表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が為に正義を謳う  作者: サムライ
5/6

忘れられた勇者

王家の墓の下には長い階段とその先にとてつもなく広い四角形の部屋が一つあった。

その部屋の壁は淡く光り輝いており、部屋全体は薄暗いが真っ暗と言うわけでもなかった。

その部屋の中心には一本の剣が刺さっており、その剣が刺さった台座には『汝、神託を受けし真なる勇者であるなら、この剣も答えよう』という文字が刻まれている。


勇者以外の3人は驚いた様子で部屋を見回しているが、勇者だけは険しい表情で剣の台座のもとへと歩いていく。

3人も小走りで勇者のあとを追い、台座のもとへと行く。


「ふぅ・・・」


勇者が緊張をほぐそうと息を吐き出す。

3人も緊張したような顔でそれを眺めている。

ザックはと言うと広い部屋の手前の階段に座り、欠伸交じりにその様子を見ていた。


「行くぞ・・・」


勇者が3人の顔を順に見回すと、3人もそれに答えるように頷いた。

勇者は台座に上ると剣の柄を握り、ゆっくりと引き抜いていく。


キーン・・・。


剣と台座が擦れる甲高い音が音が部屋に響き渡り、台座を中心に壁の光が波打つ。

剣は太陽の光を凝縮したような強烈な光を放ちながら何の抵抗もみせずに引き抜かれた。


「すごい・・・」


姫がその眼を輝かせて呟いた。

姫だけでなく勇者を含む他の3人もその光に目を奪われる。


「どーん」


ドゴーンッ!!


突如、部屋の天上に穴があく。

何事かと天上に目を向けた勇者達の目に映ったのは、天上の穴から見える空と今まさにその穴から落下して来ているなぜか裸の魔族と思しき男だった。

その魔族はまるで衝撃を感じさせずにスタッと着地すると勇者の持つ剣を睨み付ける。


「見つけた・・・うん、見つけた、抜いた、勇者、剣、抜いた・・・うん、抜いた」


何度も何度も同じ言葉を繰り返すその魔族はとても正気とは思えなかった。

魔族は剣を睨み付けたままふらふらと走り出す。

ぺたぺたと裸足の足が音をたてる。


咄嗟のことに唖然のしていた4人も一斉に動き出す。

ザックはと言うと眠そうな顔で「こりゃ勇者負けるな」と呟きながらぼーっと見ている。

ただの推測でしかないため実際に危険になるまで動く気はなかった。


「勇者殺す!剣奪う!うん、うんうんうん!」


ブンッ!


魔族の蹴りを勇者は間一髪のところで避ける。


「うん!!」


「ぬあっ!」


しかし、続けた放たれた2撃目をもろにくらい、吹っ飛ばされる。

魔族の男は吹っ飛ぶ勇者を走って追いかけ、まだ起き上がりもしていない勇者の胸倉を掴んで放り投げた。

勇者は遥か向こうまで飛ばされ壁に激突し、その場に落下する。


「ぐふっ・・・はぁはぁ・・・」


ふらふらと四つん這いになった勇者が口から血を吐き出す。

痛みで真っ白になった頭がたった1文字で埋め尽くされる。

それは『死』、それも今目の前に明確な形をとって現れた確実な『死』だった。

苦しそうではあるが、まだ生きている勇者の姿を確認して、魔族は再び走り出す。


「(殺される・・・殺される・・・嫌だ嫌だ嫌だ!)」


ドッドッドッドッドッ!


圧倒的な力を前に、口を開けてただその様子を見ていることしかできなかった3人の間を何かが通り過ぎる。

物凄いスピードで魔族のもとへと向かうその黒い風は、地面にヒビで足跡を残していく。


「あ゛っ!?」


魔族が異変に気付き振り返るのと同時にその黒い風は残像すら残さず完全に消える。

そして、振り返った魔族の後ろに突然現れた。


「あぁっ!!」


魔族が後ろから浴びせられる猛烈な殺気に再度振り返ろうとするがそれは叶わなかった。

気付けば、自分の体は浮いていたのだ。

かと、思えば次に襲ってきたのは何か硬いものに当たる衝撃。

自分の上半身は壁に埋まっていた。


何が起きたのか、ザック以外の全員は理解できなかっただろう。

そんなのは簡単だ、ザックが魔族を殴った、それだけのこと。


だが、勇者側からすればさっきまで走っていた魔族が急に吹っ飛び体の半分が壁に埋まった状態になっただけでなく、先ほどまで魔族がいた場所に街中にいる市民のような服装の細身の青年が立っている。

