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第四章 キャンス王国と邪龍棲まう祠 6話

「いやぁ、便利な道具だ。確かにこれなら一度起動するだけで高温の熱を発せられるのか。はぁ、これを作り上げるとはお見事!」

「ありがとうございます! おじさんの加工したこの鎧も非常に完成度が高くて、あぁー! すごい!」

 二人が戻っても気づかずに話しているアステリオスと店主に、思わず口角がひくついてしまう。

「あっ、二人とも戻ってきていたの」

「どうだったんだい? 王様との謁見は? 驚いただろう」

 店主がコブラとキヨを見てカッハッハと笑う。彼が言っているのは、クラブ王の身長についてだろう。

「あぁ、まさか俺よりもチビのおっさんがいるとは思わなかったぜ」

「ちょっとコブラ失礼よ」

 キヨが咳払いをするが、その光景を見て店主はさらに笑う。

「けど、あの人はやり手なんだぞ? この国の金銭問題を一気に解決しちまった」

「昔はここまで発展してなかったのですか?」

「あぁ、職人と資源があっても需要がなけりゃ意味がないからな」

「そこに需要を生んだのが、あの国王様だってのかい?」

「あぁ。彼が祠のある洞窟でドラゴンに襲われたんだ。先祖代々の洗礼のために向かった地でね。彼はドラゴンが邪龍へと堕ちている。と国民に発表した。さらに、一つの男が興味本位でドラゴンのいる洞窟へ入ったんだ。そこで見たそうだ」

「大量の財宝……か」

「あぁ。もちろんその男も怪我をしたよ。国王が言ったドラゴンの存在。そしてその祠の奥の財宝。楽しみの少なかったキャンス王国の若者にとっては飛びつきたくなる話だ。鉱物を採りに外へ出る我々としても邪龍はいなくなってほしい。若者は財宝で一攫千金を狙いたい。そのために強い装備が必要だ。そして我々職人は鉱物で鎧や剣を作る。それが売れる。

「けれど、危険なんじゃないの? その、や、やっぱりドラゴンなんだし」

「そうだよ。まだ実物を見ていないけれど、ドラゴンならば人なんか簡単に殺すことが出来るはずだ」

「あぁ、それこそヘラクロスレベルの超人じゃあなければな」

 三人は当然の疑問を店主に投げかけた。

 実際にドラゴンが生きているのなら、人間たちやこの国はすぐに滅んでもおかしくないのだ。死者が出れば皆が怯えてしまうものであろう。しかし、この国の住人は怯えている素振りはない。皆が国としての営みを続けている。

「ドラゴンに備えた設備も職人たちが用意しているが……それよりも、あんたたちが気になっている方を答えた方がいいな。不思議なもんでな。この邪龍は人を殺さないんだよ」

「人を……殺さない?」

「あぁ、ここからは俺の勘だが、邪龍と呼ばれるドラゴンはただその洞窟でじっと過ごしていたいんだろう。だからその場を脅かす人間は追い出せればそれでいいんだろう。だが、その祠は国の大事な祠のある洞窟だ。国としても放っておくわけにもいかない。さらに仮に今はおとなしいドラゴンでも、邪龍として暴走してもおかしくねえ。それこそヘラクロスが倒した龍のように」

「そのためなら祠に収められている財宝を赤の他人に渡っても良いと?」

 キヨは真剣な表情で店主を睨みつける。元王族として気になる部分なのだろう。コブラやアステリオスも言葉を続けず、キヨの顔を見ながら店主の言葉を待つ。

「俺は王じゃないからわからない。けどまぁ、過去の遺産よりも今の安全。そのために闘ってくれる者たちを優先したんだろう。我が王は。そこがこの国が潤っている理由かもしれねえ。その恩恵を受けている俺は、クラブ様を悪くいえねぇよ」

