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誰が為に正義を謳う  作者: サムライ
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最強のDランク冒険者

この世界には冒険者と呼ばれる者たちが存在する。

彼らは、化け物狩りを生業とする戦士であり、多くの人に頼りにされる反面、多くの人に忌み嫌われる。

英雄碑に憧れて、生きるために仕方なく、愛する者の復讐のため・・・理由は様々であるが、冒険者と言うのはみな一様にどこか壊れた存在であった。

いや、壊れてしまったと言った方が正しいのだろうか。


人を殺すことを目的とする兵士や、見せるための武術をする貴族とはまったく違う、異形の魔物を狩るためだけに編み出された戦闘スタイルは、それこそまさに化け物。

弱きものは死に、尋常ならざるものだけが残る冒険者の道。


そんな冒険者の一人、ザック・レイ・クロスウォッチ。

首から下げるは、最低ランクを意味する「D」のプレート。

されど彼もまた尋常ならざるものなり。




「ひっ・・・や・・・・・・ごめん・・・なさい・・・」


血の海に座り込む少女の震える唇から零れ落ちるのはそんな途切れ途切れの命乞いだけだった。

もっとも、それが化け物相手になされているのだから、その命乞いは途切れ途切れであろうがなかろうが関係なく意味を持たない。


ゴブリンが醜悪な顔をさらに醜く歪め獣のような声で笑う。

くすんだ緑の肌は所々茶色く汚れ、動物の毛皮で作った腰みのは酷い悪臭を放っている。

鼻は高く、耳は尖り、背は小さい。

そんな小鬼の形をとった死が、少女のまわりを取り囲みじわじわとにじり寄ってくる。


挿絵(By みてみん)


少女は血の海に転がる三つ死体を見て確信した。

自分は犯され、嬲り殺されると。


カチカチと少女の歯が耳障りな音をたて、森の静寂にのまれて消える。

ダガーを持つ手は力なく垂れ下がり、その目に希望の光などありはしなかった。


そのとき背後から男の声が響く。


「ゴブリン、退け・・・さもなくば殺す」


ゴブリンたちはその男を見て数歩後ろに下がる。


「あ・・・あ・・・」


少女は振り向くことが出来なかった。

本能が、その人間を視界に入れることを許さなかった「後ろにいるのは人ではない、化け物だ」と。


ズサッ、ズサッ、ズサッ。


地面を踏みしめる音がゆっくりと近づいてくる。

濃すぎる殺意に少女の視界も歪む。


その人間が一歩近寄れば、ゴブリンたちは一歩下がる。


その場にいる誰もが感じた死神に抱擁されているような感覚。


「退けといったんだが?」


少女はわからなかった。

なぜ、この人はこのゴブリンの群れの中を何の恐れも見せず進めるのか。

なぜ、この人は魔物であるゴブリンに話しかけているのか。

なぜ・・・なぜ、なぜ、なぜ。

その謎の男への疑問は尽きなかった。


そして、少女の中に一つの衝動が生まれる。

見たい。

この人がどんな顔でそこにいるのか。

そもそもどんな人なのか。


しかし、見てしまえば自分も生きては帰れないような恐怖を感じ、どうしても振り返ることは出来ない。


「退かないんだな・・・?」


それは突如として視界に入ってきた。


黒い外套で全身を包んだ細身の青年。

一瞬でゴブリンとの距離を詰め、殴りでゴブリンの顔を粉砕する様はまさに黒い閃光。

殴られたゴブリンは後方へ吹っ飛び、木に叩きつけられ絶命する。


「ひっ・・・!」


短い悲鳴の後、少女は恐怖で粗相をする。


その戦いぶりはまさに鬼神の如く、一匹目のゴブリンを倒され怒り狂ったゴブリンたちが一斉に男に飛び掛ったが、男は外套だけをその場に残し消えた。

首を傾げるゴブリンのうちの一匹を襲ったのは頭上から降ってきた刃だった。

鉈を思わせるその無骨な剣はゴブリンの体を頭から真っ二つに引き裂く。


ゴブリンたちはその大きな目をさらに大きく見開き上を見上げる。

だが、そこにはもう男はいなかった。


次に3匹目のゴブリンを襲ったのは横からの斬撃。

首が胴体から切り離されその場に転がり、一泊置いて胴体が力なく倒れる。


姿の見えない死神に次々と殺されていく。

蝋燭の火を吹き消すようにいともたやすく命の灯火が消えていく。

ゴブリンは次は自分かも知れないという恐怖に駆り立てられ、ついにその場から逃げ出そうと走り出す。


後ろで仲間が倒れる音が聞こえる。

振り向いてはいけない。

振り向かずに逃げればあるいは・・・。


だが、もう遅かった。

最後にゴブリンの目に映ったのは、これから自分の頭を叩き斬るであろう血塗れの刃だった。


挿絵(By みてみん)


気付けばゴブリンたちは皆一様に地面に倒れ伏していた。

男は、二匹目のゴブリンに刺さった剣と外套を回収する。

二本の剣を鞘に収め外套を着て少女の前に来るころには、先ほどまでの男とは別人のようになっていた。


「大丈夫か?」


殺気など微塵も感じられない、優しい兄のような雰囲気。


「・・・あ、はい」


少女の止まっていた思考が動き出す。

色々と聞きたいことはあったが、声にならなかった。


「なら、よかった」


男はたった一言そう呟くと、クルリと踵を返して街の方向へと歩きだした。

少女は唖然とその姿を見つめるが、すぐに我に返る。


「・・・あ、あの!お、お名前は!」


少女に名前を聞かれた男は振り返らずステータスウィンドウをその場に表示した。

少女はそこに映し出された情報を見て驚愕に目を見開く。


名前:ザック・レイ・クロスウォッチ

職業:Dランク冒険者

レベル:999 HP:112580/112580 MP:111820/111820


ザックはスキルなどは公開しないように設定はしているが、それでも少女が驚くには十分であった。


「レベル・・・999」


人類が到達し得ない領域。

記録として残っている最高レベルは128。

それを遥かに超える値。

一体どんなことをすればその領域に達するのか・・・考えるだけで恐ろしかった。


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