勇者の護衛
「魔王は復活した!だが、あんずることなかれ!神託を受けし勇者が現れたのだ!!」
「「「うぉぉおおおおおおおお!!」」」
冒険者ギルド前の広場に地を揺らすほどの歓声が響き渡る。
その中心にいるのは、白銀の鎧を着た金髪の青年と、青年の仲間と思われる女が3人、そして勇者を紹介する神官のおじいさんだ。
ザックはまったく興味がないので欠伸をしながら、その横を通り過ぎギルド内に入る。
「あ、ザックさん、お待ちしておりました」
「あ?ギルドの依頼か?」
ザックがギルド内に入ると、入り口の所に立っていたギルド職員が一礼をする。
こういう場合は大抵ギルドからの直々の依頼がある。
「はい、こちらを」
ギルド職員がいつものように依頼内容の書かれた紙をわたす。
中を見られないようになのか、毎回丁寧に封蝋までされたそれを、ザックは雑にその場で開ける。
そこに書かれていた内容は・・・。
「ギルドマスターの部屋まで来てくれ、詳しくはそこで話す・・・?」
書いてあったのはその文字だけだった。
ザックはクルリと踵を返して当たり前にようにギルドの扉に手をかけた。
そして、不思議そうにこちらを見つめるギルド職員に「じゃっ!」と軽く手を挙げて外に出ようとする。
「お待ちください!!」
その行動の意味がわかったギルド職員はザックの腕をがっちりと掴んでギルドマスターの部屋に連れて行こうとする。
「私、くびになっちゃいますよ~!」
「知らん!こんなの絶対めんどくさい依頼だろ!」
「お願いしますよ~!」
ザックはなきついてくるくる職員を引き剥がそうとする。
ザックは昔、一度だけこの方式で依頼を受けたことがあった。
結果はザックの噂を聞いてザックに憧れた貴族の娘と結婚させられそうになるという大惨事。
「はぁ、わかったよ・・・」
しばらくギルド職員との攻防を繰り広げていたザックは、1度大きく溜息を吐いて抵抗をやめる。
断って後々面倒なことになるのを避けるためと自分に言い聞かせる。
実際断ればギルドから除名されてもおかしくはない。
「本当ですか!こちらになります!」
嬉々とした表情でギルド職員が道を案内する。
ザックはいつもの3倍やる気のなさそうな顔でギルド職員に案内された部屋へと入る。
「ザッキュン!久しぶりだね!元気だったかい?」
小さい体でザックの体をよじ登る少女・・・いや、幼女。
彼女の名前はエルナ。
幼女の見た目ではあるがれっきとした成人の女性であるし、ギルドマスターだ。
「ザッキュ~ン!どうしたんだい元気がないみたいだけど!お姉さんが元気にしてあげようか?」
「それで、依頼内容は?」
「スルーか?お姉さんの下ネタはスルーか?そういうとこも、す・き!」
「とりあえず俺の体から降りろ!」
ザックが虫のように動き回るエルナの頭を一発殴る。
彼女はこんな見た目や性格をしているが、ギルドマスターという地位に見合うだけの実力は持っている。
その証拠にゴブリンの頭を粉砕するザックの拳を受けても「痛いなぁ、Sなのか?ザッキュンはSなのか?」とうざい絡みを続けている。
「いい加減にしろ、帰るぞ」
「わかったわかった・・・よっと」
エルナはザックの体から飛び降りると、自分の机のもとへと歩いていく。
机につく前に話し始める。
「魔王が復活したのは知っているかい?」
「ああ、下で神官が騒いでたな・・・あれは本当なんだな?」
「本当だとも、君には王家の墓まで勇者の護衛をしてもらいたい、いつも通りこっそりあとをつけて必要があるなら助けるだけでいい」
「勇者に護衛?おかしな話だな」
ザックはエルナの話を鼻で笑う。
「ザッキュン・・・君は異常だ、私は君の過去に何があったのか、君がギルドに入る前のことは一切知らない、だがこれだけは言える、君は誰よりも強い」
「まあいい、王家の墓はすぐそこだしな・・・依頼は受けよう」
「ありがとう、愛してるぜ!ザッキュン」
「そのザッキュンていうのやめろ」
ザッキュンはエルナに背を向け部屋を出る。