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第四章 キャンス王国と邪龍棲まう祠 4話

 アステリオスとロロンが出会った翌日、三人は頑丈な石作りの壁に覆われたキャンス王国に辿りついた。今までの国と違い、入り口にはしっかりと門があり、そこには門番が駐在し、厳粛な態度で立っていた。

「懐かしいなぁ。オフィックスの門みたいだ。いけすかねぇ」

 入り口を遠くから見ていたコブラが憎らしそうに笑みを浮かべる。

「ならば、この国は僕のタウラス民国と違って文化が発展してそうだね」

 アステリオスはそういいながら門番へと近づいてゆく。

「貴方の国は国民みんな門番みたいなもんじゃない」

 キヨも飽きれるように溜息を吐きながらアステリオスについてゆく。コブラもそれに倣う。

「ん? 貴方たちは?」

 アステリオスはカバンから星巡りのための入国書を門番に見せる。

「僕たちは星巡りという儀式のために入国したいのですが、お許しいただけますか?」

「星巡り……はて、存じ上げないですが、旅の者ですか?」

「はい」

「でしたら要件はなんであれ、歓迎いたします。どうぞ、ようこそ

キャンス王国へ」

 門番がすんなり通してくれたので、コブラとキヨは戸惑った。過去全ての国で、彼らは入国の際にトラブルに見舞われることが多かったからである。

「なんか、怖いね」

「あぁ、順調だと気味悪い」

「ほらー、二人とも入るよー!」

 ヤマトの代わりを努めようとアステリオスは張り切っている。どこか背伸びをしているようにも見えて、コブラとキヨは思わず微笑んでしまい、適当な返事をしてアステリオスについてゆく。

 コブラとキヨが門を潜った直後、アステリオスの高揚した叫び声が響く。

「す、すごいよ! コブラ! キヨ! 見てみて」

 二人は周りを見渡すとアステリオスが興奮している理由がすぐに理解できた。

 そこらじゅうに武器屋が並んでいるのだ。鎧や剣を並べた店が軒を連ねる。そしてそこを歩く男たちもまた丈夫そうな鎧を身に纏い、重厚な剣を腰に下げている。

「すげえな。ここにいるの全員騎士様だってのかい?」

「いいえ、騎士団だったら国から支給されるのだから、こうして商売として成り立たないでしょう?」

 コブラは目の前の景色に戸惑った。オフィックスは表向きは争いもない国である。故に闘うための武器や、身を守るための鎧などは、誰も欲しがらない。孤児として生き抜かねばないといけなかったコブラでさえ、奪った果実などを切るための小刀があれば十分であった。

