選択
公園のベンチに座った私を木漏れ日が照らす。すぐ近くでは子供たちが鬼ごっこや野球で遊んでいて、楽しそうな声が聞こえてくる。その子らが流す汗は太陽の光を受けてキラキラと輝いている。それが私には今日という日に似つかわしく思えた。
風がふぅーっと吹く。その風は私の長い髪の毛や公園に植えられた木々を揺らす。緑色の葉は生命力を感じさせる。
今度は、ざーっ、という音が聴こえてくる。それは公園の真ん中にある噴水から出ているもので、聞いているだけで涼しげな気分になる。
穏やかな時間が流れていく。この場所でこんな時間をずっと過ごしていたい。そんな気持ちも出てくるほどに、この場所は私を癒してくれる。安心を与えてくれる。
だけど、この公園の外はどうなっているのかな。そんな好奇心もある。この公園が宇宙だと言われても信じられるほどには、この公園は広く思えるのだ。終わりは見えない。結局、好奇心に負け、私は公園の端を探して歩き始めた。
歩いていくと白の下地に金の装飾がほどこされた扉があった。その扉には様々な表情をした人物が描かれている。笑っている人や泣いている人、怒っている人といったように多様だ。ただ、辛そうな顔をしている人が多かった。
その扉を見ていると後ろからカタン。という音がした。音と同時に周囲は真っ暗になる。驚きながらも音のした方を見てみると、そこにもまた扉があった。その扉には公園らしきものが描かれていた。
状況が理解できない。
私はどうするか非常に悩んだ。
すると、声が聞こえてきた。
「どちらかの扉を選び入りなさい。刺激はないが穏やかで安心できる日々をとるか、刺激はあるが悲しみも多い世界か。ただし、選んだからには責任をもってやりとおしなさい。」
優しく包み込むようで、かつ厳しさも兼ね備えた声だった。
真っ暗な空間はいつの間にか上からランプの淡いオレンジ色の光で照らされていた。扉を選ぶには十分な光だ。
私は……。
公園が描かれている扉を開けた。
◇
病院のとある一室。
一人の女性がベットに横になっている。周りにはもう、日が沈んでいるにも関わらず多くの人がいた。誰もが涙を流している。その女性は長く黒い髪を持ち、北欧の人のような鼻をもち、綺麗な瞳をもっている。一言で表すなら美しい。これに限る。
いや、その女性というのには語弊があるかもしれない。
それはもう死んでいるのだから。
周りにいる人の内、一人が口を開く。
「なんで……相談してくれなかった。そんなに俺は頼りなかったのか。」
涙ながらの男の言葉は周囲の涙腺をさらに緩ませる。
なんで相談してくれなかったのか。その言葉から、それの死因が他殺ではないのでは?と予想できる。
実際、それは自殺によって死んだ。
◇謎の声
「ああ。結局そっちの扉を選んだのか。記憶を消したのだがあまり意味を成さなかったようだ。本人は穏やかで安心の生活ができるが、周りは深い悲しみに沈んでしまう。
人は変わりやすい生き物だが、変わるのを恐れる。それが悪いとは言わないが、良いとは決して言えないな。成長は変化のなかにあるのだから。」
◇公園
とても退屈だ。時間はどれ程たったのかな。いや時間が経っても経たなくても、私にそれは無意味なのだから。
私が扉を開け、公園に戻ってくると子供たちを含め、誰一人いなかった。話相手もいない。自分が何者なのかもわからない。お腹がすかない。トイレに行きたいとも思わない。それらがとても辛い。
こんな刺激の無い世界で一人。
私は生き続けなければならない。
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