魔族からしても今まで気配すら感じられなかった5人目の「何か」の殺気を感じたかと思えば、次の瞬間には自分の体は浮いており、さらに体の半分が壁に埋まったのだ。


「騙した?うん、騙した!どんなトリックかはわからないけど、そっちが本物の勇者?うん、多分そう!」


魔族は壁から上半身を出すとその額に青筋をたててザックのもとへと走る。


「退け!」


「なっ!あなた何を・・・!」


「退かない!退かない?うん、退かない!!」


ザックの言葉にようやく姫様が反応したが、魔族に遮られる。


「退けといった!」


「退かないっていった?うん!!退かない!!!」


「あの人は何を言ってるんですか・・・?」


「わからない・・・」


勇者達はさっきまで魔族に向けていた唖然とした表情を、今度はザックに向ける。


「最後の忠告だ・・・退け!!」


「しつこい!お前、しつこ・・・い!!!」


全力で力を溜めた魔族の攻撃、恐ろしく早く、恐ろしく思い一撃。

だが、ザックはその攻撃を軽く避けると、魔族の足に自分の足を掛けこけさせる。

そして、宙に放り出された魔族の体が地面に着く前に蹴りを入れて斜め上に吹き飛ばす。

次は、魔族の体が壁に当たり上半身が埋まる前に、吹っ飛ぶ魔族を追いかけて跳び、剣で切り刻む。


腕、足、脇腹、空中で分解された魔族の体の一部や血が雨のように降り注ぐ。


「待て、嫌だ!死にたくない・・・死にたくない!・・・助けて?うん、助けて!!」


「最後の忠告って言っただろ?」


ザックのその眼光に慈悲などなかった。

魔族が次の命乞いを口にする前にザックは魔族の首を切り落とす。


ズドンッ・・・!