 コブラとキヨはこの国の特異性に戸惑っていたが、アステリオス一人が目を輝かせていた。

「すごい加工技術だ! それに、ここまで鎧や剣が流通しているってことは、近くに鉱山でもあるのかな? 鉄とかが豊富じゃないとここまで発展しないよ! いいなぁー」

 アステリオスは近くの店に駆け寄って店主に話しかけていた。

「すごい鎧ですね!」

「おぉ、君小さいのにこの鎧の良さがわかるのかい? おじさんの自信作さ」

「鉱物などは自身で確保しているんですか?」

「自分で確保することもあるが……俺は足をやっちまっているからな。代理の奴から安く仕入れている」

「じゃあ、やっぱりここの近くに鉱山があるんですね」

「あぁ、いくつかな。君は外から来たのかい?」

「はい。タウラス民国から」

「そうかい。ならば見たんじゃないのかい? この周辺には山も多いし、洞窟もある。俺も若い頃はよく鉱物を求めたものさ」

「あぁー羨ましい限りです!」

 アステリオスと、彼に嬉々として話しかけられて上機嫌に話す店主をコブラとキヨは呆然としてみた。

「おや?」

 店主がキヨの方をじっと見つめる。キヨは首を傾げた。店主の目線を追うと、見ていたのはキヨの腕輪であることがわかる。

 この腕輪は、ジェミ共和国にてキヨ=ジェミニクスから受け取ったティアラを加工して作ったものだった。

「お嬢ちゃんのつけているその腕輪。元々は王冠かなんかだろ? 別のものを加工したものだ」

「よくわかりましたね。僕が加工しました」

「君が?」

 店主が目を丸くしてアステリオスを見た。

「良い加工だ。旅をしながらこれを?」

 店主はさらにアステリオスが背負っている大きな荷物に目線がいく。

 アステリオスは少し緊張しながら頷く。

「もし、よろしければ……なんだけれど、その鞄の中見せてもらっていいかい? 君がこの旅の中でどうやってこの加工をしたのか、是非聞きたい。それと……」

 店主は少し興奮しながら今度はコブラの方を見た。コブラはすぐに店主が自分の腰を見ているのがわかった。

「君のその腰に携えている武器、不思議な形だ。よく見せてもらえないか?」

 コブラは意地悪く笑う。

「悪いねおっさん。これは特注品だ。アステリオスが作ったものじゃねぇよ」

「あぁー、それは残念だ。しかし、どうだよ。アステリオスくん。君のその鞄の中身や加工の経緯を聞かせてもらえないか? 君の歳でここまで美しい腕輪を、しかも王冠から加工するなんて器用なことをする。か、代わりに僕の店の防具などを安くするよ。見たところ君たちは防具も武器も足りていないように見えるし」

「そもそも、なんでここの連中こんなにガチャガチャ鎧だかなんだか身に纏ってんだよ? 騎士には見えねぇが」

 コブラが抱いた疑問を直球で店主に聞いた。店主がきょとんと首を傾げた。彼にとってはこの町に来る外からの者はみな、それが目的だと思いこんでいたのである。

 鎧と武器を求めてくる者がこの国には多い。そしてその理由もまた一つであった。

「それはもちろん――。生ける伝説である『ドラゴン』の討伐のためだよ」

 コブラたち三人はあまりの驚きに固まってしまった。

 ドラゴン――。彼らにとってそれは『ヘラクロスの冒険』に出てくる邪龍のことであり、空想上の存在と言う認識であったからだった。



 アステリオスが店主と話が盛り上がってしまい、コブラとキヨは困惑していたので、アステリオスから許可証と、今まで手に入れた三枚の星巡りの札を受け取り、別行動を取ることにした。二人はとりあえず王のところへ向かおうと、国の中心部にある王国まで歩くことにする。

「随分と景気のいい町みたいだな」

「えぇ、オフィックスよりも発展しているかも」

「そうか? 確かに町自体は似たようなもんだが、歩いているのがなぁ」

 コブラは溜息を吐きながら辺りを見渡す。歩いている者は外からやってきた『邪龍』を滅ぼしにきた物騒な恰好をした男たちが闊歩していた。粗暴な連中は酒を片手に下品な笑いを浮かべている。コブラは虫唾が走った。

