卒業論文
車内で無言のまま、一時間ほど走って、アルバートに我慢の限界がきた。
「これから、どこへ?何をする気だ?」
スミスは、情報パッドを差し出し、アルバートに手渡した。
「ドクター。質問が違いますよ。『どこへ連れていくんだ?何をさせるつもりだ?』でしょ?」
「ドクター?」
手渡されたパッドを見て、アルバートは目を見開く。
そこに表示されていたのは、アルバートの卒業論文だった。
そして、第三者的評価と改善点、実施の為の考察と設計。
試作品の写真すらある。
「これをやっているのか?いったい、なんの目的で?」
思わず口にしたが、こんな組織が、最終目的をネタバレするのは、コミックの中だけだ。
「画期的技術の実現に協力していただきます。逃亡しなければ、貴方をグループリーダーにしていたのですが、今回は協力者として、参加していただきます。しかし、1.5倍とは素晴らしい」
「1.41だ!」
アルバートは正確な論理値を言い返した。
論文は、『熱核反応の効率化』として、水爆の変換効率を1.41倍にする物だ。
つまり、破壊力の増強だ。
卒業論文に、水爆を選んだのは、国際法で禁止されている上に、影響規模が大きすぎて、地球上の何処で使っても、世界中に影響が出る事。そして、技術的に実現が困難である事だ。
論文としては成り立つが、所詮は夢物語で、平和的な物だからだ。
しかし、報告書によると、多くの問題点を克服しており、外部協力者は二十名を越えている。
こんな物を作る意味がない。第一、実験出来る場所が無い。
ウランやプルトニウムによる原爆同様、水爆にも最低限のラインが存分する。
プルトニウム原爆を起爆剤とする水爆ならば、尚更だ。
『原爆の小型化』等は夢物語に過ぎない。
当然、規模も小さくは出来ない。
「まさか、世界滅亡を目論む宗教団体か?」
アルバートの呟きに、スミスは、笑いをこらえきれずに、腹を押え、車内で、もんどり打った。