新しい同僚
将軍からメールが来た。
何事かと思って急いで開いたら、アルバート・タナカが見つかったと言う連絡だ。
私達が頑張って実現しようとしている『熱核反応の効率化』の基本論文の作者だ。
もう十年位前の論文で、我々からしたら目から鱗の内容だった。
十年前には無理だった技術も、現在では夢物語ではない。
我々は、2年がかりで頑張った。元の理論も、かなり改良した。既に我々の理論だ。
逃げ回っていたくせに、今さら参加して、我が物顔されてはたまらない。
本当に大変だったのだ。
UNからの召集に、教授は多忙だからと、助手である私、ゾーイ・ナッシュが徴用された。
私だって、忙しいのだ。恋愛もせず、30歳になるまで勉強と研究に明け暮れ、幾つか認められそうな成果も近い。
しかし、地球の為なら仕方ない。
仕事は、ある論文の実現。
簡単に言って、水爆の強化だ。
「これを十年前に?」
初めて目を通した時は、驚愕した。
従来の物と視点が違う。構造が違う。論理性が府に落ちる。
論文を徹底的に分析した。
人員を増やしてもらって前段階まで試作した。
まさに、寝る間も惜しんだ。
凄い物を、私の手で造るんだと、心血注いだ。
それなのに、今さら作者が現れる。
納得できる訳がない。
将軍に、チーム全員の署名で、チームへの参加を拒否した。
中間管理職の大佐から、『アルバート・タナカが、君達の資料に、何やら書き込んでいるが、見るか?』と言われた。
時代遅れを笑ってやろうと、チーム全員で同期している画面を覗いた。
・・・・笑えなかった・・・・
目が離せなかった。
私達の傑作を、更に改良してきた。
更に効率的に。
聞けば、論文を書いた後に、兵器製造会社で、本物の原爆の開発をしていたらしい。
『欲しい』
ブライドとシコリを残しつつ、チームの皆が思ったのだろう。
私の拳が震えた。皆の眉間にシワが寄った。
「将軍に・・・」
私が言い掛けると、チームメンバーが、私の情報パッドを持ってきた。
私達は、無言でメールを打ち、署名した。
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アルバート・タナカが到着した。
若い男性だ。いや、東洋系だから若く見えるだけで、プロフィールによると、私より歳上だ。
挨拶は、腰が低い。テレビで見た日本人みたいだ。
とにかく、おだてて、利用しようと思った。
「古いデータですけど、参考までに」
そう言って、論文執筆時のデータや資料を提示してくれた。
論文の理解が、三割増しになった気がした。
いろいろ、提案やアドバイスをもらった。
見込みより早く、完成度の高い物が出来た。
彼は、他のチームメンバーの提案を盛り込んだ、2号機、3号機にも協力して、『皆で、更なる上を目指そう』と言ってくれた。
私の中で『この人についてきいたい』と言う感情が芽生えたのは、この時だと思う。
ドクター・タナカに主任をお願いした。
しかし、断られた。
「エジソンが有名なのは、彼が発明したのではなく、他者の発明を実用化した功績で、有名になったのだ。有名になるべきは、君達であり、私は私の夢を実現した君達に感謝しかない」
と言われた。
私の中で、何かが起こった。
1号機の打上の後に、「主任にお話しが有るのですが。」と言われた。
何か、新しいアイデアかと思ったら、食事に誘われた。
食べ終わって、お茶を飲みはじめてから、ドクター・タナカに言われた。
「私と、付き合ってくれないか?」
その後、明朝までの記憶が無い。