 町の発展が出来ていても、オフィックスはのどかだった。子どもが元気に走りまわり、女性たちは穏やかに会話を弾ませ、男たちは爽やかに仕事に従事していた。

 そんなきれいすぎる世界に嫌気がさしていたコブラでさえ、この国に漂う淀んだ空気を感じ、オフィックスの方がマシだと感じざるを得なかった。

「ねぇ、コブラ」

「なんだよ」

 キヨは耳打ちをする。

「本当なのかな? ドラゴンがいるって」

「本当なんだろ? 法螺話だったらこんなにそれ目当てのゴロツキが集まらないだろ」

「そうなんだけど……本物かな?」

「さぁな。幻術使いが見せている幻だったりな?」

「そうだといいけれど……」

 キヨは少し不安そうに俯いた。

「あぁ、お前さては四章の邪龍のシーンでチビった口だな?」

「う、うるさいわね! だって怖いじゃない! こーんなでっかくて、火とか吐くのよ!?」

 慌てるキヨにコブラはケラケラと笑った。その顏を見てキヨはしかめっ面になってコブラの背中を思いっきり叩く。

「いって! 悪かったって。確かにあのドラゴンは怖かったよなぁ。だからこそ、それをブッ倒したヘラクロスはカッコイイよなぁ!」

「うん。カッコイイ」

 キヨとコブラは二人でうんうんと唸りながら、幼い頃に読んだ思い出を噛みしめて王国へと歩いてゆく。

「この国の星巡りの儀式ってなんだろうね」

「案外邪龍を滅ぼせー、とかだったりして」

「えっ? そんなの不可能でしょう。私たちはヘラクロスじゃない」

「いやでもなぁ。タウラス民国みたいに国の風習がそのまま星巡りが起源だった話もあるから大いにあり得る」

「どうしよう……本当にドラゴンだったら」

「まぁ、やるしかないだろ? コルキスの婆さん曰く達成せずに物だけもらっても意味がないみたいだしな」

「うぅ……ちょっと不安でお腹痛くなってきた」

「そういっても、いざってなったらやってくれるんだろ? 大丈夫だってドラゴンも猪もそんな変わらねぇ」

「ドラゴン絶対矢刺さらないよ」

「刺さる刺さる。むしろお前本来ならドラゴン描けるー!って興奮すると思ってたんだけど」

「あぁー、それもいいなぁー。書きたいなぁー絵ぇー」

 脱力した感じで話すキヨから普段の彼女との差でコブラはさらに笑ってしまう。それほどまでに彼女にとってドラゴンは絶対に勝てないと感じる存在なのであろう。

 それはコブラも同じだ。ヘラクロスの冒険曰く、邪龍に勝てたのは、ヘラクロスが神に選ばれた英雄であり、カガクの妖術とキュールの軍配。その全てを持ってようやく倒すことが出来た。という話である。つまり、自分がヘラクロスでない限り勝てると考えるほうがバカなのである。

 だからこそコブラは、この町で鎧や武器を調達し、ドラゴンに挑む男たちに辟易としている。お前たちはヘラクロスなのか? と、お前たちの横にいる者はカガクとキュールなのか? と。

 物語の中に出てくる怪物。それに勝つという想像は何人にも難しいことであろう。

「コブラ、あれじゃない?」

 キヨが遥か先を指さす。指の先には大きな城が立っていた。

 オフィックス王国の城も大層なものであったが、キャンス王国の城も負けじと劣らぬ豪勢な城となっている。

「なんか、侵入しやすそうだな」

 コブラは城の外観を見て一言目に出た言葉がそれだった。

「あんたもうちょっと風情っていうものはないの? いいじゃない。豪勢で」

 キヨはそんなコブラに呆れるように溜息を吐いた。

 コブラはさらに城を凝視する。いかにも金が集まったから装飾を派手にしました。と言う王の意志が見える。この国は金で溢れていると、そう誇示したいがための建築。故に防壁も最低限、見栄えばかりに意識が向いている城である。

 それほどまでにこの国では争うがなかったということの証明しているともいえる、。

「もう何をじっと見ているの? もうつくよ」

 キヨに声をかけられて、自分が呆然と歩いていることに気づく。

 もう既に城の入り口前に着いていた。キヨは門番に話しかけている。

「ほら、コブラ。早くオフィックスの証明書を渡して!」

 キヨが痺れを切らしてコブラに叫ぶ。仕方なくコブラがキヨたちの方へ行き、監視に証明書を見せた。

「なるほど。オフィックスから使者が来るとは珍しい。どうぞ。王の元へ案内いたします」

 騎士の一人が証明書を確認するとそのままキヨとコブラを王室まで案内した。

「なぁ、王国騎士さんよー」

「ちょっとコブラ、もうちょっと礼節を」

「悪い悪い。それで王国騎士様、質問があるのですが」

 最初の態度にしかめっ面をした騎士の男だったが、軽く咳込み、穏やかな表情で対応する。

「なんでしょうか?」

「町の連中があんなに鎧や剣を買っているけれど、その理由がドラゴン。って本当なのか?」

「えぇ、私も昔ドラゴンに挑んで痛い目を見たひとりでね」

 騎士の乾いた笑いを聞き、コブラとキヨは目を丸くした。

「えっ、じゃあ本当にいるっていうの? ドラゴンが?」

 先ほどまで礼節がどうこう言っていたキヨも戸惑いでぐいっと身体を前に出してコブラと騎士の間に割って入って問い詰める。

「えぇ。遥か昔からこの国の近くにある祠に龍が棲んでおりますよ。何やらその祠の奥には一生遊んで暮らせるほどの財宝があるとか。その財宝を求め、国の若い衆はもちろん、国外からも一攫千金を狙ってやってくるのですよ」

「それで、そういった奴らに武器を売りつけて国の金を稼いでいると」

「ちょっと、言い方が悪いわよ」

 コブラの嫌味に叱責するキヨ。騎士は慣れた様子で失笑する。

「いや、その少年の言う通りだよ。キャンス王国は鉱山の国だ。職人たちが作り上げた鎧のおかげで国自体が潤っている。皮肉なものだが、私たちは邪龍によって支えられている。そのことは否定しないよ。さて、ついたよ」

 途中で騎士が足を止める。コブラとキヨも騎士に習って足を止め、騎士が手を向ける方を見ると、大きな扉がある。

「では、こちらに王が追わします。どうぞ」


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