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「オレも…モデルなので、知ってます」
「えっと、戒司くんだっけ? 実はモデルを仕事にしてるワケじゃなくて…」
「CMとか、エキストラ活動もしていますよね?」
急にイキイキとした声をかけてきたのは、年上そうな青年。
穏やかな雰囲気と、柔らかな口調が、逆に目立っている。
「ああ、急に失礼。私は暁と言います。今までは声優業や俳優業をしていました」
爽やかな笑顔で握手を求めてくるので、再び手を差し出す。
「昶さんとは実は何度か同じ現場でお会いしているんですよ」
「えっ? どっどこでですか?」
「多いのは撮影現場ですね。私もエキストラ活動をしていた時がありまして、その時に」
…目の前が一瞬、暗くなった。
あえてこの業界で目立とうとは思わなかった。
思わなかったけど!
…CMやエキストラ、モデル活動をしていたのは事実だった。
CMでも大勢の人数が必要な時だけ、出ていた。
大勢の人の中にいれば、目立たないだろうと思っていたのに…。
「このオーディションでお会いできるなんて、光栄です。お互い、頑張りましょう!」
げっ!
もっもしかしなくても、やっぱり男と見られている!?
それだけじゃなく、オーディションに出るとまで思われてる!
「あっあの…」
慌ててアタシは口を開いた。
「すっげぇ…。昶って、有名人だったんだ!」
今まで黙って聞いていた翔が、頬を赤くして、アタシを見ていた。
「えっ、いやっ、ちがっ…」
「よぉし! 昶がライバルでも、オレ、負けないからな!」
ちっがーう!
声を大にして言いたかった。
でも…聞いちゃいない。
だからアタシは別の方向から、逃げようと思った。
「でっでも、アタ…いっいや、オレ、ナンバープレート無くしちゃってさ。もう帰るとこなんだ!」
本当はそんなもの、無い。
でも言い逃れには1番良い。
大事なナンバープレートを失くすことは、オーディションを受ける資格を失くすことと一緒だから。
「えっ!?」
「ああ、ホントだ」
翔と颯がアタシの胸元を見る。
「あきれたものだな」
「どこで失くしたか、覚えていますか?」
ため息をついた雅人と、慌て出す暁。
戒司は青い顔で、アタフタしている。
「わっ分かんないんだ。だからもう帰るから…」
「ダメだよ! そんなの!」
翔がいきなり声を荒げたものだから、周囲の視線が一気にこっちに向けられる。
「もったいないよ! 今まで頑張ってきたんだろう? オレも探すから、諦めるなよ!」
…探したって、無いものは無いんだけど…。
「そうですよ。私も一緒に探します」
「オレも…付き合います」
なっ何かどんどん話が大きくなっていくような…。
「探している時間があるのか?」
しかしそこで、雅人の冷たい声がかかる。
「翔とやら、もうすぐ出番じゃないのか?」
翔は壁にかけてある時計を見て、目を大きく見開いた。
「あっ…!」
「探している時間なんて無いだろう?」
「でっでも、このままじゃ昶が不合格になっちゃうし…」
「…本来なら、自業自得だと切り捨てるんだがな」
雅人は壁から背を離し、こっちに歩いてきた。
「舞台で自己紹介の時に、素直に言うしかないな。マイナスポイントにはなるだろうが、それでも何もしないで帰るよりはマシだろう」
…もしかしなくても、助け舟を出してくれている?