第四章 キャンス王国と邪龍棲まう祠 16話<完>
この四章16話で、一度こちらのコブラを終幕とさせていただきます。
決して物語を終わらせるわけではなく。章ごとに分けたいと考えたからです。
ですので、このあと、一章から三章を削除します。
一章から三章も誤字脱字などのリテイクを行いつつ四章同様話数わけして再投稿致しますので
ご了承ください。
それでは第四章の最終話となる第16話。お楽しみくださいm(__)m
キャンス王国の王室でクラブは冷や汗をかいていた。
理由は一つ。町で騒ぎ立てられているドラゴンが倒される可能性がある。だからこそと戦士たちがこぞって国から洞窟へと向かってゆくのだ。
それは都合が悪かった。
「あのドラゴンが負けることはないだろうが、もし噂通り、負けることになってしまっては――」
負けてしまえばこの国にもう他国から人が来るような理由はなくなってしまう。他国から金を使ってくれる者たちがいなくなる。
それどころか、代々守られている宝をみすみす奪われてしまう。それでは一気に金銭的損失が起こる。
「それだけは避けねば……」
戸惑っているも、どのようにすれば良いかわからぬクラブ王はそわそわと辺りを見渡す。
その様子をコブラはしっかりと観察していた。
「あの邪龍にはもっと戦士たちを倒してもらわないと困る!」
物陰から隠れて聞いていたコブラは思わず眉を細めて苛立ちを覚えたので、小さく扉を開けて、小さな小石を相手に気づかれるように放る。
クラブはそれに気づいて拾おうと屈んだ瞬間に部屋に忍び込み、クラブの身体に飛び乗り、十手で首を押さえて体重をかける。
「な、なんだ君は!?」
「なんちゃって正義の味方さ」
床に叩きつけられたクラブと彼の首にかけた十手が突き刺さり、首を中心にクラブ王を抑えつける。
「って、その声。君コブラくんではないか」
「あぁ、王様。数日ぶり」
「な、なぜこのようなことを!」
「気分だ。お前のせいでドラゴンが可哀想なんでな」
「なっ、ドラゴンに可哀想も何もないだろう」
クラブ王は慌てふためいていた。コブラ自身もこの行動に対して大きな意味はない。ただ、仲間が好きになった女を苦しめている奴がいる。となれば拳の一つでも振るいたくなってしまうのが教養のないコブラの性格であった。
「うるせえ! 自分の利益のためにこの国を守ってくれているドラゴンを利用して、蔑み、集まった金に価値はねぇだろうが!」
コブラは叫ぶ、クラブ王はいまだに何を言われているのかわからないと言った様子で戸惑っていた。
「わ、我が国にあるものを使って我が国を潤わせているのだ。な、何も間違っては――」
「それで泣く奴がいたら意味ねぇだろうが!」
コブラは腹が立ち、彼の頭をさらに抑える。
その時だった。町から悲鳴が鳴り響く。
そして城の中からも兵士がこの部屋に駆けてゆくのが見える。
コブラはマズイと感じてすぐに窓に向かって逃げた。
「おいおい、アステリオス。お前何やってんだよ――」
コブラは窓から逃げた時に上空に見えるものに思わず呆然と笑ってしまう。
「国王! 大変です! 国の上空に! じゃ、邪龍が!」
キャンス王国の上空に、巨大な咆哮と共に邪龍が君臨していた――。
数分前、洞窟前には多くの戦士が集まっていた。
しかし、戦士たちは戸惑っていた。これだけの数をそろえても洞窟の前で少女は退いてくれなかったのだ。
「なぁ、嬢ちゃん。独り占めはナシだぜ」
キヨは弓を構えたまま戦士たちに威嚇を続ける。
戦士たちも決して外道ではない。故に洞窟前で一人の少女が近づけば攻撃すると威嚇する相手に対して横暴に攻撃はでいない。
「もう気にしねぇ! 俺もキャンス王国の宝を頂くぜぇ!」
柄の悪い男が一人戸惑う戦士たちの群れをかき分けてキヨに向けて突進した。突進してしまえば牽制している。キヨが逃げると考えたのだ。
キヨは彼が死なないように彼の腹部に矢が掠るように放つ。
突進した男の腹に弓が掠り、彼の腹部を傷つけ、そのまま飛んでいった矢を群衆の中の戦士が盾で防ぐ。
「あの嬢ちゃん。本気で俺たちを入れたくないみたいだな」
「なぁ、嬢ちゃん。相手は邪龍だ。あんたの友だちが一人で勝てる保証はない。俺達も手を貸せば――」
「その必要はない!」
キヨは腰から二つの短刀を取り出して構える。
「それにそれ以上は近づかない方が良いわ。罠、仕掛けているから」
