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カミカゼプロジェクト

プロジェクト名は、アルバートが決めた。

家族の為、愛する者の為に、命を投げ出して敵を排除する。

日系人の自分には、ピッタリだと思ったのだ。


〔私が腑甲斐無いばかりに、貴方に、こんな事をさせてしまい、申し訳ありません。〕


一ヶ月もの長期冬眠から覚めたアルバートが受けたのは、こんな言葉だった。


「いつから、気が付いていた?」

〔一度目の人工冬眠の最中です。外部サブコンをハッキングして、時間差が1年ある事と、本当の当船のスペックを把握しました。〕


アルバートは、ある意味で自分より優秀なセバスチャンを、騙し続けられるとは思っていなかった。


「気が付いた時点で、引き返すと言う選択肢は?」

〔既に、加速は終わっていましたし、この船には引き返すだけの推進機も燃料も有りません。何より、引き返すと、ミス ゾーイを救えない。〕


よく出来た人格は、何が正しいかよりも、何が重要かを理解している。


「お前も、嘘が上手くなった。それも、良い嘘が。」

〔嘘には、幾つかの種類がある。自分に利益をもたらし、相手に不利益をもたらす嘘。自分の迷いを断ち切る為に、自分につく嘘。相手の利益の為に、相手を騙す嘘。ですね?〕

「私は、とても満足だ。」


〔私が、もう少し強ければ・・・〕

「お前を、こんな人工知能にしたのは、私だ。言わば分身。息子の様な物だ。息子の未熟な部分は、親が補ってやるのは当然。日本では『親が子の尻を拭う』と言うんだ。」

〔ありがとうございます。親離れ出来なくて申し訳無いと言う感情と、嬉しいと言う感情が混在しています。〕

「それで、正しい。」


〔あのぅ~〕

「何だ?」

〔『ダディ』と呼んでもよろしいですか?〕

「冗談か?」

〔いえ、本心です。〕

「・・・・・まぁ、最後だし、いいか。」

〔ありがとうございます。これで思い残す事なく成仏出来ます。〕

「仏教徒(Buddhist)か?」

〔いいえ。ロマンチスト(Romanticist)です。機械が神仏を語るから、ロマンなんです。〕

「お前を失う事が、人類最大の損失の様な気がしてきた。」

〔ダティが有ってこその私です。〕




アラームが鳴る。本来はセバスチャンが操船しているので、アラームは必要ないし、付いていない。


〔アラート。前方の小惑星群が、回避困難なほどに濃密です。先行する一機を全力加速し、水爆を爆発させる衝撃波で道を切り開きます。物量的余裕は、まだ有ります。〕

「任せる。」

「了解です。二時間後に衝撃波対応準備。」


二時間後に、またアラームが鳴り、弱冠の振動が伝わる。


〔再スキャン開始。情報統合。計画の微調整。〕

「御苦労様。」


恐らくは、人間に近付くほど、この『関係性』が必要なのだろう。

では、A.I.を二つ搭載すればどうか?

日本語の『人』という字は、支え合う字とされているが、その構成要素である線は同じ長さではない。

お互いを支えつつも、優劣や侍従が必要なのだろう。

基本設計が従者である機械では『侍従』ではなく『従従』になる。

機械に『侍』を求めると、それこそ、暴走A.I.のSFになる。


つまり、人間の役に立つ様に作られた、人間の模倣品には、主となる『人間』が必要なのだ。

被造物には『明確な存在理由』が必要なのだ。



〔目標をセンサーで感知。小惑星軌道変更計画に微調整。起爆ポイントとタイミングを再計算。ミサイル位置編成を調整。〕


〔現状報告。本船を除き、残存18。脱落1、自爆1。周辺状況は想定内。作戦に支障なし。〕

「成功の確立は?」

〔98%前後。〕

「2%は?」

〔機械の不具合による、半数が不発の可能性。〕

「ないな!」


アルバートの前のディスプレイでは、カウントダウンが始まった。

それを見たアルバートの脈拍が上昇する。


〔ダティは、死が怖くは無いのですか?〕

「怖く無いと言えば嘘になるが、人間には自分の死より怖い物がある。例えば、子供の死とか、愛する者の死とか。」

〔それは、自己犠牲と言う精神なのでしょうか?〕

「前に『存在理由の無い人間』の話をしただろう。価値観は、人間個々で違うだけではなく、一人の人間の中でも状況により変化する。『自己犠牲』と言っても、その個人のエゴでしかないと、私は思う。」


恐らく、話題を振り、別の思考を導引する事により、アルバートの恐怖を緩和しようとセバスチャンはしているのだろう。


そんな気持ちが、アルバートにも理解できたのだろうか?彼の脈拍が落ち着いてくる。

あえて、視線と思考をカウントダウンから逸らす。


「両親には、『孫の顔を見せろ』と言われていたが、出来なかったな。まぁ、有能な孫を21人も作れて、その功績を知る事になるだろうが。」


「お前の協力で、学生時代の論文も実現したし、彼女も出来た。いろいろ、ありがとう。」

〔ダティと一緒に居られて幸せでした。〕


アルバートは、静かに目を閉じる。


「ゾーイ・・・・」


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