぜだかオレたち素人四人に対して、やたらと演劇指導をしてくる。最初は恥ずかしげにやっていたのだが、はやとの熱の入れ方に感化されて、オレたちも徐々にノッてきた。けれど、最後にオレたち四人の中から一人選ばれて、お姫様抱っこをして舞台袖に消えていく、という場面だけは最後のお楽しみということで稽古はされなかった。いや、正確に言えばそこのところだけはやとが代役としてお姫様抱っこされるということに。
そしていよいよ本番の日がやってきた。
「おい、いよいよ出番だな」
「ちょっと緊張するなぁ」
口々に気持ちを声にするオレたち。けれど、オレは舞台の反対側の袖でスタンバイをしているまゆりちゃんを見つめる。
そしていよいよオレたちの出番。最初に登場するのは野球部の斉藤。斉藤が舞台で甘いセリフをささやくと、観客から「キャー」という黄色い声が出てくる。さらに斉藤はまゆりちゃんの手を取る。すると、観客の黄色い声が一層高まる。
それを邪魔するようにテニス部の飯島が登場する。そして斉藤とまゆりちゃんの間に強引に入り込み、ここで甘いセリフ。この時点ではまるでコントなんだけれど、飯島はなんとまゆりちゃんの背中から抱きつくという行為に入る。もちろんこれは演出なのだが、飯島は練習のときには見せなかった本気を出しているように見えた。そうなると、観客の黄色い声は更に高まる。
そしてオレの登場。オレは少し悪ぶった感じで飯島とまゆりちゃんを引き離す。そしてこんなセリフを吐く。
「おい、オレがいつまでも黙ってお前らを見ていると思うなよ。オレだって、お前らには負けないくらい愛のことが好きなんだからよ」
ここで「キャー」、とはならない。あれっ、ど、どうしてだ?オレが悪役っぽく振る舞っているからか?だが、オレのセリフは続く。
「愛、いい加減本当の気持ちに気づけよ」
そしてオレはまゆりちゃんのほっぺに両手をそえ、唇を近づける。
「ちょっと待った!」
そうして表れるのが、生徒会のたかふみ。ここでは清純な高校生として登場する。オレとは真逆のキャラだ。そしてたかふみはオレをはねのけて愛を告白する。そしていよいよ主役の愛がオレたち四人の中から一人を選ぶ。ここからはアドリブ、ドキドキの瞬間だ。オレは目をつぶって手を差し出す。
「私、あなたに決めました」
四人が差し出している手の中から一つを握る瞬間。柔らかい感触がオレの右手を包み込む。すると、観客からは「えぇっ!」という驚きの声が上がる。オレは目を開ける。すると、目の前にはにこやかに笑う愛、いや、まゆりちゃんの顔が。
「お、オレッ!?」
これには驚いた。セリフが飛んでしまった。頭の中が真っ白だ。観客達も予想していなかった展開にざわめいている。
「さぁ、私を連れて行って!」
主役の愛のセリフに、やっと我を取り戻した。
「お、おうっ」
そう言ってオレは愛を抱きかかえる。すると、観客から今までにない「キャーッ」という黄色い声が沸き立った。それだけではない。男連中もさすがに「おぉっ」という声が上がる。なにしろ相手はクラスのマドンナのまゆりちゃんなのだから。嫉妬している男たちも大勢いるだろう。
こうして劇は終了。文化祭も二日目に突入しようとしていた。
「みんな、今回はありがとう。おかげで劇も盛り上がったよ」
はやとがオレたち四人に礼を言う。が、オレ以外の三人はなんだかモヤモヤしているようだ。その理由は明らか。だって、劇の上とはいえまゆりちゃんに選ばれたのはオレなのだから。
すると、まゆりちゃんも登場。
「みんなのおかげで、いい劇になりました。本当にありがとうございました」
そう言って丁寧にお辞儀をするまゆりちゃん。そしてなんと、一人ずつに向かって手を取って、感謝の言葉を述べる。さらに選ばなくてごめんなさいという言葉も。そして最後がオレだ。
「ゆうやくん、本当にありがとう。あなたを選んで正解でした」
「ど、どうしてオレを選んだんだ?」
ここが一番の疑問。他の奴らも、そして劇を見ていた観客も同じことを考えていたはずだ。
「んとね、理由は二つあるの。一つは役柄として選ばれないだろうという人を選ぶことで、見ている人に驚きを感じさせたかったこと。そしてもう一つは…」
ここでまゆりちゃん、急に下を向いて顔を赤らめている。
「ゆうや、そろそろ察してやれよ」
はやとの言葉、よく意味がわからない。どういうことだ?