キヨは威嚇した後、足で仕掛けていた仕掛けを起動させる。すると、キヨと男たちの間の地面に数本の矢が突き刺さる。
男たちは生唾を飲む。
「お願い。私の仲間が諦めたら全員で突撃してもいいから。今はこのまま――」
その時だった。激しい咆哮が洞窟内から聞こえる。それには思わずキヨも振り返り、男たちも肌を震わせた。
「おい、なんか、咆哮が近づいていないか?」
一人の男が怯えて呟いた。その言葉に全員が理解した。洞窟から、咆哮がこちらに近づいている。何人かの男はこれから起こることに理解を示し、悲鳴を上げる。
「キヨ!」
洞窟の中からアステリオスの声が響いてキヨは戸惑う。
洞窟の中からドラゴンが現れる。狭い出口を砕いて巨大な咆哮を放つ。
戦士たちは怯えながらも、矢構えてドラゴンに放つ。ドラゴンは炎が人に当たらぬように矢だけを燃やした。
「キヨ! 捕まって!」
ドラゴンの背中に乗っているアステリオスの手を掴んでキヨもドラゴンの背中に乗ってそのまま上空へと逃げてゆく。
「アステリオスくん。キヨさん。私、背中がくすぐったいのであまり動かないでくださいね」
「わっ! このドラゴン喋った!」
「動かないでください!」
驚いたキヨが背中を踏みつけたことにより、ロロンは弱弱しい悲鳴を上げる。
「ということだからキヨちゃん。じっとしてて」
「ちょっと待って! じっとはしといてあげるからこの事情を説明して」
「わかった! 今からド派手なことしてそのままこのロロンさんと一緒にこの国を出るよ!」
空飛ぶドラゴンの上でアステリオスは全ての経緯をキヨに説明する。
そうこうしているうちにドラゴンはキャンス王国に辿りつく。話には聞いていたけれど、実際に見るドラゴンの姿にキャンス王国の住民たちは慌てふためいている。
ドラゴンとアステリオスはそのまま城に向かう。
「えっ!? 何するつもりなの!?」
「キヨさん。アステリオスくん! しっかりと捕まってください!」
ロロンは今まで溜まっていた鬱憤を思い出す。今まで見ていた。自分の傷を以って築かれた栄華の城。それに今から行うことに思わず笑みがこぼれる。本当にこんなことをしていいのか。
「ロロンさん! かましてやりましょう!」
背中からアステリオスの叫びが聞こえる。
不思議とその言葉で躊躇いも恐れも消えた。
にっかりと笑いながら、ロロンは城に向かって思いっきり前足を叩きつけた。
今まで人を傷つけないように耐え続けた800年。そして自分を傷つけ続けた800年。
「かぁー! 気持ちいいー!」
ロロンは自身が今ドラゴンであることも忘れて叫んでしまった。
城の中に人はいなかった。皆が避難をした後であった。城の上にいたコブラ以外は――
「アステリオス! お前危ないじゃねぇか!」
「うわっ! コブラなんで城にいるの!?」
アステリオスとコブラの会話を聞いて、ロロンはすぐに彼に近づき、キヨとアステリオスが手を伸ばしてコブラをドラゴンの背中に乗せる。
「あ、あのですから! 背中で乱暴に動かないでください」
ロロンは弱弱しい声を出す。
「アステリオス。どうやら上手くいったみたいだな」
コブラはアステリオスに対して親指をぐっと建てた。アステリオスも無言でそれに答える。
「何? 男だけで」
キヨが目を細めてねたんでいる。
そうこうしているうちに城内の庭で壊れた城を見て呆然としているクラブ王と、ロロンは目が合う。
ロロンはクラブ王に対して咆哮をする。
クラブ王は怯えて尻もちをつく。
ロロンはそんなクラブ王の前に大きな塊をゆっくりと置いた。
その塊は、洞窟の中にあった祠を地面事くりぬいて持ってきたものだった。
ロロンの上から飛び降りたコブラがクラブ王の前まで近づく。
「なんか、よくわかんねぇけど。無事、祠の宝を取ってきたぜ!」
「あんたの手柄じゃないでしょ」
ドラゴンの上からコブラを覗き込んでいたキヨが突っ込む。
「さぁ、クラブ王! しっかり儀式も達成したからしっかりと札をいただこうか!」
「こ、こんなことまでされて、わ、渡せるか!」
「ほぉ? 渡してくれないと? こっちは儀式を達成したのに? おい、ロロン。もっと壊していいってさぁ!」
コブラが悪そうな顏でロロンに話しかけてロロンもその意図が分かったのでクラブ王を脅すように咆哮する。
「わ、わかった! す、少し待ってくれ!」
