ロッテ コアラの街
2065年
英語表記だと『Koara's CITY by lotte』となる。
オーナーの祖母であるシャルロッテが命名し、現在は孫娘のリゼロッテ(Liselotte)が看板娘をやっている。
そんな、オーストラリアの会社の、コアラ見学ツアー部門に、アルバートは居た。
日系のアルバートからすれば、日本の某メーカーの伝統商品名にしか思えないが、元々、某メーカーの社名由来が、ドイツ小説ヒロインの愛称らしいので、何とも言えない様だ。
一部で話題になり、日本人観光客も、時々見かける。
創業時は、はぐれたり、親に見捨てられたりしたコアラを保護し、野生に返す団体で、ついでに観光客に見せて小銭を稼ぐ位だった。
昨今では、自然環境が悪化し、激減するコアラの保護と、繁殖を主目的においている。
簡単に言えば、コアラの動物園だ。
「リー君、次もお願い出来るかなぁ?」
看板娘であるリゼロッテから、声がかかる。
コアラ見学ツアーは、一度に五人が限界だ。
団体客を分割するならましだが、中には一人二人の飛び込み客も居る。
当然、国籍や言語もまちまちだ。効率化を考えれは、多国籍チームで見て回る事になる。
ビデオ解説や表示は、インカムにより、それぞれ対応されているが、客は、つまらぬ質問をしてくるものだ。
それぞれの言語に対応できるガイドが重宝される。
勤続一年少しだが、英・日・華の三ヵ国語が出来るアルバートは、重宝されていた。
アルバート。いや、ここでは、リー・シュンチャン(李 俊章)と名乗っている。
リゼロッテから頼まれたグループは、日本人、アメリカ人観光客の混成だった。
日本人のカップルと、アメリカ女性の二人組、アメリカ男性一人の五人だ。
単独な為か、無口に写真を撮りまくる、アメリカ人男性が目立った。
サングラスに紫のメッシュを入れ、ポロシャツと言う姿は、観光客にしては普通だ。
ロッカーに仕舞った旅行鞄は定番のランセルだ。
ツアーは、ガラス越しのコアラの観察、ビデオによる夜行性コアラの生態解説、気候変動による生態系の変化と保護の必要性を示したパネル、質問コーナー。
最後に、コアラを抱っこ出来る体験コースだ。
カメラオジサンが、なかなかウザい。
ツアーを終えて、出口まで案内したところで、カメラオジサンが、カメラを向けて、最後まで残っていた。
「ミスター タナカ。お久し振りです。この後、お時間をよろしいですか?」
施設の外を見れば、グレーのスーツに眼鏡。同じ髪形の男達が、等間隔に取り囲んでいた。
「エージェント スミス?」
リーの言葉に、カメラオジサンは、満面の笑みを浮かべた。