「ったく、ゆうやは鈍いなぁ。あ、ひょっとしたらこの劇ってそのために仕組んだとか?」
たかふみの言葉でようやく気づいた。ってことは、まゆりちゃんがオレを選んだ理由は…
急に顔が熱くなった。あれって、公開告白だったのか。
「おい、ゆうや顔が真っ赤だぞ。ほら、まゆりちゃんの気持ちに答えてやれよ」
斉藤がオレを促す。
「にしても、オレたちゃとんだピエロ役だったよなぁ。ま、いっか。こんなのも青春の一ページだ」
飯島、すまん。オレだけこんなおいしい思いをさせてもらって。
「ゆうやくん、よろしくおねがいします」
あらためてまゆりちゃんがオレの両手を取って、そう言ってくれる。これに対して断る理由はない。
「こ、こちらこそ」
オレの青春の新しい一ページがスタートした。そのあと、みんなに囃し立てられるようにして手をつないで、近くの公園へと足を運んだ。
でもまだ実感が湧かない。これって文化祭の出し物の一つのドッキリじゃないかっていう気持ちが強い。緊張して会話もまともにできない。
「ゆうやくん、一つ質問してもいい?」
「えっ、なに?」
「ゆうやくんって、私のこと本当はどう思ってるの?」
「どう思ってるって…」
それってどう答えりゃいいんだ?
「か、かわいいって思ってる」
「ほんと、ありがと」
そう言ってニッコリ笑うまゆりちゃん。その笑顔がすごく眩しくて、まともに見ることができない。
そのあとは好きな食べ物とか、そういった他愛のない話をして学校へ戻った。好きな人と一緒にいるって、こんなに緊張するものだったんだなぁ。今までの人生でそういった経験ないから、ちょっと大変だったな。
翌日、オレとまゆりちゃんのことは学校中に知れ渡っていた。けれど、からかうとかそういったたぐいのことはない。どうやらはやとがきちんと根回しをして、オレたちのことを静かに見守って欲しいということを伝えてくれていたとか。さすがは演劇の演出家だ。舞台裏のことはここまできちんとやってくれるんだな。
さらには、生徒会のたかふみも協力してくれて、なるべく多くの生徒にそのおふれを出したらしい。こいつら、こういうことに関しては行動が早いんだな。おかげで文化祭二日目は、まゆりちゃんと二人でたっぷりと楽しむことができた。
けれど問題はある。それは…
「で、まゆりちゃんには愛の告白はしたのか?」
文化祭が終わって、はやとが質問してくる。
「いやぁ、それがまだ…」
「おい、まだなのかよ!」
「いや、だってさぁ…」
「だってさぁ、じゃねぇよ。まゆりちゃんがどれだけお前のことをずっと考えていたか、わかるか?それでオレに相談してきて、だから今回の大芝居を考えたんじゃねぇかよ。ったく、男としてだらしねぇぞ」
はやとがすごい剣幕でオレのことを怒る。確かにそう言われると、オレも男らしくないと思う。けれど、いざまゆりちゃんを目の前にすると、まだ緊張してうまく言葉が出ない。
落ち込んで家に変えると、アネキが珍しく家に来ていた。アネキはオレより7つ年上で、就職してからは家を出て一人暮らしをしている。たまに家に帰ってきて、一緒に飯を食うのだが、こういうときはたいてい給料日前で苦しくなったときだ。
「ゆうや、どうしたの?あんた、なんか暗いよ?」
「別にぃ…」
冷蔵庫から牛乳を取り出し、飲みながらそう答える。
「なに、もうまゆりちゃんにフラれたの?」
ブブーっ!