クラブ王はすぐに部下に言い渡し、星巡りの札をコブラに渡した。
「あんがとよ」
コブラは札を受け取ると、またロロンの上に登ろうとした。ロロンはくすぐったくて悲鳴を上げる。
「の、登らないでください!」
「いいじゃねぇか便利なんだし」
「こ、この国を出るまでですからね!」
ロロンとコブラが打ち解けた様子を見て安心したアステリオスはまだ怯えてしまっているクラブ王を覗き込んだ。
「キャンス王国国王クラブ様」
「な、なんだね」
「このドラゴンは我々と共に星巡りの試練に旅立つことになりました。それ故にこの国で大事な祠を、王自らが守護する提案のために持ってきました」
「わ、私自身が管理だと!?」
「はい。そしてこのドラゴンがドラゴンで或る限り! 新たなドラゴンは必要ないです。
クラブ王よ。女とは守るものです。女に守られるのであれば、相応に女を守らないといけませんよ? それがタウラスで僕が学んだ男と言うものです。貴方も守りたいものがあるなら、自らの力を以って守ってください。では――」
アステリオスはクラブ王に対しての苛立ちをぶつけて、ロロンに合図をする。コブラ、キヨ、アステリオスを乗せて、くすぐったくなっているロロンはそれを我慢しながら慎重に空へと飛行し、キャンス王国を後にする。
その光景を呆然と王は見つめていた。
ドラゴンが城を壊した瞬間を、バタラは失笑しながら見ていた。
「ありゃりゃ、あんだけ城が壊れたら、修繕で仕事が溢れるな。また。うちの材料と技術に需要が生まれちまう。人手も必要だな。新しい仕事が生まれちまったな。ははは。まだまだ稼ぎ時だねぇ」
バタラはそう言いながら腕を鳴らし、さっそく同業者たちを集めることにした。
そこから数日。ドラゴン対峙が出来なくなった戦士たちに城の修繕のための人手を頼み込み、報酬にクラブがため込んだ金銭を与え、その報酬金で戦士たちはキャンス王国にある食事処に使う。
キャンス王国は新たなビジネスが生まれ、そのビジネスを利用してクラブ王が巨大賭場大国としての経営を成功させることはコブラたちの星巡りの儀式を終えて数年後のこととなる――。
キャンス王国が小さく見えるほど遠くについた時、ロロンはそっと地面に着地し、皆を降ろして人間態となる。
「うっわ。美人」
人間態を見てすぐにキヨが声を漏らす。
「い、いえ。私は美人では――」
「いや。ロロンさんは美人だよ」
アステリオスはロロンが否定する前に、キヨの言葉を肯定してすぐに機材を出して調理の準備をする。
いまだに戸惑っているロロンの背中をちょちょんと突いたコブラは、ひゃっと声をあげたロロンの反応を楽しむ。
「なぁ、次の国までまた乗せてくれよ」
「嫌です! 本当にくすぐったいんですから」
「ちぇー」
「仕方ないわよコブラ」
キヨもここで今日は寝泊まりすると判断してさっそく画版を取り出して座り込んだ。
「ねぇ、ロロンさん」
キヨに話しかけられてロロンは戸惑う。
「は、はい」
「ここに座って」
キヨに指示され、ロロンは彼女の前にちょこんと正座して座る。
「色々話聞かせてよ。後、貴方を書いてもいいかしら?」
「描いても……?」
「私、絵を描くの。ほら」
キヨは一枚、アステリオスとコブラ、ヤマトが水辺で遊んでいる絵をロロンに見せた。
「おぉ、これはとてもお上手な絵ですね」
「ありがと。それで、これから一緒に旅をするなら、貴方の絵も描かせてよ。一緒にお話しながらね」
キヨの言葉にロロンは心の中に満たされるように喜びが湧きあがってくる。
自分はアステリオスのおかげで、誰かに話を聞いてもらえるようになったのだ。
「はい。喜んでお話しましょう」
キヨに聞かれたことを素直に答えてゆくロロン。彼女が楽しそうに話す声を聞きながらアステリオスはほほ笑んで調理を進める。コブラもまた楽しそうな彼女の声を聞きながら十手を磨く。
ここにヤマトがいれば、もっと心地の良い空間であっただろう。
「らしくねぇこと考えちまったぜ」
コブラは独り事を漏らす。
「キヨさん」
「キヨでいいよ。私もロロンって呼ぶから」
「では、キヨ。先ほどの絵に描かれていた黒髪の男ですが……」
「あぁ、ヤマトって言って私たちの仲間。今は別行動になっちゃっているんだけど。それがどうしたの?」
「いえ、絵で見ただけなので、詳細はわからないのですが……」