 店主もキヨの想いに答えようと真剣に彼女を見つめ返す。

「……そうですか。ありがとうございます。色々教えて頂いて」

「あぁ、良いってことよ。それで? お三方はこれからどうするんだい?」

「俺たちもどうやら王の命でその邪龍とやらに会いにいかないといけないみたいなんでな。とりあえずその祠に向かおうと思う」

「じゃあドラゴンに会うのかい!?」

 アステリオスが興奮した様子でコブラの方を掴んだ。

「あぁ。やっぱりお前も気になるか?」

「そりゃあもう! ドラゴンは男のロマンだよ!」

「だよなぁー!」

「……私にはわからない」

 はしゃぐコブラとアステリオスを前にキヨはただただドラゴンへの恐怖で冷や汗をかいていた。

「防具とかはいるかい? 安くしとくよ?」

 ニヤリと笑みを浮かべながら店主がコブラたちに語りかける。コブラも、同じようにしたり笑いをして返す。

「今日は視察だけだ。存在を確認したらすぐ逃げるからむしろ軽装の方がいい。また頼むわ」

「あぁ! その時はご贔屓に」

 店主は快活とした声を聞きながら、コブラたち三人はドラゴンのいると言う洞窟へと向かった――――。


 三人はすぐに祠のある洞窟へと向かった。その入り口で三人は呆然と立ち尽くしていた。

「た、助けてくれー!」

 洞窟から響く叫び声。何かが雄叫びをあげたような轟音。そして洞窟から吹く突風。

 その全てが三人に「ドラゴンはいる」と言う現実を突きつけていた。

「歩けるか!」

 洞窟から声がして、人影が見える。男が三人ほど、疲れ切った様子で出てきた。

「おい、女、子どもがこんなところに来るべきじゃないぞ」

「息切れしている兄さんに言われても説得力ねぇなぁ」

 洞窟から出た若い男たちの言葉にコブラは皮肉で返した。男は思わず失笑する。

「それもそうか。なんだい? 冒険ごっこかい?」

「いや、国王からの直々の試練としてドラゴン対峙を命じられている者だ」

「王自らが?」

 驚いている若い男にキヨはコブラの前に乗り出す。

「えぇ、我々は国王に直々にドラゴンの棲む洞窟の祠から宝石を取るように言われた者です」

「そうか。先ほどの無礼を許してくれ。君たちはきっと名うての猛者なのだろう」

「そりゃあもう。こちとら名うての盗賊さ」

 コブラはケラケラと笑いながら答える。

「なるほど。ドラゴンに勝てないなら祠の宝石だけでも回収しようっていう作戦か」

「えぇ、私たちはそのように王に仰せつかっております」

 アステリオスは疲れはてている男を心配そうに見つめながら、彼らに自らの事情を話す。

「それも作戦としては良いかもしれないけれど、恐らく難しいと思うよ」

「あぁ、あの邪龍は、なぜか祠の宝石を一生懸命守る。まぁ、是非見てくるといい」

「俺たちはまだ身体と装備を整えて挑戦するとするさ」

 若い男三人はコブラたちにそう伝えると、フラフラとキャンス王国の方へと帰っていった。

「ドラゴンが宝石を守る……ねぇ」

「とりあえず、まずは実際に見てみないと」

 アステリオスが冷静に答える横でキヨは少し震えていた。

「ねぇ、本当に行くの?」

「行かなきゃ意味ねぇだろう?」

「だってぇー」

「ほら、つべこべ言わずに行くよ?」

 アステリオスは洞窟に興味津々なのかいまだに駄々をこねるキヨを急かす。コブラもキヨの背中を優しく叩きながら彼女を諭す。

「まぁ、そうなんだけど」

 まだ納得していない様子でキヨもとぼとぼと歩き始めた。

「ねぇ、やっぱりやめない?」

「やめろ。キヨ。これ以上は俺も心が折れそうだ」

「早く! 二人とも! 洞窟でも鉱物はいっぱいなんだろうなぁ」

 少し腰が引けているコブラとキヨと違い、アステリオスはぐんぐんと前に進む。

 洞窟が進むに連れ、暗くなってゆく。アステリオスは嬉々として松明に灯りをつける。

「流石、準備がいいな」

「キャンス王国ほどじゃあないけど、タウラス周辺にも洞窟はあったからね。よく鉱物を採りに行っていたよ。だから新しい山はちょっとワクワクする」

「そういうもんかねぇ」

「ねぇ、ドラゴンっていつ来るの?」

 キヨがコブラの袖を弱弱しくつまみ、怯えている。

「やめろ。怯えが移るだろ」

 そういうコブラもいつドラゴンが現れるか気が気でなく表情が硬い。

 この三人の中で、恐怖心なく洞窟を進むのはアステリオスのみである。彼ははしゃぎながら、前に進みつつ、途中目に入った鉱物を削ってから行くので、コブラとキヨは生殺し状態でドラゴンに怯えるしかない。

「なぁ、早く行こうぜアステリオス」

「待って、普段取れない鉱物だから集めて後で色々試さないと」

「もう! 会うなら早く会おうよドラゴンにー!」

 かといって、アステリオスから松明を奪って彼よりも先にドラゴンの元へ行く度胸は二人にはなかった。

 歩いていくにつれて風の勢いが強くなってゆく。

「もうすぐだろうね」

 アステリオスは楽しみなのか声が上ずっている。コブラとキヨは覚悟を決めるように表情が硬くなる。

 前方が明るくなっていく。外の光が漏れてきている広い場所があることを示している。

 アステリオスが我慢できず走る。松明を持っているので、コブラとキヨは慌てて彼を追いかけるように走る。

 一気に明るくなり、コブラ、キヨ、アステリオスの三人は眩しくて目を腕で覆う。

 全員早く状況把握をするために目を光に慣れさせる。

 生き物が放っている生暖かい風が身体を覆う。

 三人の目の前には巨大な何かがこちらを見て警戒したように息を荒くしていた。

 三人はすぐにあれがドラゴンだと理解した。

 トカゲを巨大にしたような皮膚。しかし見たことのない形状。ヘラクロスの冒険に出てきた特徴と一致する。それに、数々の者たちが必死に倒そうとした痕跡が目の前の生き物の皮膚に傷として残っている。