アネキの言葉で、牛乳を思いっきり吹き出してしまった。
「あー、きったないなぁ。ちゃんと拭いときなよ。あ、その態度は図星だな」
「ち、ちがうよ。まだ付き合い始めたばかりだって。って、なんでアネキがそのことを知ってんだよっ!」
「あ、やっぱ噂はホントだったんだ」
「えっ、噂って?」
「高校の文化祭で公開告白があったって。それで選ばれたのがゆうや、あんただって」
「ど、どこでそんなっ!」
オレは慌ててしまった。けれど、よく考えてみればあの劇を見ていたのは学生だけじゃなく、その保護者や地域の人たちも見ることができるんだから。オレやまゆりちゃんの知り合いが見ていてもおかしくはない。
「で、まゆりちゃんとはどうなったのよ?」
「どうって…まぁ、まだ付き合い始めたばっかだし」
「あんたからはちゃんと告白したの?」
そう言われてドキッとした。そしてちょっと落ち込む。それがまだだから、はやとに叱られたんだった。
「その表情じゃまだみたいね。ったく、もっとシャキッとしろよ。男の子だろっ!」
バシッ
思いっきり背中を叩かれる。
「シャキッとしろって言われてもさぁ…オレ、こういうの初めてだし」
「うーん、そうだなぁ。あ、あんた土曜日は時間とれる?」
「土曜日って、部活の練習があるんだけど。あ、でも午前中は文化祭の片付けでまだ卓球場が使えないからそこなら時間あるけど」
「よし、じゃぁ面白いところに連れてってあげる。九時には迎えに行くから」
「面白いところって?」
「それは土曜日のお楽しみっ!」
アネキ、オレをどこに連れて行こうというんだろう?
そして土曜日。九時と言ったのに八時早々にアネキはオレを迎えにやってきた。まだ朝飯食ってるところだっちゅーの。
「ほら、さっさと支度して。あー、ジャージなんてダサい格好しないの。もっといい服持ってないの?そんなんじゃまゆりちゃんにフラレるよ!」
ほっとけっ!オレはずっと卓球一筋だったから、普通の服はあまり持ってないんだって。
せっかちなアネキ、結局家を出たのは八時半。アネキの車で向かったのは街の方。街なかの店なんて開くのは十時ってのが相場だろう。けれど、アネキは強引にオレを引っ張って歩いていく。
「ほら、ここ」
到着したのは街なかにある路地。この通りは知っているけれど、めったに来ないところだ。ほとんどの店はまだ閉まってるけれど、一軒だけ開いているところがある。それがアネキが指さしたお店、カフェ・シェリーだ。
「ここね、私の高校時代の先輩がやってるところなの。ちょっと変わったコーヒーを飲ませてくれるから」
コーヒー?そんなのを飲ませるために朝っぱらからオレを引っ張ってきたってのか?
アネキはどんどんお店に続く階段をのぼっていく。オレも後についていく。
カラン・コロン・カラン
アネキが扉を開くと、心地よいカウベルの音が鳴り響いた。同時に漂ってくるコーヒーの香り。その中に甘い香りも含まれている。空気が一気に変わった感じがする。
「おはよーございまーす」
「あー、さーちゃん、おはよー」
アネキ、さーちゃんって呼ばれてたんだ。そう言った人物は、髪が長くてとてもきれいな人。この人がアネキの先輩なんだ。がさつなアネキにはにあわねーな。
「今日は弟連れてきました。ほれ、あいさつしな
「あ、お、おはようございます」
「おはよう」
にっこりと笑うその笑顔、天使のような人だな。
「ほら、何見とれてんのよ。マイさん、シェリー・ブレンドを二つお願いします」
「かしこまりました。あ、奥の席に座っててね」
案内されたのは窓際の半円型のテーブル席。四つの椅子があって、その右側の二つにオレたちは座った。
「マイさんってきれいな人でしょ。まゆりちゃんとどっちが好み?」
「な、なに言ってんだよ。まぁ、確かにきれいな人だけど」
「ドキドキしちゃった?まぁ、マイさんはもう結婚してるからなぁ」
「そういえば、あの人がこの喫茶店をやってるの?」
「正確には、旦那さんと二人でやってるうの。ほら、あの人」
アネキが指さしたのは、カウンターでコーヒーを淹れている中年の男性。
「うそっ、あんなきれいで若い人の旦那さんが、あんなにしぶい中年とは…」
「私も最初に聞いたときはびっくりだったわよ。だって、あの人は先輩の担任の先生だったんだから」
これを聞いて二度びっくり。教え子と結婚というのはありえるだろうけど、あんなに年の差があるなんて。マイさんはあの人のどこに惹かれたんだろう?
