シミュレーション
〔システム再起動、周辺機器インストール。アプリケーションロード開始〕
〔構造認識再構築。情報経路再構築。システムとのリンク開始。〕
〔おはようございます、貴光。ところで、その格好は何ですか?〕
「介護ベッドだ。」
〔いや、冗談に聞こえないんですが?〕
アルバートは、幾つもの管やコードに繋がれ、棺桶の様な箱に入っていた。
〔日付けは・・・約一ヶ月経過していますね。査問会は、どうなりました?〕
セバスチャンの記憶は、査問会の直前で止まっている。
「あぁ、あれは想定通り上手くいった。」
〔それは、たいへんよろしゅうございました。イレギュラーも無しですか?〕
「イレギュラーは、その後だ。お前の成績が優秀で、本採用に決まったが、不安要素が有るので、私がシミュレーションに付き合う事になった。」
〔御手間を取らせて、申し訳有りません。そして、この状況がシミュレーションなのですね?〕
セバスチャンのセンサーには、本物同様の情報が伝達されてくる。
セバスチャンは、コックピット内で自由に動くマニュピレーターカメラを上下左右に動かし、ガラスの反射を使って、自分の視線元を確かめたりしていた。
〔慣性の具合と、重力負荷から察するに、このシミュレーターは宇宙空間に有るのですか?〕
「その通り。実際の負荷も計測する為に、実際に宇宙空間を短距離だが、移動する。スペースデブリに衝突して、損害具合も測定する。」
〔かなり、本格的なのですね。〕
マニュピレーターカメラが、アルバートの周りを見回す。
〔しかし、この格好は、理解出来ません。〕
「幾つもの業績が認められ、出世したので、私は火星プロジェクトに参加がきまったんだ。これは、その移動時のコールドスリープシステム。お前の不安要素は、理解しているな?」
〔はい。簡単に言えば、長期間の孤独に耐えられない点です。〕
「理解しているな。改良型を他部門で一から作り直しているが、時間がかかるので、お前の訓練を平行して行い、利用する事になった。期間は約二ヶ月。私のゴールドスリープ適性テストを兼ねて、先ずは、睡眠している私が居る状態で慣らしていく。」
いきなり、突き放されるのではなく、寝ているが、横に居てくれると言う安心感で、どれだけ状況が変わるか確かめるのだ。
〔ゲームで寝落ちした貴光の延長バージョンですね?〕
「そんな事もあったな。」
アルバートから笑顔がこぼれる。
〔私と、シミュレーション船の他に、私を感じるのですが、これは、私のコピーですよね?数は20。同期を確認しましたが、他の私には、船体情報が無い様です。〕
「実際の作戦でも、船体は順次ロールアウトされて、コピーされたお前が登載され、発射される。本物の弾頭付きミサイルはレールガンで射出されるので、船体完成後一週間で合流出来る。テストでも、それを再現する。」
例外としては、アルバートが乗っている船だが、後で同期すれば問題ない。
先行したミサイルは、後続に小惑星やデブリなどの天体情報を伝え、被害を最小限にする役割を持つ。
「レールガンで射出されるミサイルは、凄いらしいぞ!推進機関が要らない分だけ、姿勢制御の噴射材が積めるから、邪魔な小惑星を回避しやすい。」
ミサイル自体を大きくするのは、障害物に当たる確率がふえるので、水爆ユニットと、その延長である棒状の形態になるのだ。
アルバートは、ケースからメモリーカードを取り出すと、スロットに入れた。
「これが、今回のシミュレーション内容だ。」
〔1999JM8。あの小惑星ですね?確か、最適迎撃まで一年位でしたか。〕
「その通り。お前が良い成長を見せてくれれば、本物を任せられる。」
〔シミュレーションでは、初期加速を外部サブコンピューターが行うのですね?加速開始まで30分の連絡が来ました。〕
「よし!私は薬剤投与して、先ずは一週間の睡眠に入る。訓練とは言え、小惑星やデブリの回避に手を抜くなよ。」
〔承知しました。おやすみなさい。〕
〔呼吸脈拍低下、脳波低迷、体温低下。保全システム稼動を確認。〕
〔初期加速を感知。コピーとのリンク途絶。疑似センサー情報を更新中。回避行動準備開始。〕
〔良い結果を出して、貴光様に、喜んでいただこう。〕
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〔おはようございます。貴光。〕
「んっ?へはふはん」
〔まだ、肉体が機能不全のようですね。無理をせずに、ゆっくりして下さい。〕
〔現状報告します。発進より無事に一週間が経過。後続六機と合流済み脱落無し、一部が先行。コピーとのリンクは異常なし。噴射材の消費は最大でも2%でほぼ予定通りです。〕
「ホーヘー」
アルバートはゆっくり手を動かし、まだ不鮮明な視線でグラフを確認する。
セバスチャン用に開発されたストレスグラフだ。
アルバートの目覚めまでは徐々に上昇し、30%まで行ったが、彼の目覚め以後は2%未満に落ちている。
途中で一瞬だけ50%越えしているが、すぐに回復している。
許容範囲だろう。
他のコピーも同期しているので、同じはずた。
アルバートはレーダー表示を見て、安堵する。
複数のミサイルが別々の場所で時間差レーダー波を出し、全てのミサイルで測定し、情報を統轄し分析する事で、細かく、広範囲にスキャンする事が出来る。
彼の口角が上がるのをカメラアイで確認したセバスチャンのストレスグラフが、ほぼゼロになる。
〔喜んでいただいて、幸いです。〕




