スミスの報告書
私の名は、ベン・スミス。勿論、偽名だ。
古い映画からの引用らしいが、コードネームなど、どうでも良い。
今回は、少しトラブルっている。
スカウト予定の学者に逃げられたのだ。
報告書が面倒だ。
アルバート・タナカと出会ったのは、某施設だ。
その施設の放射性廃棄物を回収する作業が始まるが、その施設に、私がスカウトとエスコートを担当する、アルバート・タナカが居ると言うことなので、顔見せの為に回収業務に責任者として同行する事になった。
実際の責任者は、別に居るのだが・・・
一応、プロフィールは記憶している。
懸念すべき点は、我々の事を嗅ぎまわっている、別の候補者レイモンド・ウィリアムズと接触した事実だった。
NOS.Eについて、変な噂を吹き込まれていなければ良いのだが。
レイモンド・ウィリアムズは、スカウト直前に失踪した。
担当は私ではないので、今回のトラブルは、とんだ、とばっちりだ。
責任は、奴の担当者に取ってもらうもらうべきだろう。
アルバート・タナカの担当になったのは、会う二週間前だ。
元の担当者がヘマをしたので、救急、担当変えになったらしいが、資料を見て、事の顛末が見えた気がした。
アルバートは、定期的に日本へ渡航しているらしい。
家族構成は、日本と中国にコネクション有り。
レイモンド同様に逃走するなら、これらのコネクションを洗い直すか?
個人資産の監視も必要だ。
しかし、アルバートが我々に悪意を持っていたとすると、時間はない。
ドラマの様に、調査とは一朝一夕に出来るものではなく、正確性も欠けてくる。
そして、これらの懸念は、現実となった。
顔見せの時に、アルバートが言っていた通りに、バカンスの名目で恒例であった、日本のカートゥーンイベントに参加後、行く方が解らない。
数日後に、地下保管施設の本社には、社員証と辞表が郵送されていた。
日本政府に協力してもらったが、街灯や施設の顔認証システムにも引っ掛からない。
カードも、日本の銀行口座をも使っていない。
IDもパスポートも使っていない。
携帯端末すら起動していない。
薬に混ぜられた発信器は勿論、インプラントされたIDすらロストした。
資金は、親の自宅改築資金を利用したと思われるが、立証には時間がかかる。
推定だが、親の資金を借りて、日本に渡り、横浜から華僑のネットワークを通じて、第三国へ逃げたと見るべきだろう。
それくらいの、資産と知恵とコネクションは有る男の様だ。
中国は、いまだに、裏と表。賄賂政治とマフィアが入り乱れている。
そして、日本の下町には、昔から華僑が喰い込んでいる。
華僑のネットワークは、我々の国は勿論、世界中に広がり、ユダヤネットワークと双璧を成している。
アルバートの技術は、プロジェクトの成功率を1.5倍にすると記されているが、必須ではない。
これ以上のアプローチはメリットが無いと判断すべきと記して、報告書を締めた。