「なぁに、私達のこと話してるの?」
そこにマイさんがやってきた。
「えへへ。マイさん、なんで先生のこと好きになったの?」
「なんでって言われてもなぁ。んー、なんとなく、かな。恋なんてそういうもんじゃない?」
「ゆうや、そうなんだってよ。まゆりちゃんもあんたのどこに惹かれたんだかねー」
「まゆりちゃんって、高校の演劇部の子?」
「えっ、先輩、まゆりちゃんのこと知っているんですか?」
「うん。私の妹の友達の妹さん。なんでも学園祭で劇をするんだけど、そこで思い切った告白をするんだって聞いたけど」
「えへへ、じゃーん、その告白された相手が、なんとここにいる私の弟、ゆうやなんでーす」
おいおい、そんな紹介の仕方をするなよ。恥ずかしいじゃねーか。
「えーっ、そうなんだ!わぁ、ねぇ、どんな感じで告白されたの?」
アネキからそう言われたら、絶対に答えることはないが。マイさんからそう言われたら、照れながらも話をしてしまうオレ。ったく、美人には弱いなぁ。
「すごーい。まゆりちゃんも思い切ったことをしたなぁ」
「まぁ、オレの友達のはやとの入れ知恵もあったみたいだけど。はやとは今回の劇の脚本も手がけてたから」
「ゆうやくん、いい友達を持ったね」
まぁ、確かにオレは友達に恵まれてるかな。
「マイ、コーヒー入ったよ」
「はーい。ちょっと待っててね」
マスターに呼ばれたマイさん、コーヒーをオレたちに持ってきてくれる。どんなコーヒーなんだろう。
「ここのコーヒーには魔法がかかってるの」
アネキがそう言う。魔法ってなんなんだ?
「はい、おまたせしました。シェリー・ブレンドです。飲んだら感想を聞かせてね」
味の感想を求めるなんて。アンケートでもとっているのかな?ともかくまずは飲んでみることに。
オレは今までインスタントか、ファーストフードのコーヒーくらいしか飲んだことがない。そんなオレでも、このコーヒーはちょっと違うなって感じがした。まずは香りが今までにないものだった。
そして味。一口飲んだ時、コーヒーの味が強烈にオレの舌を襲った。まるでオレが卓球をやっているときの、攻めの姿勢のような感触。押して、押して、押しまくる。そのイメージが湧いてきた。
が、それだけではない。強烈なコーヒーの味の合間に、甘みを感じることもできた。これも卓球で例えるならば、強烈なラリーの合間に緩やかな変化球で相手を翻弄させる。そんな感じだ。緩急をうまく使い分けて敵を倒す。まさにオレが理想とする卓球のイメージとぴったりの味だ。
「お味はいかがでしたか?」
マイさんの言葉でハッとした。そうだった、今オレは喫茶店の中にいたんだった。なんとなく卓球場にいるような感覚になってしまった。
「なんかすごく強烈な味でした。でもそれだけじゃなく、甘みも感じられて。この味、オレの目指している卓球スタイルと同じなんですよね」
「んとに、こいつは卓球バカなんだから。せっかくシェリー・ブレンドを飲んだんだから、まゆりちゃんとのことを考えろよ!」
バシッ
アネキに背中を思いっきり叩かれる。
「いってぇ、なんなんだよ。正直にコーヒーの感想を言っただけだろ。どうして卓球バカとか、まゆりちゃんのこととかがが出てくるんだよ」
「このコーヒー、シェリー・ブレンドには魔法がかかってるって言っただろっ!」
