表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

灯台もと暗し

施設の受付では、警官がリゼロッテと話していた。

就労ビザの確認をするので、身柄を預かりたいと言うのだ。

毎回ではないが、偽造ビザで入国する者が居ないわけではない。

少なくとも、リーは、正規の就労ビザで来ている。

戸籍はロンダリングされた偽物だが、ビザは本物だ。


しかし、これは間違いなく、NOS.Eの仕業だと、リーは考えていた。

リゼロッテに迷惑がかかるし、騒いでも立場が悪くなるだけだ。


「ビザを持って来ますね。」


リーは、大人しく業務員用のロッカーに向かった。



パトカーに乗せられて、向かったのは、確かに入出国管理局だった。

受付で、警官から局員に引き渡され、呼び出された係員に引き継がれる。


「長くなるので、トイレを済ませておいて下さい。」


通路の途中にあるトイレで、強制的に絞り出した。

勿論、こう言った施設のトイレには逃亡防止処置がされている。

その後、廊下を通って個室に・・・ではなく、裏口に連れ出された。


裏口駐車場には三台の黒いフォードが止まっており、グレースーツの男が四人、立っていた。

左肘が若干、体から離れている。脇に銃が隠されているのだろう。

加えて、駐車場は、高い壁と監視員付きのゲートで囲まれており、逃げ出すのは無理だ。


「どうぞ。」


スーツの男が、車のドアを開けて、乗車を促す。

リーは、抗う事なく、乗り込んだ。抵抗して、撃たれてトランクルームに放り込まれるよりは、増しだ。


乗り込んだ後部座席には、先客が居た。

スミスだ。

スミスはユーカリ風味のソフトクリームを食べながら、アイコンタクトを取った。

閉められたドアは、ロックされ、高級車は静かに走り出す。

運転席とは仕切りで区別され、窓には濃いフィルムが貼られ、外部はよく見えない。


スミスは、ソフトクリームのコーン部分を必死に咀嚼しながら、ドアポケットから情報パッドを出して、目を通していた。


「リー・・さんでしたっけ?プチ整形なさったんですねぇ。探すのに苦労しましたよ。まさか、こんな近くに・・」


恐らくは、観光客の流したネット動画で足がついたのだろう。

スミスがパッドで、動画の再生をはじめた。


「タナカで大丈夫ですよ」


既に正体が知れているので、ジタバタしても仕方がない。

アルバートは、逃亡生活を思い出していた。




母方の知人には、直接会って話をした。

特殊な情報を知ってしまった故に、マフィアらしき組織に狙われているので、家族に迷惑がかからない様に、失踪した様に見せたいと話した。

いっそ、事故死した事にすればと言われたが、時間がたてば解決するので、再会出来る様にしておきたいと願ったのだ。


日本では、イベント会場に華僑のグループがサークルを出していた。

サークルのバックルームで、電波遮断素材で出来た着ぐるみを身に付け、キャラクターマスクを被って、会場で数回の巡回をした後に、サークルの自家用車で横浜に向かった。

キャラクター着ぐるみのまま、自家用車で首都高とかを走るのは、なかなかシュールだった。


横浜では、ビルの地下駐車場で降りて、そのままビルの地下室で、簡単な手術を行った。

手のひらに埋め込まれた、インプラントIDの摘出と、顔にシリコンの注射だ。

これは、空港などの顔認証システムに対応する為だ。


パソコンや携帯端末などの持物処理も、ここで行った。

ガイド一人を付けて、ハーバーへ向かう。


港では、中型のクルーザーに乗り込み、沖へ出た。

整形の腫れを冷しつつ、数日過ごすと、ガイドがしきりにGPSを確認しだした。

やがて、見えてきた別のクルーザーと合図をしあい、ロープで二隻の船を繋いだ。


相手の船からは、数人の女性と、年配の男性が乗り込んできた。

『客』の入れ替えだ。

アルバートも鞄を抱えて乗り換える。


その後は、上海経由で中国奥地の農村に住み込んだ。

いまだに、一部の村では戸籍の管理が不充分で、死んだ村人の戸籍を、そのままにしてある場所がある。

現金入手の為に、非合法に戸籍を売買する為だ。

住み込むのは、村ぐるみで、村の生活をさせて、偽の過去を演出させるのだ。


地理や方言を覚え、ロンダリングされた戸籍を持って、町に働きに出かけ、場合によっては都市部へ返り咲く。


アルバートは、『李 俊章』の戸籍の戸籍を持って、都市部へ、そしてオーストラリアへと渡った。

やはり、文化的にも英語圏の方が過ごしやすく、ボロが出ない。

留学経験があると言えば、アメリカナイズされていても違和感はない。


オーストラリアを選んだもう一つの理由は、核燃料ウランの産地でも有るからだ。

恐らくNOS.Eは、核関係の組織だろう。

当然、逃亡者は関連施設を避けるのがセオリーだ。

一応は調査されるが、長期的には、関連施設や国を避けて行われる。

中国でおとぼりを冷まし、あえて核関連国へ行く事で、見つかりにくいと思ったのだ。

オーストラリアでは、初めての毛染めも行った。

黒髪を脱色して、明るいブラウンに染めた。


ある程度の収入を得るために、農園ではなく観光業を選んだのが、裏目にでてしまった。



こうして、アルバート・タナカは、社会の表舞台から、消える事になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