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第四章 キャンス王国と邪龍棲まう祠 10話

 カルニコスの子。名をクラブと言う。彼は父とヤクモ=オフィックスが話しているところを覗き見ていた。

 父曰く。この国にはドラゴンが棲む。

 そして数々の国を踏破してきたヤクモはそのドラゴンを倒さずにやってきた。

 父とヤクモの話では、そのドラゴンは人を殺したりしない。基本的に傷つけない。

 父は言っていた。

「あのドラゴンこそ我が国の守護竜様だ」

 父はそういっていた。

 しかし、クラブが次期王としてこの国を見つめ直した時、クラブは大きな問題に直面していた。

 この国は貧しい。クラブは一度父と共にオフィックスに出かけたことがある。とても文化の発展した国であった。キャンス王国はなぜこうならないのか。と王子クラブは常々ねたんでいた。

 この国には鉱石がある。そしてそれを加工するのに長けた職人もいる。しかし、そこには求めるものがいない。キャンス王国は平和な国だ。武器をわざわざ求めるものはいなかった。

 そしてカルニコスが死に、クラブが王についた際、彼はあることを思いついた。

 否、脳裏には常にあったが、父の目を盗んでそれを実行することが出来なかったのだ。

「我が国には、絶対に負けない。そして絶対に人を殺さない優しいドラゴンがいるじゃないか」

 その時からだった。クラブの采配により、キャンス王国はみるみると発展していった。

 簡単なことだった。国中の燻っている若者にこう言ってやったのだ。

「国の洞窟にいるドラゴンが邪龍となろうとしている。これを討伐したものにその邪龍が棲む洞窟にある我が国の祠にある宝を授けよう」

 クラブはここまで上手くことが運ぶとは思わなかったほど、この言葉はキャンス王国とその周辺国の者たちに大きな影響をもたらした。

 彼らは武器を取り、ドラゴンに挑んだ。そしてドラゴンもまた、彼らを追い払った。しかし、彼らに大きな怪我はなかった。

 故に彼らはさらに武具をそろえてドラゴンへ挑む。

 噂が噂を呼び、毎日誰かがドラゴンと闘い、そしてその全てが軽傷で帰ってくる。

 彼らは辞め時を失い、どんどん金を使い、武具を買いそろえ、ドラゴンに挑み、それを壊される。

 次第にドラゴン討伐に疲れた男たちに応えるように食事処も発展していった。

 そして今の裕福な国キャンス王国となる――。


「さて!」

 目を覚ますアステリオスは窓から見えるこの国の裕福さを象徴するようなキャンス王国の城を眺めている。コブラとキヨの二人はまだ寝ている。

「まったく、二人とも寝坊助だなぁ」

 そう言いながらも、彼らの寝顔にアステリオスは幸せを感じていた。タウラス民国にいた頃は寝る時も、起きる時も一人だった。食事を共にする人はいたが、こうして誰かの寝顔を見る機会はなかった。

