第3話・あの頃の約束 ※挿絵あり
「その……豊海さんのこと……私に下さい!!」
「はい!?」
彼女は恥ずかしそうにそしてその言葉は教室中に聞こえてしまった。
「やっぱり豊海と東城ってできてたんだ」
あちこちで言葉が飛び交う中、東城風はふと、算学数のことを気になり、算学のことを見た。その時、算学と目が合った。
「なんだろう。どこかであの目を……」
風は思い出した。算学の目に似た目を。
「たしか……私の知らない事を教えて……」
思い出してると豊海瑠璃が絡んできた。
「おい、ハニー?何ボケッとしちゃってるの?」
「ハニー?」
辺りを見渡すと視線が風に注がれていた。
「あぁアァ……誰が豊海と付き合ってる必要があるの?」
「必要?」
辺りのみんなの頭の上に、はてなマークが浮かんでいるのが分かった。
「別に必要性とかの話じゃなくて……」
弥生が呆れ顔でつっこまれた。「あの……違うのですか?」
教室に来た小さい女子生徒は恥ずかしそうに聞いた。
「違います!」
風は1秒よりも早く即答するとまたもや、辺りのみんなの頭の上に、はてなマークが浮かんでいるのが分かった。
取り敢えず、山を乗り越えた風はその日の午前の授業を終えていた。
「疲れた。一杯飲みたい……」
「未成年でしょ。瑠璃って結構まいってたよ……」
「むしろ嫌いなんだけど……。算学君の周りひとがいっぱいいるね。」
「算学……」
やはり似ていた。あの目。いや、目だけではないのか。でも雰囲気は全く違うよう。
「好きだったのかな……」
「えっ?算学君?もしかして瑠璃?」
「違うから!」
算学の方をチラリと見るとなんか苦笑いをしている気がした。
算学はその後、人気者だった。算学と名が恥じず、数学の時間は分からない問題を分かりやすく教えていた。数学以外の教科の授業も詳しかった。それだけでなく、人も良く、生徒や先生にも信頼が厚かった。
「約束……」
風は小さい頃、算学と似た男の子との約束を思い出そうとしていた。
「大きくなったら私の旦那さんになって下さい」
「約束してやる。忘れるなよ」
そんな約束をしていた気がした。昔過ぎてその約束をしたのか曖昧だった。
算学が来て一週間後
「すいません。この前は」
そう言ったのは、あの豊海に好意寄せているんではないか宣言をした女の子だった。
「私の名前は西尾染杏です。この前は名前も名乗らず……」
「気にしなくていいよ」
「その……豊海さんのことを知ってる事を教えて欲しいんですけど……」
「豊海のこと……」
風は豊海の事を余り知らなかった。幼馴染にも関わらず。
「そういえば、あいつの事を余り知らないんだよね。興味無いと言うか」
「豊海さんは東城さんの事いっぱい知ってるんじゃないんですか」
染杏は食い気味で風の言葉を返した。静かな時間が流れた。
「すいません。また……私はこれで……」
なんか彼女をガッカリさせてしまったようだ。
「なんでこんなに人間関係も失敗するんだろう……本当は豊海の事をどう思ってるの?」
後ろから一人の少年が通り過ぎそうになった。
通り過ぎそうになった少年は算学だった。
「その……聞きたい事がある!」
やや強引に算学の足を止めた。「なに?急いんでるけど」
「喋った!でも、何その言い方は!」
「急いんでるから。じゃあこれで」
算学はぶっきらぼうに言うと再び足の歩みを進めた。少し歩くと再び足を止め、振り向いて算学はこう言った。
「幼馴染は大事にしろよ。失敗女」
その目、いや雰囲気があの頃約束した男の子と一緒だった。
「いったい君は……」
再び算学は足の歩みを進めた。算学が見えなくなるまで見守る事しか出来なかった。
「あの目は確かにそうなんだ。そうに決まってる!アイツを捕獲する。絶対にあの頃のアイツに完全に戻す。豊海の事もついでに気持ちを断ち切る!」
その日の夜、自分の部屋の屋根に向けて拳を突き立て、宣言した。「暗い気持ちじゃダメだ。気持ちを切り替えよう……そして約束を必ず果たせる! もう失敗するもんか!」
風の取り柄が発揮した。普通の人とは違う早いスイッチの切り替えだ。
「豊海のことは幼馴染でいいんだ。好きとか嫌いとかの話じゃないんだ」
そう結論付け、瑠璃を幼馴染として知る事にした。遅いとかの話では無かった。
「でも……今の算学は好きじゃない……昔の算学が好きだ……」
それが風の気掛かりであった。考えてると風の瞳がだんだんと重くなり、やがて眠ってしまった。
「俺は昔も今もお前の事好きだよ。」
算学は夜空を見上げていた。
~おまけギャラリー~
「算学数」のイラストです。基本上から目線でS。どんどん風と関わってきます。