NASA
アルバートは、12時間のフライトの間、情報パッドの情報を精査した。
疑問点や訂正点を、パッドに書き加えて行く。
カレッジのサーバーにアクセスして、論文の添付ファイルに圧縮して隠していた資料をダウンロードして解凍する。
もう、十年以上前の論文だ。詳細な検討データなど、覚えている訳がない。
因みに、自前の携帯端末はネットワークに繋がらない。
パスワード云々ではなく、根本的な通信方法が違うのだろう。
途中、二回の食事と、一回の給油着陸の末に着いたのは、やはり、軍の飛行場だった。
見渡す限りは荒野で、一部に工場地帯の様な物が見える。
地下にエイリアンの死体でも隠していそうな施設だ。
飛行機を降りて見回すと、アメリカは持物、ロシアや中国の国旗が付いた飛行機が見える。
「嘘だろう。」
『NASA』そこには、あの航空宇宙局のマーク入りまである。
アルバートは、何が何だか解らない思いで、入所の為の健康診断を受けた。
人間ドック並みの検査だ。
下着も全て変えられ、専用の作業着を着せられた。
両の手には、IDチップが埋め込まれ、情報パッドも、新しい物に変えられた。
起動すると、飛行機内で設定した壁紙が現れ、ダウンロードデータも、メモパッドも残っている。
システムが同期していて、作業の全てを監視、コピーされていたのだろう。
徹底している。
同行していたスミスが、事務官から新たなパッドを受け取り、少し考えていた。
アルバートの顔を何度か見た後に、パッドにサインをして、指紋を押し付ける。
「まずは、チームメイトに紹介しよう。」
スミスが扉を開け、廊下を進む。
警備兵が二名立つ扉を幾つか進み、エレベーターを二つ乗り換える。
ドアもエレベーターも赤く『CLOSE』の表示がされているが、彼等が近付くと緑の『OPEN』の表示に変わる。
ドアやエレベーターの上にはテレビカメラがある。
一キロ以上は移動しただろうか?
アルバートと同じ服装の人間と、廊下で擦れ違う様になり、一つの部屋にたどり着いた。
入室に気が付いた何人かが、スミス達に近付く。
チームメンバーは、顔を見合せ、アイコンタクトを取った後、一人の女性が、手を差し伸べた。
「はじめまして、ドクター タナカ。お会い出来て光栄です。私はメインチーム主任のゾーイ・ナッシュです。」
半ば強制的に握手をさせられ、アルバートは困惑した。
五人のメンバーに次々と握手と自己紹介をされ、理論の話になりそうな時に、スミスが手を出して中断した。
「時差があるので、まずは休息させたいのですが?」
スミスの言葉に、ナッシュは、名残惜しそうに、手を放す。
スミスに引き摺られる様に、その場を後にするアルバートに、ナッシュは手を振り、叫んだ。
「地球の未来の為に頑張りましょう!」
その後は、配布された情報パッドの使い方、建物の壁に埋め込まれたインフォメーションの使い方など教わった。
研究棟の構造、施設の配置や基地の全体像など、全てパッドや壁インフォで検索出来る。
持物、閲覧制限は有るらしい。
研究棟は、企業時代の施設と、大差なかった。
徒歩圏内に、居住区もあり、広めのブロックを割り当てられた。
迷っても、壁インフォで『俺の部屋はどこ?』と言えばナビゲートしてくれるそうだ。
部屋に案内されて、アルバートはスミスに質問する。
「水爆強化なんて危険な技術のセキュリティは、どうしているんだ?」
「プロジェクトは、メインチームを中心に、幾つかのセグメントに別れている。メインチームは理論と計画、実験検証と改善計画を立てる。各セグメントは、組み立てだけ、調整だけ、部品製造だけと言うように、何を作っているかも知らないし、メインチームも、詳細な技術は理解していない。」
確か、バチカンの古書解析チームが、一人に一ページづつ翻訳させて、全体像を隠匿するする方法を取っていると聞いた事がある。
「レイモンド・ウィリアムズは、どうなった?」
「彼は、今も逃げおおせている。まぁ、逃げる理由が、我々には理解出来ないが・・・」
レイモンドは、アルバートより、何枚も上手らしい。
「さっきの『地球の未来』って、どう言う意味だ?」
「本来、貴方は、サブセグメントに配置される予定だったので、詳細は開示されないはずだったのだけれども、詳しくは、情報パッドに新メニューが加わっているはずだから、そちらを見て下さい。ナッシュ主任が、貴方の書き込みを見て、是非にメインチームへと、申請なさったのです。」
スミスは、部屋への入室を促した。




