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誰が為に正義を謳う  作者: サムライ
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魔族飛来

「お前は強い」


賢者にある程度まで傷を回復してもらった勇者がふらふらと歩きながらザックに向かっていった。


「俺たちよりもよほど、確かに俺たちが師匠や教師から戦い方を学んでいるときにお前は実践で最善の戦い方を見つけたのかもしれない・・・でも、それだけじゃないだろう!そんなことで!!そんなことだけでこれほどの差が出てたまるか!!」


勇者は部屋中に響くほどの大音量で叫んだ。

ひとえに悔しかったのだ。

勇者として多くの人の希望を背負う自分が、こんな辺境の冒険者に実力で負けているという事実が許せなかった。


「どうやって・・・どうやってそんな高みにいった・・・何をして!!教えろ!俺は強くならなくちゃいけないんだ!!!」


強さを求める勇者の姿は異常の一言に尽きる有様だった。

その目は真っ直ぐにザックを睨みつけ、早口でザックに答えを求める。

そんな勇者の姿にザックは呆れたような目を向けた。


「お前が美女3人を引き連れていちゃこらしてる時間も、国からもらったお金でおいしいものを食べてる時間も、いい宿でぐっすりと睡眠をとっている時間も、俺は全て魔物を殺すためだけに使った」


「な、どういうことだ!!」


勇者は自分が馬鹿にされているのかと思い、また声を荒げる。


「自分よりも高レベルの魔物の巣の中に飛び込め」


「「「は?」」」


姫様達は「急にこいつは何を言っているんだ」と同時に声をあげた。

だが、なかば錯乱状態の勇者だけは違った。


「そんなことをしたら死ぬだろ!!!」


「はぁ・・・じゃあ、お前が俺より強くなるのは不可能だ」


「どういうことだ・・・おい!おい!!」


勇者が意味がわからず聞き返すがザックは無反応で出口へと向かう。

勇者はそれを追いかけてザックの肩を掴み無理やりに振り返らせる。


「こっち側には来ないほうがいい」


なおも口を開こうとした勇者よりも先にザックがそう呟いた。

その表情は、絶望、失望、悲しみ、苦しみ、後悔・・・あらゆる感情が渦巻いたようなもので、言い知れぬ不安を勇者の心に植えつけた。


「俺帰るわ、伝説の剣手に入れたなら、もう帰り道も大丈夫だろ」


「待ってください!私達のことを護るために?」


賢者が出口へと向かうザックを呼び止める。


「当たり前だろ、散歩がてら王家の墓に来るヤツなんていると思うか?」


ザックは心底めんどくさそうに答える。


「じゃあ、私達と一緒に魔王討伐を・・・!」


「なんでそうなるんだよ」


姫様の必死の提案をザックは食い気味に断る。


「だって、私達を護るためって・・・」


姫様がいじけたようにボソボソと呟く。


「あのな、俺は正義感からお前らを護りにきたんじゃない、ギルドからの直々の依頼だ」


ザックはイライラとしたような声でそういうと続けて「はいっ!もうこれ以上の提案も質問も受け付けませーん!!」と茶化すように叫んでスタスタと階段を登って行った。


「おいおい、マジかよ・・・」


ザックが階段を登ると街のほうに何本もの黒煙が立っているのが見えた。

上空には無数の鳥型の魔物が飛んでおり、誰の目からも魔族の襲撃だとわかった。


「なんでこんな辺境の街に!!」


ザックは悪態をつくと、全速力で街への帰路に着く。

街に近づくにつれ、その被害が鮮明に見えるようになった。

鋼鉄の門はとてつもない力でこじ開けられ、中にはオークやゴブリンなどの魔物が暴れている姿があった。

空からは鳥型の魔物が人々を掴んでは上空から落としている。


ザックはこじ開けられた門から中に入ると、とりあえず目に入った魔物を倒しながらギルドへと向かう。

ギルド前の広場にはたくさんの冒険者やギルド職員がギルドマスターの指示に従い動いていいた。

ギルド職員はBランク以上の冒険者だけで構成されているのでそれなりに戦える。


「こりゃすげぇな」


ザックは興味津々な眼差しで冒険者の先頭に立って戦うものたちに視線を送る。

彼らはS級冒険者たちだった。

ザックには及ばないがそれでもかなり腕の立つものたちでその風貌も目立つ。


隻腕のライド。

彼の左腕は肘から先がない。

A級冒険者の頃に幼竜と1対1で戦い、食いちぎられたらしい。

それだけではなく、体中のいたるところの肉を食いちぎられていたそうで、「生きているわけが無い」と驚愕に目を見開いた医者に対して「竜はたいしたことがなかった」と豪快に笑って見せたのだという。

