いつもの仕事
西暦2063年
この物語はアメリカ某所の地下施設から始まる。
2063年
室内に定時を告げるチャイムが鳴る。
チャイムと言うより、短いミュージックだ。
私は、読んでいた本をページが開いたまま伏せて、ソファーを立つ。
当直の相棒もスナック菓子の粉がついた指を舐めながら、姿を現した。
それぞれが担当のコンソールに座り、アイコンタクトをとって、キーボードにそれぞれのIDを打ち込む。
カメラで記録されてはいるが、ちゃんと勤務時間中に二人で仕事をしている事を知らしめる行為だ。
やる仕事は、二人共に同じだ。
フロアディスプレイに表示された数値を、コンソールディスクのディスプレイに打ち込んで行く。
12箇所の放射線値を打ち込み、間違いが無い事を再確認して『確認』ボタンをクリックする。
ディスプレイに『差異無し』が表示された。
続いて、四分割された画面を30分間眺める。
施設内の各所にセットされたカメラ映像が、一定時間で切り替わっていく。
注意すべきは、施設に異常が無いかの確認もだが、画面の右上に写りこんだ独立型時計の時間が正しいかと、コンソールのボタンを押した瞬間に、画面内の現地ランプが点灯したかの確認だ。
これは偽装行為を見破る行動らしい。
相変わらず、11番の時計が2分遅れているのと、25番の画面に若干のノイズがある。
ディスプレイのログにチェックを入れて、変化無い事を記録する。
頻繁に出入出来る場所ではないので、小さな異常は放置さるる。この異常は1年以上放置されている。
コメント欄に『特に異常無し』と書き込んでエンターキーを叩けば、画面に『定期監視終了』と表示される。
「ふぅ!」
私が溜め息をつけば、相方はエアークリーナーでキーボードに付いた菓子の粉を掃除していた。
三交代8時間シフトのうち、この作業が4回ある。
実際には24時間体制で人工知能による監視が行われているのだが、ハッキングやトラブルに備えて、人間二人を含んだトリプルチェックが行われている。
定期監視の時間以外は、アラームが鳴るまで『待機時間』と言う名の自由時間だ。
ソファーに戻ると、伏せた本を手に取り、再び活字を追いはじめた。
この本は私物ではない。施設の備品の一つだ。勿論、相方の食べているスナック菓子も同様だ。
セキュリティの立場から、この施設には私物は持ち込めない。
電波も届かない。エンゲージリングや衣服すら、数キロ離れた施設で着替えて車で移動する。
外部と繋がっているのは、通常電力と専用回線連絡、暗号化された衛星通信くらいだ。
物資補給は勿論、上下水道すら、専用ポイントで車で給排水をしている。
場所は、勿論、極秘だ。
悪の秘密結社というわけではない。ここは、廃棄核物質の地下保管施設なのだ。
悪用されれば、最低でも都市規模の災害となる。
退屈な単純作業だが、だれかがやらなくてはならない、必要な仕事だ。
休暇は外出出来るし、バカンスにも行ける。給料や福利厚生も悪くはない。
守秘義務も有るが、たいして重要な秘密をかかえている訳でもない。
同僚とは、干渉し過ぎない様にするのが職場の決まりだ。
まぁ、悪い職場ではない。