ロロンが少し戸惑っていた。きっと何かの見間違いだと確信が欲しかった。しかし、キヨの絵がとても上手なので、疑う他なかった。
「その、ヤマトと言う方はなぜこうもヘラクロスにそっくりなのですか?」
ロロンの言葉に、三人は首を傾げた。
「えっ、ヤマトが……ヘラクロスにそっくり?」
「えぇ。黒い髪に少し黒い肌。発達した四肢。八百年も前ですが、彼の存在はとても強烈なのでよく覚えています」
「そうか。ロロンさんはヘラクロスに会ったことがあるって――」
「えっ!? ヘラクロスって実在していたのか!?」
「はい。私の先代ドラゴンが邪龍に堕ちた際、ヘラクロスが彼女を……滅しました。黒い髪の焼けた肌の男が――」
「すごい。じゃあもしかしてあのお話は実話なの?」
「あのお話?」
「あぁ、『ヘラクロスの冒険』だよ」
「あぁ、キャンス王国でも読んでいる子どもを見かけたことがあります」
「そこで『ヘラクロスは邪龍を滅した』と書かれているんだ」
「そうですか。ならば、その邪龍とは私の先代のことでしょう」
「はぁ、すげえな……」
コブラはその先を聞こうとした。自分の大好きな物語をより現実として語ってくれる相手を見つけたのだ。興奮しないわけがない。
しかし、ロロンは一瞬寂しい表情を見せた。コブラの嫌いな表情だ。
「まっ、それは良いとして、なんでヤマトとヘラクロスがそっくりなんだ?」
「さぁ。それは……私にもわかりません」
ロロンは申し訳なさそうに頭を下げる。
「ロロンが謝ることじゃないわよ。それより、もっと聞かせてよ。ロロンの話。どうしてアステリオスと仲良くなってこの旅についてくるようになったのかとか――」
「みんな! ご飯出来たよ!」
キヨのニマニマとした表情でした質問を遮るように咳払いをして、食事の完成を知らせるアステリオス。コブラは完成にはしゃいだ。
「ひゃっほい飯飯!」
「あぁー! 今良いところだったのに」
「キヨも早く食わないと、お前の分も食っちまうぞー」
「ちょっとコブラそれ本当にやったら許さないからねぇ!」
キヨは描きかけの絵を置いて、コブラと同じように食事処に向かった。
ロロンは気になり、描きかけの絵を拾って見る。
その絵は恥ずかしそうに頬を染めている自分と、その後ろで穏やかな顔で料理をするアステリオスとコブラの絵であった。
戸惑っている自分の目線が後ろにいるアステリオスを追っているようにも見えて、ロロンは思わず恥ずかしくなってしまう。
「だからあのような質問をされたのでしょうか」
「ロロンさん」
後ろからアステリオスが声をかける。
振り返ると優しい表情で自分よりも小さな少年がこちらに微笑みかけていた。
「ロロンさんも一緒に食べましょう」
「……はい!」
四人は食卓を囲む。自分の事情も全て知っている者たちと、楽しく食事を囲んだのは、いつぶりだろう。
自分を変えてくれた少年が作った食事は一口食べる度に心が満たされるような気持ちになる。
まだ自分がやった行いが正解なのかわからない。これで良かったのかわからない。けれど、この一口を、この人達と食べているその瞬間だけは少なくても――。
長い長い命の中で大切な日になるのだろう――。
とある城の地下の牢屋で一人の少年が鎖に繋がれていた。
「食事の時間だ」
冷徹な声で看守が牢屋に食事を入れる。小さなパンにミルクが添えられている質素なものであった。
看守と共に入った男が牢屋の中で少年と目線を合わせるために座り込む。
「いい加減折れてくれ。貴様に時間を割いている暇は私にはないのだ。大人しく我が軍門に下れ。兄に従え。ヤマト=ヘラクロスよ――」
兄を名乗る男を睨みつける牢屋の中で鎖に繋がれた少年、ヤマト=ヘラクロスは看守の言葉に返事をせず、ただじっとこの国に対しての怒りに打ち震えていた――。
<キャンス王国と邪龍棲まう祠 完>
というわけでキャンス王国と邪龍棲む祠終了させました。
こちらは第一稿となっております。こちらをリテイクして冊子化したものを文学フリマ大阪に出品予定ですので、もし興味をもっていただけた方は一章~三章までも含めてご購入いただけたら幸いですm(__)m
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
五章もなるべく早めに完成出来るように心掛けたいと思います。