そんなライドの武器は己の肉体であり、他の武器と言う武器は何も持っていない。

ゆえに彼の右手の筋肉は恐ろしく発達しており、人間のそれには見えないほどである。


無紋の騎士ジル。

彼は冒険者には珍しく盾を装備している。

魔物の攻撃とは基本盾で防ぐことは困難であり、盾で防げたとしてもその反動は凄まじく、次の一撃に対応しきれず致命傷となることが多い。

だが、彼は体の半分を覆うほどの大きな盾を有しており、剣、鎧もあわせたその姿はまるでどこぞの騎士のようである。

しかし、その構えはやはり騎士のそれとは違い異様の一言に尽きるものである。


亜人同盟。

彼女達は、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人の女のみで構成された4人パーティーだ。

亜人ということもありS級になるときに多くの反感をかったが、彼女達の美しい戦いを見たものは皆心を捕らわれ、今ではファンクラブもあり、そのものたちとともに亜人差別をなくそうという活動に参加しているらしい。

もともと亜人は人間よりも身体能力や魔法の適正が高いため、戦闘においては有利ではある。


切り裂き狂のルーク。

いつもボロボロの服に十数本のあらゆる剣をぶら下げている。

その剣はよく手入れされており、不気味なほどにギラギラと輝いている。

その見た目は、ボサボサの髪で顔は見えず、体はガリガリで見たものに亡霊のような印象を与える。

オーガやゴブリンなど刃物を使う魔物を好んで相手にするため、体には無数の切り傷があり、有名な話では敵の剣をわざと自分の肩に突き刺し、動きを封じたところで切り刻んだと言うものがある。

それが切り裂き狂の名前の由来となった。


深淵の魔女ミラ。

彼女は美しい美貌を持った女性であり、その財力と美貌で何人もの男を漁っているそうだ。

だが、彼女の屋敷に入った男が帰って来る事はないため、その屋敷の地下には拷問部屋と地下牢があるのではないかと噂されている。

彼女の使う魔法はどれも第5等級魔法であり、これは人類が到達できる最高の魔法である。

彼女の故郷の魔法は深淵の魔法と呼ばれており、魔法使いの中では至高の魔法とも禁忌の魔法とも言われている。


ちなみにだが、随分前に魔法の実験で失敗した彼女は大量の魔物に囲まれてしまい、詠唱が必要な魔法使いでは勝ち目の無い状況になってしまった。

そんなときに依頼が終わったザックが偶然通りかかり、軽く魔物を皆殺しにしたのを見て、それから会うたびに屋敷に誘っている。

何回目かの誘いのときにザックは、いつものように噂のことを持ち出し断ったが、彼女は「大丈夫よ、こんな可愛い坊やを殺しはしないわ、だってもったいないもの・・・ずっと屋敷で可愛がってあげる」と不穏な言葉を漏らしたので、ザックは絶対に誘いにはのらないと心に決めている。


そんなミラが自分に向かって満面の笑みで手を振っているのを見て、ザックは「げっ」と顔を歪ませる。


姿が見えないが、S級冒険者はあと2人いる。


狂信者のザラ。

神の敵である魔物を断罪という名目で殺し続ける謎の人物。

大柄の男であるとも細身の女であるともいわれる不思議な冒険者で、何人もいるのではと噂されている。

その者の戦う姿を見たものはいないため、とにかく謎に包まれた人物だ。


無にす者イブ。

純粋な戦闘能力では他のS級冒険者の追随を許さない最強の少女。

彼女が、街に現れた魔族の討伐を依頼されたとき彼女は快く依頼を受けた。

しかし、なかなか帰ってこないうえに、連絡もないため、ギルドが冒険者に様子を見に行かせたところ、街が丸ごと消えていたらしい。

その原因であろうイブはクレーターのように抉れた地面の中心でスーピースーピー寝息をたてて寝ていたそうだ。

その事件からイブは生活の全てをギルドが面倒見る代わりに、出動を制限されている。


ザックは何度かイブにあったことがあるが、その性格はとにかく破綻していて、まともなところを見つけるほうが難しかった。

イブは自分よりザックのほうが強い、とあった瞬間に理解して、「お兄ちゃん」と呼ぶようになり、変になついている。


ドーン!ドン!ドン!ドン!!ドーンッ!!!


広場の中心に重いものが地面に落下する鈍い音が何度も響きわたる。


「どうも、下等生物の皆様、我々魔王軍はこれよりこの街を破壊!破壊!破壊!!・・・致します」


空から飛来した魔族のうちの1人、執事のような格好をした細身の男が不気味に笑いながら言った。

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