管制室
アルバート達ヘイプチームは、基地内の管制室を覗き込んでいた。
当然、中に入る事は出来ない。
ガラス越しに覗き込み、巨大モニターの映像が見える位だ。
「まぁ、ビデオゲームみたいな感覚らしいですよ」
ゾーイがアルバートに説明をする。
宇宙飛行の管制室は、アポロ時代と極端には変わらない。
たくさんの机とモニターが並び、各所と連絡を取り合っている。
変化は、アルテミス計画以後は、衛星通信の発達で、映像表示が増えた点だろう。
月の裏側まで、誘導電波で導かれ、まるでビデオゲームの様に、ほぼリアルタイムの現地映像を見ながら、地球から月ロケットをリモコン操縦出来る。
人間の移動に意味がなければ、臨機応変が必要な場合でも、人命を危険にさらす必要も無ければ、生命維持装置に多大な費用と質量と燃料を費やす必要も無い。
今、アルバート達が居る建物は、管制棟と呼ばれ、幾つもの管制室が入っている。
彼等が立っている廊下からは、全ての管制室が覗けるのだが、若干、遠目なのが辛い。
管制室には、ヘイプ計画の様な宇宙での実験を監視する物、小惑星の動きを監視する物、宇宙空間の人工物や定期宇宙船を監視する物、天文学的観測をする物などが有り、それぞれが情報を供給し合っている。
ヘイプ計画だけで三つの管制室を使っている。
ヘイプ1、ヘイプ2、ヘイプ3は、別々の管制室で管理する。
稼働しているのは1と2だけだが、3用も準備を終えている。
チームメイトの一人から、小さなアラーム音がした。
彼はアラームを止め、時計を確認した。
「そろそろですよ」
チームメイトが、管制室にへばりついているのは、爆破の瞬間を見守る為だ。
巨大モニターが四分割され、複数の角度からの映像が映し出される。
画面中央に、数字が表示され、カウントダウンが始まった。
数字が一桁に近づくと、空気は緊張の度合いを増し、10からは、お祭り状態だ。
ガラスの向こうでも、こっちでも。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
画面いっぱいに閃光が走り、ノイズで黒い線が走る。
放射線による電波障害だ。
観測データは、観測器のメモリーに記録され、時間差で送信されるので、問題は無い。
閃光が止んだモニターには、丸く、大きなシュークリームの様な物が映っていた。
真空でのキノコ雲なのだろう。
管制官達が、世話しなく動く。刻一刻と、中継衛星を通じてデータが送られてきている様だ。
「一応、成功かな?」
映像に比較的物が無いので、規模は解らない。
『爆発しなかった』と言う最悪の状態を回避出来て、開発者としては、安堵したところだ。
実は既に、同量による、従来型水爆の月面実験は、終了しているので、今回の実験で、増強具合の比較が出来る。
ヘイプチームは、データの比較に備えて、研究棟へと足を向けた。
研究棟へ向かう途中、物珍しさもあって、他の管制室を覗いたアルバートの目に、一つの映像が焼き付いた。
「1999?」
小惑星らしいデコボコした岩に『(53319) 1999 JM8』と記載されていた。
祖父の家で、日本のオカルト本を読んでいたアルバートには、特別な数字だ。
「ノストラダムスかぁ?」
笑みが浮かぶほど、笑いが込み上げてきたが、次の瞬間、脳の中で、何かが繋がった。
「ノストラダムス?NOS?NOS.E?」
口の中で呟いたソレは、周辺のマイクに拾われる事は無かっただろう。
「E?、E?、E、E、・・・・」
続くワードを想像したが、あまりに候補が多すぎる。
「アルバート?」
考え事で遅くなった歩みを同僚に気付かれ、声をかけられた。
これから、大変な仕事をやらなければならない。
アルバートは、思考を棚上げする事を決めた。