「だから、その魔法とまゆりちゃんがどう関係するんだよっ!」
アネキの言っている意味がさっぱりわからない。が、オレの気持ちをわかってくれたのか、マイさんが優しくこんな言葉をかけてくれた。
「ゆうやくん、シェリー・ブレンドは今その人が望んでいるものの味がするの。だからゆうやくんは卓球のことをイメージした味がしたのよ」
「ど、どういうことですか?」
「だからぁ、お前が目指している卓球スタイルと同じ味がしたって言っただろ。どうしてこいつは卓球のことしか頭にないかなぁ。せっかくだから、まゆりちゃんのことも考えてやれよ!」
アネキがイライラしながらそう言う。そう言われると、普段のオレは確かに卓球のことしか頭にない。けれど、まゆりちゃんのことを全く意識していないわけではない。
「じゃぁ、もう一度飲んでみりゃいいんだろ」
半分ヤケになってオレはもう一度コーヒーを飲む。すると不思議な事に、さっきとは全く違う味を感じた。
甘い。それと同時に、心の奥がぎゅーっと締め付けられるような感覚。この感覚は…あ、この前まゆりちゃんと公園を歩いたときの気持ちだ。
まゆりちゃんの髪の香り、なんかステキだったな。女の子ってこんな香りがするんだ。アネキからは感じられないものだな。そして手の感触。とてもやわらかくてあたたかい。ずっと握っていたい。そんなふうに思えたものだ。なによりあの笑顔。ずっとみつめていても飽きが来ない。やっぱそばに居てくれると安心するな。
「おい、何にやけてんだよっ!」
バシッ
ふたたび背中に激痛!アネキはいつもオレの背中をバシバシ叩くからなぁ。
「いってぇなぁ」
「で、どんな味がしたんだよ?」
「ま、まぁ、甘い味っつーか、なんつーか…」
「どうせまゆりちゃんの妄想に浸ってたんだろっ!ホント、スケベなやつだからなぁ」
「ほ、ほっとけっ!」
「まぁまぁ、で、どんな感じがしました?」
アネキと違って、やさしく語りかけてくれるマイさん。その言葉についポロッと本音が出てしまう。
「は、はい。まゆりちゃんに告白された後、一緒に公園に行ったときの感触を思い出しました。またあの雰囲気を味わってみたいなって、そう思っています」
「なんだよ、もうデートしたんだ。ゆうやも隅に置けないねー」
「うるせぇっ。でも、これからオレ、どうすればいいんだろう。ちゃんと付き合えるのかなぁ」
「そうなんだね。ゆうやくん、正直に答えてくれるかな。まゆりちゃんのこと、好き?」
正面切ってそう聞かれると、ちょっと答えにくいものだ。けれどマイさんのほうは真剣な目でそれを聞いてくる。だからオレも正直に、堂々とこう答えた。
「はい、好きです」
「その気持ち、まだまゆりちゃんには伝えていないのかな?」
それに対しては下を向いて黙り込んでしまった。そうなんだ、それをしていないからはやとに怒られたんだ。もっとオレに勇気があれば。そんなことが頭の中をグルグルと駆け巡る。
「そうなんですよ。こいつ、まだちゃんと自分の気持ちをまゆりちゃんに伝えてないんですって。ホント、情けない弟ですよ」
「うるせぇっ、ほっとけ!」
「ほっとけないから、ここに連れてきたんでしょ。これからどうしたいのか、どうすべきなのか、それをシェリー・ブレンドに聞いてみな」
シェリー・ブレンドに聞いてみる。そんなことができるのか?
