デビュー前に…
そもそもアタシは普通の…とは言えない両親と周囲の環境があった。
父親は元俳優。しかも世界を舞台にして、活躍した超有名俳優。
今では引退して、タレント事務所を経営している。
コネや才能、そしてお金のある人なので、瞬く間に事務所は成功し、街中には5つのビルが建った。
そして母親は元トップモデル。生粋の日本人ながらも、世界一の美女という地位と名誉を貰ったことがある。
今では引退し、モデル事務所を経営している。
ここでは若手の育成に力を入れていて、また服飾デザイナーとしての顔も持っている。
そちらも成功を収め、全国に30店舗、母の店がある。
二人の会社は協力し合っている形で、仕事は別だが二人はよく一緒にいる。
二人の間には、アタシが産まれた。
でも両親は特にアタシに芸能活動のことは、強制しなかった。
ただ周りの環境が環境なだけに、時々事務所が忙しい時にはバイトとして顔を出していた。
例えば、イベントで人手が足りない時。
あるいは事務系の仕事が溜まっている時など。
アタシもアタシで顔が広かったから、そういう仕事をちゃんとこなせていた。
しかし…新人には通用しない。
それを実感したのが、あの日のバイトだった。
その日、父の事務所ではオーディションが行われていた。
次の時代を引っ張るアイドルグループを結成する為に、集められた若い少年達。
次で最終オーディションということもあり、少年達はみんな緊張していた。
全国から集められた約50人のアイドルのタマゴ達。
しかし全員素人ではない。
元より何かしらの能力が高いコばかりで、レベルは高かった。
アイドルグループと言っても、何かしらプロレベルでなければいけない。
例えばモデルの仕事をしていたり、何かしら運動能力が高かったりと、経験と能力がものを言った。
そして合格した者は、父と母の全力のバックアップの元、デビューできるのだ。
アイドルとしてデビューしたい少年ならば、必ず受けに来るオーディション。
しかし…あまりの人の多さに、アタシは駆り出されていた。
その時ばかりは、外部からもバイトを雇ってテンヤワンヤの大騒ぎ。
マスコミも来てたしなぁ。
首から下げた身分証明書で、事務所の関係者かどうか分かる。
オーディションを受けに来た男の子達は、ナンバープレートを付けている。
それ以外の人物は、警備員に声をかけられていた。
慌しく動く。
アタシはその時、パーカーを着ていた。
身分証明書はブラブラしてて邪魔だった。
だからパーカーの中に入れて、歩いていた。
が! …それが大きな間違いだった。
オーディションを受ける人達の待ち合い室で、少し騒ぎが起こっていた。
アタシは人の合間をすり抜け、控え室に入る。
すると2人の男の子が、軽く言い争いになっていた。
控え室にはそれぞれ10人入れている。
あまり多過ぎると、緊張感が移ると思っての部屋割りだったけど…。
…10人でも多かったな。