 キヨは怯えてしまっていた。

 アステリオスは呆然と見ていた。

 コブラはすぐさまアステリオスから松明を奪ってドラゴンへ投げつけた。

「キヨ! 腰だけは抜かすなよ!」

「っ!? ご、ごめん!」

 ドラゴンはコブラが投げた松明をすぐに払った。

 強く腕を振るうので物凄い突風がコブラたち三人を襲う。

 ドラゴンはこちらを威嚇するようにその獰猛な口を大きく開けて吼える。キヨもコブラもその咆哮に怯えるが、すぐに気持ちを持ち直す。

「いいかキヨ! アステリオス! ひとまずは交戦せずに、祠の存在を確認するんだ!」

 コブラだけはドラゴンを翻弄するために移動をする。ドラゴンはコブラを目で追いかける。ドラゴンの巨大な腕がコブラに向かって襲いかかる。コブラの近くでその腕が地面を思いっきり叩き、岩の破片がコブラを襲う。

 コブラはそれを必死に躱しながらドラゴンがいる先を目指す。きっとこの先である。

 コブラは左方向から、キヨは右方向からドラゴンの目線を奪って走り抜けようと企てる。

 ドラゴンは自分は当たりの地面から石などを払ってコブラやキヨに襲う。ドラゴンのパワーで飛ばされた石をぶつけられたキヨの腿に当たる。

「っ!?」

「キヨ!」

 コブラは心配そうにキヨを睨む。

「行って!」

 コブラはせめて祠の存在を確認しないといけないとキヨに発破をかけられて進む。

 ドラゴンはコブラの方に目線を映す。キヨは腰に携えていた弓を構えてドラゴンの頬にめがけて放った。刺さらない。皮膚が硬すぎる。

 しかし、頬を射られて腹が立ったのか、ドラゴンはもう一度大きく咆哮した。キヨは痛む腿を気遣いながら、コブラに意識が向いているドラゴンの気をそらしつつ、こちらからも祠へ向かっているぞ。とアピールしてゆく。

 ドラゴンが祠を守っているのは明白だった。

 より祠に近づきそうなコブラをより警戒している。

 コブラに向かって尻尾を振るい、土埃がコブラを襲う。飛んでくる石の中から小さいものは多少の痛みとして無視して進んだ。当たれば致命傷になるかもしれないものは十手を使って砕く。

 キヨはドラゴンがコブラに攻撃している間に歩みを進め、コブラの危険を察知しては弓矢でドラゴンの意識を反らす。

 二人はようやくドラゴンの背を見ることが出来た。

「コブラ! あれ!」

 ドラゴンの背を確認した二人、最初の場所からぐるっとドラゴンの周りをまわりこめたのだ。

 最初からドラゴンを倒すつもりはなく、祠を見に行くだけ。というスタンスが上手くいった秘訣なのかもしれない。

 コブラとキヨは目の当たりにした。

 キャンス王国の代々伝わる祠。その祠の存在を確認した。厳かな祠自体は煌びやかのカケラもないが、コブラはすぐに把握した。

 盗人の勘である。ここには大量に宝が収められている。これは宝物庫だ。どっさりと入っている。

 匂いがするのだ。宝の匂い。金属の匂い。

 コブラは思わず舌なめずりをする。

「コブラ!」

 キヨが叫ぶ。コブラは祠をじっくり観察することに気を取られて背後のドラゴンに気づかなかった。ドラゴンは思いっきりその腕をコブラに放った。

 キヨは弓を構えても放つまでに時間がある。

「コブラ! キヨ! すぐに退避して!」

 その瞬間叫んだのはアステリオスだった。

 アステリオスは巨大な筒を構えていた。叫んだとともにその筒から爆発音が聞こえる。

 ドラゴンは突然の巨大な音に鼓膜を刺激され、苦痛そうに首を何度も振るう。

 一瞬出来た隙をコブラは見逃さない。すぐにドラゴンの方からキヨに向かって走る。

 キヨがコブラを抱えて走る。

 アステリオスは第二波を放つ。

 放つと言っても、アステリオスのこの大砲は物を飛ばす機能は持ち合わせていない。火薬を詰めて巨大な音を鳴らす巨大音爆弾でしかない。

 しかし、この密閉空間にしては音の攻撃が一番効果的である。相手がドラゴンでも、苛立っているのがわかるくらい目を歪ませている。

 コブラはキヨを抱えてすぐにアステリオスの方へと走ってくる。

「でかしたアステリオス!」

 コブラに抱えられたキヨはドラゴンを凝視している。まるでこれから狩る獲物を見つめる獣のような鋭い瞳で。

 アステリオスは大砲を放り出し、コブラたちと共にドラゴンから逃げる。振り返ってドラゴンを見つめる。ドラゴンに目を奪われる。

 アステリオスは自分で戸惑った。

 逃げながらも足を止めたいと思った。あの圧倒的力の象徴のようなドラゴンを目の当たりにして、アステリオスは見惚れたのだ。

「きれいだな」

 洞窟を走って逃げるコブラたちをドラゴンはおとなしく見つめた。その洞窟にアステリオスが呟いた言葉が小さく響いた――。




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