「シェリー・ブレンドは今欲しい答えを導いてくれることもできるの。今、何に対して答えが欲しいのかを頭の中で念じてみて。そうしたら、味でそれを教えてくれるから」
よしっ。オレはまゆりちゃんとの今後のことを頭の中で思い描いた。
残っているコーヒーを一気に口の中に流し込む。さっきよりも冷めているけれど、最初に感じたコーヒーの味の強さは変わらない。いや、熱い時よりもさらに強く感じる。強さ、そうだ、強さだ。
そもそもまゆりちゃんはオレのどこに惹かれたのだろう。それはまだ聞いていない。じゃぁ、オレが自分自身に誇れるものとはなんなのか。それは卓球にかける熱意。そして力強さ。
オレは決してムキムキマッチョな体格ではない。身長だってそれほど高いわけでもない。けれど、誰にも負けない俊敏さと判断力、そしてスピードは持っていると自負している。卓球をやっているときの真剣さ、これも他の誰にも負けないものを持っている。
じゃぁ、オレがまゆりちゃんにできることとはなんなのだろうか?
それは、オレの持ち前の力強さで、彼女を守ってあげること。そのためには、もっと彼女のことを知らなければならない。そう思った時、口の中に残っていたコーヒーの味が一瞬にして変わった。
包み込むようなまろやかさ、そして甘み。そうか、強いだけじゃだめなんだ。優しさを持って相手を包み込んであげる。そういうところも必要なんだ。
「どんな味がしましたか?」
マイさんの言葉にハッとした。
「あっ、えっと、力強さと包み込む優しさ。それを感じました」
思わず素直に答えてしまった。すると、マイさんはオレにこんな質問をしてきた。
「じゃぁ、そのために、まゆりちゃんにまずは何をしてあげるかな?」
「何をしてあげる…」
そう言われて考え込んでしまった。けれど、答えは見えている。やっぱりこれしかないよな。
「まずは、まずは勇気を出して自分の気持をまゆりちゃんに伝えてみます。オレもまゆりちゃんのことを好きだって、そう言ってあげます」
すると、さっきまで険しい顔でオレを睨んでいたアネキの顔が笑顔になった。
バシッ
「いってぇっ!なにすんだよっ!」
「そうそう、それでいいんだよ、それで。ゆうやは女心がわからないやつだと思ってたけど。ようやくわかってきたか」
まぁ、アネキなりの応援だってのはわかったけど。いい加減オレの背中をバシバシ叩く癖は直してくれよな。だから彼氏ができねーっちゅの。アネキ、まずは男心を理解しねーとな。
「じゃぁ、それはいつ伝えてみる?」
マイさんが再び質問。
「えっ、いつって…まぁ、学校で会った時かな。でも校内じゃ周りの目もあるしなぁ」
「今日にでも早速言っちゃえよ!」
「今日はこれから部活だって」
さて困った。いつまゆりちゃんに自分の気持ちを伝えようか。学校では同じクラスで、話す機会はあっても二人っきりになれる時間がない。放課後はお互いに部活で忙しいし。土日になるとオレはほとんど卓球漬けだし。うーん、よく考えたら、せっかくまゆりちゃんとこういう仲になっても、オレが部活を引退するまではデートする暇もないな
そのことをアネキとマイさんに伝えてみた。
「これからどうしよう…」
シェリー・ブレンドにその答えを聞こうにも、オレはさっきので全部飲んじゃったし。すると、アネキは突然自分のコーヒーをオレに差し出してきた。
「飲めっ!」
「えっ、飲めって…」
「私の飲みかけはイヤだろうけど、そんなこと言っている場合じゃねぇだろ。一口でいいから飲めっ!」
「は、はいっ!」
体育会系のノリで、オレは思わずそう返事をしてしまった。そしてアネキが差し出したシェリー・ブレンドを一口だけ口に含んだ。そして目をつぶる。どんな味がするんだろう。
えっ、味が…しない。なんで?不思議がっていると、突然口の中にコーヒーの味と香りが広がった。なんなんだ、これは。
「どうだった?」
「あ、いや、なんなんだ、これは?どうなっているんだ?」
「どんな味だったんだよ?」
アネキに急かされて、今感じたことをそのまま口にしてみた。
「最初は味がなくて、突然コーヒーの味が広がった。マイさん、これってどういうことなんですか?」
アネキがオレの代わりにマイさんに尋ねてくれた。するとマイさん、ニコリと笑ってこう応えてくれた。
「私が感じたのは、時を待つ事。きっとそのチャンスが訪れるはず。だからそのときになったら、きちんと自分の気持ちを告白すればいいんじゃないかな。今、無理にその時間を作ろうとせず、自然な流れに任せてみるのはどうかな?」
「自然な流れに任せる、ですね。なんかそれならできそうな気がするな」
「よぉし、じゃぁそれができたらちゃんと私とマイさんに報告するんだぞっ!」
バシッ!