 アステリオスは部屋の隅にある机に座り、髪と、筆を執る。

 昨日あった出来事や感じたことを考えたのだ。

「ロロンさん……」

 アステリオスはいまだに昨夜のことを戸惑っていた。彼女からした火薬の匂い。

 あの火薬は自分が愛用している物の匂いだ。いつも実験などをしている時に嗅いでいる。間違えるはずがない。この国にも同じような火薬が出回っているのであろうか。

「だとしたらなぜロロンさんから香ったのだろう」

 アステリオスは紙に「この国の火薬の流通について調べる」と今日やることを調べる。この国で出回っている火薬の匂いが自分の物と同じかどうか調べないといけない。

 アステリオスは無意識に「ロロンさんはド」まで書いて自らの手を止める。

 根拠が少なすぎる。自分でも何を考えているのかとばかばかしくなり、筆で書いた文字を塗りつぶす。

 別のところに「ドラゴンの対処法」と書いて、その下に考えを纏めようとしたが、何一つ案が出ない。

「んー。これで出来るとは思えないけれど」

 アステリオスはようやく筆を走らせた。

「ミノタウロスの作成」と記載した。

 この国にある材料ならば、きっとタウラスの頃よりも強いミノタウロスを作ることが出来るだろう。

「それに……」

 アステリオスは振り返り、自分の荷物の上に置かれた器具を見つめる。ジェミニ共和国で、ミノタウロスから貰った物だ。

「今の僕には、あの時以上に強いイメージがある」

 アステリオスは興奮している気持ちを抑えきれず頬が緩み、別の紙に筆を走らせてミノタウロスの設計図を作成する。

 その行為はコブラとキヨが目を覚ますまで続いた。


 コブラが目を覚ました時、既にキヨも目を覚ましていたが彼女はアステリオスが紙に何かを書いているのを見つめていた。

 コブラは身体をむくりと起き上がり欠伸をする。その時の声に気付き、アステリオスとキヨは振り返る。

「おはよう。コブラ」

「あぁ、おはよう。何をしているんだ?」

 コブラはベッドから飛び起き、右側から覗き込んでいたキヨとは逆、左側からアステリオスの紙を覗き込んだ。

「これ……ミノタウロスか?」

 コブラはオフィックスにいた髭親父の真似をして髭もないのに顎を摩って答えた。キヨは寝起きでボサボサのコブラが行う不格好な真似事に思わず失笑してしまう。

「なんだよー」

「いや、なんか昔のパパ思い出しちゃって」

「パパってオフィックス王のことかい?」

 紙からは目を離さずにキヨたちの会話に入っていったアステリオスにキヨは少し複雑な表情になる。

「えぇ、そうよ。今は違う人が王だけれどね」

「あぁ、いけすかねぇ奴だよ。あの王様は」

 コブラは腕を組んでうんうんと頷く。

「って話が脱線したわね。コブラの言う通り、この紙に描かれているのはミノタウロスよ」

「設計図をもとに少しキヨちゃんに手直しをしてもらっているんだ」

 紙には人型の丁寧に描かれた図形に、コブラには理解不可能な言葉がたくさん並んでいる。

「気になっていたんだが、あのミノタウロスってどうやって作ってるんだ?」

「うーん。コブラは、棒付きパペットはわかる?」

「あぁ、オフィックスのガキがよく遊んでいたよ」

「理屈はあれと同じだよ。本来の棒付きパペットは下から棒を突き上げて操っているけれど、僕の場合は人形の中から棒で操っている」

「へぇー」

 コブラは納得したように声をあげたが、正直ほとんど把握していなかった。そしてこれ以上首を突っ込むとアステリオスの悪い癖が出るのが分かっていたので、コブラはそれ以上の質問を止めた。

「それで? なんでそんなの描いてんだ?」

「これでドラゴンに対抗するんだって」

「対抗できるとは思えないけれど、僕が考える中では一番可能性があったからね」

 その間もアステリオスは紙から目を離さない。そして一度筆を止めて紙を上に掲げて唸りながら見つめる。

 彼の行動をコブラとキヨは見つめるしかなかった。

「……よし!」

 アステリオスは満面の笑みになったあと、紙をそっと置いた。勢いよく立ち上がる。

「二人とも、実は大事な話があるんだ」

 それはアステリオスが設計図を描き込みながらも、常に考えていたことだった。根拠はない。

 しかし、アステリオスには確信があった。自分の抱いた感情に偽りはない。あの女性に抱いた感情。あのドラゴンに抱いた感情。火薬の匂いその全てに繋がるがあるように思えてならなかった。

 ばかばかしくても、確かめることこそがカガクである。アステリオスはそう決心した。

 どう言い始めようか。ぐっと躊躇っていてもコブラとキヨは優しく待ってくれている。

「あのね。今日のことなんだけれど、僕一人だけにあの洞窟に行かせてもらえないか?」

 コブラとキヨはアステリオスの言葉に驚いた。

 アステリオスは設計図を描いただけで、作ってはいない。

 もちろんアステリオスがいくら身体を鍛え始めたとしても、そんなものドラゴンを前にすればまったくの無駄である。

 昨日、三人で連携してやっと祠に近づけたと言うのに一人では必ず不可能だと二人の脳裏に過ぎった。

 だが、コブラとキヨは思わず微笑んでしまう。

「いいぜ。頭のいいお前のことだ。何か考えがあるんだろう?」

「えぇ、ヤマトから入国書やら預かっているのは貴方よ。アステリオス。この旅の仲間のリーダーは貴方なんだから、私たちは貴方に従う」

 コブラとキヨはアステリオスを信頼することにした。彼に危険が及ぶ可能性も考えたが、そんなことは彼が一番分かっているはずである。

 それを承知で言った言葉であるならば、コブラとキヨにはアステリオスの言葉を止める理由は何一つなかった。

「んで? じゃあ俺とキヨは今日は休日ってことでいいのか?」

「ううん。済まない。このお金で可能な限りこのメモに書いてある素材をかき集めてほしいんだ」

「げっ! この金どうしたんだよアステリオス? まさか盗んだのか?」

「あんたと一緒にしないで。でも、ほんとにどうしたの?」

「ちょっとね。昨日稼げることがあって」

「へぇ、いいぜ。俺の目利きで安く仕入れておく」

「あたしもその手伝いをすればいい?」

「んー、キヨはむしろ金稼ぎの方をお願いしたい。君の描く絵はきっとこの国に来ている旅人たちにとってはいい余興になる。きっと金銭を稼ぐことが出来るはずだ」

「そ、そうかなぁ?」

 キヨは少し恥ずかしくて頬を紅潮させて照れる。アステリオスの疑いのない信頼が少々恥ずかしい。

 自身の絵が誰かの手に渡っていくこととそれでお金を稼ぐことが出来るか少々不安でもあった。

「大丈夫だって!」

 コブラが乱暴にキヨの背中を叩く。叩かれた表紙に腕が前にぐっと出る。

 その時、視界にはジェミ共和国のキヨ姫から受け取ったティアラを加工した腕輪が視界に入る。キヨはその腕輪をじっと見つめる。

 不思議と、背中を押され、何かが出来るような気がしてきた。

「うん。やってみるよ! 任せて! あたしの画力で最強のミノタウロスを作るためのお金! 稼いでみせるから!」

 そう答えるとキヨは意気揚々と道具を用意してそそくさと外へ出ていった。

「さてっと、俺も着替えてから買い出しに行きましょうかね」

 コブラはわざとらしく欠伸をした後、身なりを整えてアステリオスから渡された金の入った袋を懐におさめる。

「くすねないでよ?」

「しねぇよバーカ。じゃ、よくわかんねぇけど頑張れよ。大事な話は、今日のやつが終わった後なんだろう?」

 部屋を出ようとしたコブラは振り返り不敵な笑みでアステリオスに語りかけた。

 アステリオスはコブラには今後隠し事が出来ないかもしれないと思ったが、不思議とそれは心地がよかった。

「うん。ちょっと確かめてくるよ」

「んじゃ、行ってきまーす」

 そしてコブラもまた、部屋から出てゆく。アステリオスはもう一度晴れた外を見つめた後、懐にしまっていたクラメルの瓶を取り出して軽く栓を開けて中の匂いを嗅ぐ。

 爽快な香りに一気にけだるさが抜け、不安などのよどんだ空気が吹き飛んでいく。

「よし。行こう」

 アステリオスはクラメルの瓶をしっかりと握りしめて、部屋を後にした――。


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