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N.E

そんな単純な職場だが、通常の核廃棄物搬入とメンテナンス以外に、今日から新しい作業が加わるらしい。

内容は『核廃棄の移動』と書かれている。

業務用パッドの情報には、団体名『NOS.E』の名前があった。


「来たか・・・・」


思わず、声に出た。

同僚が同室のタイミングで、『ノーズ』と口にしなかっただけ、良かったと我ながら思った。


「面倒だよなぁ~」


同僚が口にする。

搬入は、クレーンロボットが行うが、搬出は容器の破損なども考慮して、外部の人間が出入りする。

いつもの作業と比べて、チェック項目が増えるのだろう。

本来は、想定されていない作業だ。

特別作業が入る日は、専門の職員がローテーションに組み込まれるのだが、通常職員の日に無いとは言えない。今までが、皆無であったので、『来たか』と言うのも場外れな言葉ではないし、『面倒だ』と言うのも通常職員ならば全員に共通した意識だ。

ドア開けや記録、チェックは、機械が行うので、我々は画面を見ながら『承認』と『確認』をクリックするだけなのだが、拘束時間と作業が増える事に変わりはない。



そして、憂鬱で、引っ掛かりのある時間は、やって来た。

そして、インターホンが鳴る。


我々の居る管制室は、外界と遮断されている。

交代要員とも、作業員ともモニター越しにしか話さない。

実際の距離は、幾つかの壁越しに10m以上離れている。

サブコンソールのモニターには、グレーの背広にメガネの男達が写したされていた。

スパイ映画にでも出てきそうだ。同じ背格好に髪型で、遠目にはクローン人間としか見えないだろう。

専用作業服の我々からしたら『何か勘違いしていないか?』と口にしてしまいそうだが、恐らくは責任者で、作業員は別に居るのだろう。


「連絡は受けています。指令書を右のボックスに入れて蓋を閉めて下さい。」


後ろの男がアタッシュケースから、クリアファイルを取り出し、最前列の男が二枚の書類を抜き取る。

内容を確認すると、画面の前でペンを出して、二枚ともサインをしている。

こちらからは左。彼らにとってはテーブルの右側に備え付けてある金属製の箱の中に、丁寧に入れるしぐさが、とって見えた。


私の横で、同僚がボタンを押すと、モニターの向こうで箱から『プシュー』と言う音が漏れ、背広姿の男達が、一瞬ビクッとしていた。

金属製の箱は二重になっていて、中身だけこちらに送られてくる。

途中で複数のセンサーを通過するので、3分位の時間がかかる。

蓋を閉めてから、モニターの向こうで受けとるまでの時間は、双方のモニターに『検疫中』と表示されるので、はじめての人間は驚くだろう。


送られて来た書類は、全く同じ物二枚だった。

モニターには、検疫結果と書類の写真、デジタル変換されたテキスト文、同一の書類が二枚である事が表示されている。

同僚が、二枚の書類が同一である事を確認し、画面のテキスト文と確認して、二枚の書類にサインをする。


二枚を受け取った私は、書類のバーコードをスキャナーにかけ、文章と指令書の内容が同一である人工知能の判定に『承認』をクリックして、書類にサインをする。

二枚のうち、一枚を、送られて来た金属製の箱に入れてボタンを押して、モニターの向こうに送り返した。

デジタル承認が普及した時代でも、現物による確認は必要なのだ。双方に控えも必要だ。

『書類現物』『デジタル情報』『ビデオ映像』により、この業務が確かに行われた証拠となる。

私が書類をファイリングし終わった頃に、モニターの向こうで、書類と情報のバックアップデータを受け取っていた。


「あぁ、貴方がアルバート・タナカでしたか?31歳とあったのですが間違いでしたか?」


書類の署名を見て、口にした言葉に、私は視線を書類ファイルからモニターに向けた。

相手の表情が、左右非対称になっている。


「東洋系は若く見られますから。」


西洋アルアルで、軽く返答をした。

そして、私は心の中で舌打ちをする。

『私もか?』

口にも表情にも出さないが、それは外観を若く見られた事にではなく、名前を事前に知られていた事に対する舌打ちだ。


「ミスター タナカ。あなたは、『ノーズ』または『エヌイー』と呼ばれる団体を、見聞きした事は有りますか?」


同僚が、私と背広組の双方に視線を送る。

私はしばらく、目を泳がせて、


「はい、有ります。」

と答えた。


モニターの向こうでは、興味深く表情がうごいていた。


「ほぅ?それは、どこで?」


恐らくは、情報の出所を探る、いや、確定するつもりなのだろう。しかし、そんな対応は、今日の予定を目にした段階で考慮済みだった。

私は、ファイルしたての書類を指差し、


「ここに書いてあるのが、そうなのでしょう?NOS.Eの現場責任者である、ベン・スミスさん。」


私は、なぜそんな事を聞かれるのだろうと、とぼけた顔をする。自宅の鏡で何度も練習した顔だ。


スミス氏は、一瞬、目を見開き、『あぁ、』と口を開いて笑顔へと変わっていった。


「そうですね。書類をしっかり読み込んでいらっしゃる様ですね。」


しばらく笑った後に、スミス氏は、表情を取り繕って言葉を加える。


「ミスター タナカには、近日中に辞令が下ると思いますから、準備しておいて下さい。」


スミス氏の感情が読めない。


「では、今のうちに、有給休暇の消化と、バカンスを楽しんでおかないといけませんね?」


私は用意していた言葉を口にして、モニターを切った。


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