今までにない、一番強烈な痛みが背中に走った。だが、これはアネキなりにオレに期待してくれている、応援してくれている証拠なんだ。そう思って、その痛みをありがたく受け止めた。
そうしてカフェ・シェリーでのひとときは終了。オレは午後からの部活に向かった。
学校は文化祭の後片付けも終わり、普通の顔に戻っていた。あのときのお祭り騒ぎが嘘のような静寂だ。あれは夢だったんじゃないか?
「ちぃーっす」
いつものように部活に出る。すでに後輩たちは準備をしている。午前中のことは忘れて、まずは部活に集中だ。
「ゆうや先輩、例の彼女とはどうなったんっすか?」
後輩の坂上がそう聞いてくる。こいつ、いつもなれなれしいやつだと思ってたけど、まさか早速このことを聞いてくるとは。
「どうって、まだ付き合い始めたばっからだからなぁ」
「先輩たち、全校生徒の注目の的っすよ」
そう言われると、なんか周りの視線が妙に気になり始めた。やべぇ、オレってそんな目で見られてんのか。うかつなことできなくなったなぁ。
「もういいだろっ。さぁ、練習練習!」
ったく、坂上の言葉のせいでなんか集中できなくなってきたな。その後も休憩中には同級生からもまゆりちゃんとのことを聞かれたりして、ちょっとやりにくくなってきた。けれど、オレとまゆりちゃんのことをからかったりするヤツラはいない。むしろ応援してくれるのがわかる。
案外オレって友達に恵まれているのかな?ありがたいことだ。
そして夜七時に練習が終了。今日もいい汗をかいたな。
「おつかれさまでしたー」
「おつかれっす。ゆうや先輩、ちょっと、ちょっと」
例の坂上から手招きをされる。なんだろう?
「これ、オレからのプレゼントっす。がんばってください!」
そう言って手渡されたのは、なんと避妊具。おいおい、まだ気が早いって。にしても、こんなもの渡してくるとは。ってことは、坂上は経験済みなのか!?
