王家の墓に佇むは英雄
王家の墓、歴代の勇者の像たちが護る、その中心には巨大な墓石が立っており、王達の名が刻まれている。
鎧を着て剣を地面に突き刺した2メートル近くある勇者達の像は、魔物を寄せ付けないための結界の役目を担っている。
なぜ、こんな辺境の街の近くに王家の墓があるのかというのは謎であり、墓石の下には王家の宝が眠っていると裏の世界で囁かれている。
だが、この王家の墓のまわりには偶然か必然か、強力な魔物たちが蔓延っているため、そんな噂話に命をかけようというバカはいない。
「だが、勇者が行くとなると・・・本当に伝説の剣でもあんのか?」
ザックは、強力な魔物に苦戦しながらも何とか敵に止めを刺す勇者の姿を眺めながら呟く。
勇者のパーティーの構成は白銀の鎧を着た金髪勇者、板金をあてた皮鎧を着た軽装のレイピア剣士、白いローブを着た回復魔法を使う賢者、黒いローブを着た攻撃担当の魔導士。
賢者も魔導士も第4等級魔法を行使するかなりの魔法の使い手で、剣士も軽やかな動きで敵を突き刺している。
勇者も敵の攻撃をうまく防ぎ、連携としては抜群だ。
それを含めてザックが勇者パーティーを評価すると。
「全然ダメだな・・・」
勇者、剣士、賢者、魔導士。
なかなかいいパーティー構成のような気がするが、ザックから見るとゴミのようなパーティーだった。
まず、問題があるのはレイピア剣士。
魔物との戦闘に慣れていないのか、魔物の急所に刺さっていないうえに、魔物の分厚い皮や外殻と言う装甲を貫いてもその奥まで切先が届いていないので意味がない。
次に賢者、彼女は回復ばかりに気を取られ、攻撃や支援の魔法を使えていない。
アンデッド系の魔物には魔導士の魔法よりも賢者の魔法のほうが効果が高いと言うのにもったいない。
魔導士にも問題がある。
強力な魔物にびびっているのか、先ほどからやたらめったら魔法を撃ちすぎだ。
あれでは、すぐに魔力切れを起こしてぶっ倒れてしまう。
最後に勇者。
とにかくうるさい。
かっこいいと思っているのかスキル名を叫んだりするが、それによって新手を引き寄せている。
それと、純白のマントがひらひらと剣の邪魔になっている。
全体的に言える事だが自分の能力に頼りすぎている。
おそらくは素質があったんだろう。
だから、戦闘で悩むこともなく技術を磨こうともしなかった。
その綺麗な、一片の歪みもない戦闘方法が物語っている。
冒険者の戦闘方法とは、悩み考えることでいつしか歪なものへと変わっていくのだ。
中途半端な才能はかえって人を弱くする。
これらの理由から、そこらのS級冒険者のほうがまだ魔王を倒せる可能性があるとザックは苦笑いする。
「でもまあ、俺の仕事はなさそうだな」
ザックは突如として姿を現した巨大な墓石を見て、笑いながら言う。
勇者達は歴代の勇者が左右に並び睨みを利かせる苔むした石畳の道を進んでいく。
王家の巨大な墓石の前にはもっとも偉大とされる英雄の像が立っている。
他の像には苔が生えたり蔦が絡んだりしているが、その像だけには苔も蔦もなく、新しさを感じられる。
この英雄は11年前、魔王を倒した剣士である。
その年魔王の復活とともに現れるはずの勇者が現れなかった。
そこで各国の王達が自国の軍の中から一人選び出し、魔王討伐に向かわせることとなった。
選ばれたものたちはこぞって魔王討伐のために動いた。
力ある仲間を募ったもの、伝説の装備を探し求めたもの、様々だった。
しかし、この英雄はたった一人で魔物を殺して殺して殺しまくった。
そのときは誰もがその男は魔王討伐と言う重責に頭がおかしくなったのかと思った。
そして、最初に力ある仲間を得たものが魔王に戦いを挑んだ。
その結果は惨敗。
魔王に傷一つ付けることはできなかった。
次に伝説の装備を得たものが仲間を引き連れ魔王に戦いを挑んだ。
敗北。
しかし、神の力を持つといわれる魔法の剣で魔王の左腕を切り落とした。
その後も選ばれし者たちが次々と魔王に戦いを挑んだが全て敗北。
結局左腕を奪う他に傷を与えられたものはいなかった。
そこで魔王城に現れたのは狂ったかと思われた男だった。
その男は一人で魔王城に乗り込んだ。
だれも期待などしていなかった。
だが、あの男が魔王城に乗り込んだと言う知らせから数日後、魔王の死が確認されたのだ。
残っていたのはあの男だけ。
つまり魔王を倒したのはあの男だと世界中が彼を褒め称え、彼の帰還を待った。
が、彼が帰って来る事はなかった。
魔王を倒し忽然と姿を消したその英雄は魔王と相打ちで死んだのだ、と世界中の人は悲しんだ。
あらゆる吟遊詩人が彼の英雄譚を謳い、王家は彼の像を作った。
それが彼の物語。
この世界の人間なら誰もが知っている救国の英雄の話だ。
ザックがそんな御伽話のことを思い出しながら、勇者達のことを眺める。
勇者の仲間の一人、剣士が何やらネックレスのようなものを取り出してきた。
「あれは・・・」
ザックはそれに見覚えがあった。
そのネックレスに見覚えがあるわけではなく、ネックレスに描かれた紋章に見覚えがあったのだ。
竜に剣を突き立てる勇者の紋。
「王家の紋章・・・じゃあ、あの剣士はお姫様か」
ネックレスを持ちごそごそと墓石に何かをしている。
ゴ・・・ゴゴ・・・ゴゴゴゴゴゴ!
「(ぇぇぇえええええ!)」
ザックは心の中で叫ぶ。
石畳の床が大きな音と土ぼこりを巻き上げ左右にぱっくりと割れたのだ。
その中には下へと続く階段があった。