ザックが着地するのと一泊置いて魔族の体が落下してくる。

魔族の重い体が地面に落下すると、部屋は虚しい静寂に包まれた。

その静寂をザックが破る。


「言っておくが今のは魔族の中でもB級かA級ぐらいだ、お前らじゃD級も倒せない」


広い部屋にザックの言葉がこだまする。


「あなたは一体・・・」


姫様が驚いたような悔しそうな複雑な顔で搾り出すように呟いた。


「俺はザック、ただのD級冒険者だ」


「D級・・・嘘をつかないで!確かD級って最低ランクを意味するはずでしょ?」


魔導士がイライラしたような声で声で言った。

この魔導士はボンキュッボンのお姉さんで濃い茶髪のウェーブがかかった長髪だ。

顔は全体的にキリッとしており、右目の下に泣きぼくろがある。


「第4等級魔法を行使できる魔導士ってのはかなり頭がいいって聞いてたんだけどな・・・ありゃ嘘か」


「なんですって!!」


「あのな、ランクが上がるごとにギルドから面倒事を押し付けられることが多くなるから、D級に留まっている冒険者がいたっていいだろ?」


「でも、あなたは強すぎます!」


今度は賢者の少女が声を出す。

おそらく勇者パーティーの中でもっとも年が下で小柄だ。

透き通るような金髪を後ろで1本に束ねている。

ザックに視線を向けられただけで姫様の影に隠れる辺りが小動物のようで可愛い印象を与える。


「そうです、たった1人で魔族を・・・あんなにするなど」


姫様が魔族の死体をひいたような眼差しで見ながら言う。

姫様は黒く美しい髪を短く切りそろえている。

ザックが前にパレードで見たときは長かったのだが、おそらく戦いやすいようにと斬ったのだろう。

顔はいわゆる絶世の美女というやつだ。


「まあ、お前らの戦い方と化け物狩りを専門としてずっとやり続けていた俺たちの戦い方は全く違うからな」


ザックがまるで犯罪者の取調べのように質問されるので、苛立ちを感じさせる声で言う。


「でも、お前らにはそれ以前に問題があるけどな・・・まずお前!」


「ひっ、なによ!」


ザックに指を指された魔導士がビクッと体を大きく振るわせる。

緊張感を演出するためにザックのユニークスキル「死神の抱擁」を微弱に発動しているのは内緒だ。

ちなみにこの「死神の抱擁」というユニークスキルは、もともと「威圧」というスキルだったのだが、ザックがレベル200になったときにユニークスキルへと進化した。


「道中に魔法を撃ちすぎだ、あれじゃすぐに魔力切れを起こす!現に今も肝心なときに魔法を撃てていなかっただろ!」


「それは!・・・たしかにそうかも」


「次にお前!!」


「ひっ、わ、私ですか」


賢者が姫様の体の後ろに隠れて顔だけを出す。


「回復だけが賢者の仕事じゃないだろ!賢者の攻撃魔法はアンデッドには大ダメージだし、それに能力向上系の支援魔法も使えよ!!」


「ご、ごめんなしゃい!」


「お前もだ!!」


「ひっ、ぶ、無礼な!」


勇者パーティーでは何か驚くことがあれば「ひっ」といわなくてはいけないのか、全員が言う。

指を指された姫様が小さく悲鳴をあげたあと言い返そうとするがザックはもちろんそんなことを許さない。


「勇者がボコボコにやられてるのにピクリとも動けないとか・・・はっ」


ザックはこれ以上は言うまいと姫のことを鼻で笑う。

笑われた姫様は「なんですか!」と顔を真っ赤にして怒っている。


「そ、それはあなたも同じじゃないんですか!」


賢者が姫様の体の後ろから頭だけを出して言う。


「あ?」


ザックに睨まれるとやっぱり姫様の後ろに隠れる。

だが、言葉は止まらなかった。


「ひゃう・・・だ、だってもっと、早く・・・助けに来れたんじゃ・・・・・・ないのかなぁって」


だんだんと小さくなってはいるが最後まで言い切った。

ザックはなんとなく「よくやった」と言いたくなってしまう。

しかし、ザックの口から出たのは賞賛の言葉でも反撃の言葉でもなかった。


「く・・・くくく・・・あーっはっはっはっはっは、いーひひひひひひひ、腹いて、くそっ、くくく・・・あっはっはっはっはっ!」


ザックはその場で崩れ落ちて何度も地面を叩いて笑い転げる。


「勇者の仲間がその辺の助けるべき冒険者に助けられて挙句の果てにはもっと早く助けに来られたんじゃないですかって・・・こりゃ、傑作だな、くくく・・・ダメだ!笑い止らん!」


ザックに改めて言葉にされて自分の言っている言葉が恥ずかしくなったのか、賢者は顔を抑えて「うぅ」と唸っている。


「それに、お前にだけは言われたくない」


しばらく笑うとザックは笑いすぎて目の端に浮かんだ涙を拭い、「あー腹いて」と立ち上がると賢者に向けてそう言い放った。

姫様も魔導士もその言葉をいわれた賢者でさえも意味がわからず首をかしげる。


「俺の悪いところをがんばって探すのもいいけど、そろそろ勇者回復してあげないと死ぬぞ」


「「あ」」


「え・・・あっ!!!!」


賢者はザックの言葉にみるみると青ざめて、ゆっくり勇者のいるほうへと目を向ける。

そこには瓦礫に埋もれた血塗れの勇者が倒れていた。

姫様も魔導士もすっかり忘れていたのか同時に声をあげた。


賢者は「ごめんなさ~い!!!」と泣きそうな顔で勇者の下へと走っていく。


血塗れになって唸り声を上げる勇者と泣きそうな顔でそれを治療する賢者、そして冒険者にぼろくそに言われてバツが悪そうな魔導士と何も言い返せずショックを受けた様子の姫様。

そして、未だに肩を震わせ「くくく・・・」と笑っているザック。


四角形のとてつもなく広い部屋には混沌カオスな空気に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