まぁ、坂上なりの応援だと思って、ありがたく受け取っとくか。でも、こんなの使う日が来るのかなぁ…。
おかげでその瞬間から、オレの頭の中ではエッチな想像が広がってしまった。ったく、オレは健全な高校生なんだから。まったく、けしからん!などと自分を戒めつつも、まだまだオレも若いよなぁ、なんて考えてしまう。きっと自転車を漕ぐオレの顔は、相当にやけていたはずだ。
翌日は日曜日、この日も早くから部活の練習。ここで坂上に質問してみた。
「坂上、お前彼女いるんだったよな。いつ会ってるんだ?部活で会う暇なんかないだろう?」
「ちっ、ちっ、ちっ。ゆうや先輩、オレをなめちゃいけませんよ。昨日も部活が終わってから彼女とデートしてきたっす。といっても、部活の帰りにマックに一時間位寄った程度っすけどね」
部活帰りかぁ。まぁ、一時間くらいならなんとかなるだろうけど。
「でも、ゆっくりデートはできないだろ?」
「そこなんっすよねぇ…」
なんだ、坂上もデートできてないんじゃん。ところが坂上の次の答えは意外なものであった。
「だから、彼女とたまにお泊りデートしてるんっすよ。お互い、友達の家に泊まるってことにして」
「お、お泊りっ!」
なんて大胆なやつだ。さすがにそこまでのことはできないなぁ。にしても、工夫をすればなんとか時間はつくれる。オレもいつかまゆりちゃんと…いかんいかん、そんなことを考えてちゃ。
悶々としたまま、日曜の部活終了。帰ろうとして自転車置き場に向かう途中、予想もしなかったことが起きた。
「ゆうやくんっ」
「ま、まゆりちゃん!ど、どうしたの?」
そこには私服のまゆりちゃんの姿があった。
「えへっ、来ちゃった。だって、こうでもしないとゆうやくんと二人になれる時間ってないでしょ」
まさか、まゆりちゃんの方から攻めてきてくれるとは。予想外の展開だ。
「あ、ありがとう。じゃぁ、マックにでも行く?」
オレは早速坂上と同じような行動を提案した。けれど、まゆりちゃんは首を横に振る。
「一緒に歩くだけでいいの。ダメ?」
ダメなわけがない。結局、自転車で帰る道のりを、オレとまゆりちゃんは二人共自転車を押して歩くことになった。胸がドキドキするなぁ。
「でね、ゆかりがさぁ…」
話をするのはまゆりちゃんの方。オレはそれにあいづちを打ってうなずき、笑うだけである。でも、あらためてまゆりちゃんってこんなにおしゃべりだったんだってことを知った。そして、優等生なのかと思っていたけれど、案外面白いところもあるってことがわかった。もっとまゆりちゃんのこと、知りたいなって感じた。
「あのね、ゆうやくん、いつか一緒に遊園地に行きたいなって思うんだけど…でも、部活で忙しいよね?」
「そ、そうだなぁ。来年夏の高校総体、そしてそこで勝ち抜いてインターハイに進むことがオレたちの目標だから。それまではなかなか時間がとれないなぁ」
「だったら、それが終わったら時間ができるってことかな?」
「おそらくは。でも、今度は受験が待ってるでしょ。まゆりちゃんは進路とか考えてるの?」
「うん、行きたいところは決まってる。ゆうやくんは?」
「オレはまだ全然考えてない。でも、できればまゆりちゃんと離れたくはないなぁ」
そう言うと、まゆりちゃんは下を向いて照れている。女の子って、こういう言葉にも敏感に反応しちゃうんだ。
このとき、オレの心の奥で囁く声が聞こえた。
「ゆうや、今だ。今言うんだ!」
急に胸の鼓動が高まる。手に汗も出てくる。でも、ここで言わなきゃ男がすたる。いけ、ゆうや、いくんだ!
「ま、まゆりちゃんっ!」
「ん、なに?」
「ぶ、文化祭の劇ではありがとう。オレ、すごくうれしかった」
「えへっ、ちょっと大胆だったかな。でも、私もとてもうれしかった。おかげでこうやってゆうやくんと一緒にいられるんだもん」
「そんなまゆりちゃんにきちんと応えなきゃって。そう思ってる。だから、あらためてきちんと伝えます。まゆりちゃん…」
ここで大きく深呼吸。
「まゆりちゃん、好きです」
言っちゃった。同時に顔が熱くなる。心臓がバクバクしている。
まゆりちゃんは足を止める。そして下を向く。どうしたんだ?
「ゆうやくん…ありがとう」
照れながらそう言うまゆりちゃん。とてもかわいらしい。そんなまゆりちゃんを見つめるオレ。まゆりちゃんもオレを見てくれる。二人の沈黙の時間が続く。
まゆりちゃんは目を閉じる。これは…
オレはまゆりちゃんに顔を近づける。そして唇を重ねた。ほんの一瞬だったけれど、甘い香りとやわらかい感触がオレの心に残った。
好き、この一言がオレに青春をもたらしてくれた。思い切って伝えるって、大切なことなんだな。
<好き、の一言が 完>