第1番 1楽章 「入学 Ⅱ」
「あの…… すいません……」
「おっ、 1年生か! どの楽器希望?」
「まだ決まってないんですけど…… サックスを吹いてみたいです」
「了解、 サックスの人呼んでくるから少し待っててね」
体験初日、音楽室にはたくさんの1年生が来ていた。それぞれ希望のパートの先輩と学校内の廊下や教室に散らばって練習を始めている。管楽器を吹いたことが無い隼人は、とりあえずサックスを吹いてみることにした。
「サックス希望の子って君かな?」
「はい…」
そこには綺麗な女の人が立っていた。
「サックスパート2年の柳瑞希です。よろしくね」
「1年の山崎隼人です…」
その日は1日音を出す練習だけしていた。サックスはリードで音を出す楽器で木管楽器に分類される。慣れるまでは音を出すのにも苦労するのだ。1日かけてやっと音がなるようになったのだ。
「ありがとうございました」
「お疲れ様。 よかったらまた明日も来てね、隼人くん」
「はい、さようなら」
練習を終え、歩きながら隼人は思った。人と話すのは苦手だ、と。いつも一緒にいる男子となら普通に話せるが、年上の女子となると話が変わってくる。そんなことを考えていると、後ろから槇川祐介が走ってきた。
「なんで先に帰っちゃうんだよ」
「マッキーまだ終わらなそうだったから」
「すぐ終わるんだし明日からは待っててよね」
「分かったよ」
「ところで体験どうだった?」
「サックスやってみたけど難しすぎて音が全然出なかったよ」
「まじか、管楽器大変そうだね」
「うん、そっちはどう?」
「先輩上手いし早く追いつけるように練習しないとなぁって感じ」
「そっか、お互い頑張らないとね」
二人の会話は小学校の時と何も変わっていなかった。しかし隼人は何か違和感を感じていた。
「ただいま」
「おかえり。部活動だった?」
「管楽器って難しいんだね」
「まあ弦楽器とは違うからね。慣れるまでは大変なんじゃない?」
隼人の母親は学生時代トランペットを吹いていたため吹奏楽についての知識は母から教えて貰っている
「俺サックスやりたい」
「いいんじゃない? カッコイイし」
「明日からもサックス練習するよ」
「頑張りなよ」
「先輩達上手かったし練習頑張らないとな」
今日音を出すためだけにも口を痛めてしまった隼人は不安を感じていた。