2
「コラコラ! やめやめ! オーディション前でしょう? アンタ達、こんなところでチャンスをパーにする気?」
2人の肩を掴み、そう言うと、何とか落ち着いた。
「ピリピリするのは分かるけど、当たるのは間違いだよ。今は落ち着いて、オーディションのことだけ考えな」
2人は気まずそうに、それでもお互い別々の所に移動した。
「ふう…」
こういう場面を見るのは何度目だろう?
わりと起こりやすい。
いつもならスタッフが対応するんだけど、マスコミの方が大変みたいだからな。
「アンタ、スゴイな」
いきなり後ろから声をかけられた。
「えっ?」
振り返ると、まだ幼さの残る顔の少年が笑顔でいた。
胸にはナンバープレートが付けてある。
オーディションを受けに来た少年か。
「オレ、翔って言うんだ。アンタは?」
「えっと…昶」
「昶! 良い名前だな!」
ニコニコと笑顔で話しかけてくる。
元気いっぱいってカンジで、可愛いな。
まさにアイドルタイプ!
「昶、スゴイよな」
「えっ? スゴイって?」
「さっきの2人、仲直りさせたじゃん」
仲直り…と言うよりは、
「仲介だな」
別の方向から、また声をかけられた。
振り返ると、メガネをかけた、冷たい感じのする青年が壁に寄りかかって、こっちを見ていた。
この感じは…アイドルというより、俳優タイプだ。あるいはモデルタイプ。
人前で愛想笑いをするタイプではない。
「でもまあ礼は言っておこう。うるさかったし、邪魔だったからな。アイツら」
「…あなたは?」
「俺は雅人。役者だ」
…やっぱり。
「あっ、オレは地元でモデル活動してたんだ。昶は?」
「えっ!?」
あっ、身分証明書、出すの忘れてた。
「昶、キレイな顔してるから、モデルしてた?」
「モデル…みたいなことは少し…」
事務所に大人数のモデルの仕事が来た時、出た時が何度かあった。
でもお給料は安かったし、いつもやっていたワケじゃない。
あくまでも人数合わせの為、出ていただけだ。
「あ~、やっぱり。どこかで見たことのある顔だと思った」
いきなりアゴを掴まれ、上を向かせられた。
爽やかなイケメンの顔が間近にあった。
「うわっ!?」
慌てて手を振り払い、思わず翔の後ろに隠れた。
「ああ、ゴメンゴメン。オレは颯。よろしくな、昶」
そう言って笑顔で手を差し出してきたので、一応握手した。
「よっよろしく、颯」
すると颯はアタシの手をじっと見つめた。
「なっ何?」
「…ああ、ゴメン」
けれど放してくれた。
「オレはバンドでボーカルをしてたんだ。でも昶も良い声してるよな」
「そう?」
「うん! 中性的なカンジで、イケてるよ」
中性的…。
その言葉が、グッサリ胸にきた。
「あの、雑誌で…お見かけ、しました」
おずおずと、静かに声をかけてきたのは、キレイな顔をしている少年だった。
「オレ…戒司と言います。以前、雑誌でアナタを見かけたことが…」
口調は大人しいけれど、顔立ちはハッキリしている。
「あっああ、うん。バイトでね、人手が足りないって言われて出たんだ。小さな写真だったでしょう?」
「はい…。でも、輝いていました」
かっ輝いていた? アタシが?
…正直、あんまり嬉しくない。