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迷子の世話はしたくない

相変わらず文才ゼロです。


見苦しいところもあると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

「あの〜…リリーナさん」


 俺は隣のリリーナに言う。


「?どした?」


「さっきより見られてる気がするんすけど…」


 俺へと向けられる視線の数は、着替える前より確実に増えていた。


「あ、そうだ!今から個人行動の時間にしない?その方が、自分の好きなところを自由に周れるでしょ?」


 …どうやら俺の言葉など、彼女の耳には入っていないようだ。


「私も賛成だ。丁度、王立図書館に行きたかったところだ」


 カミラがリリーナの意見に肯定の意を示す。


「アリシアは?」


「わ、私は別に構いませんけど…」


「なら決まりね。じゃあ早速、個人行動開始!」


 リリーナの掛け声で、彼女達は各々の方向へと歩いて行く。


「ちょ、ちょ待って下さい!俺は…」


 俺の悲痛な叫びが、彼女達に届くことはなかった。



「どうするんだよ、これ…」


 自分自身の奇妙な服装を見ながら、俺は小さくこぼす。


 一人になったことで、俺へと注がれる視線の数はさらに増えていた。


 そうだ、手持ちの金でまともな服を買って、それに着替えよう。この世界での1ゴールドあたりの価値は知らないが、5000ゴールドもあれば足りるだろう。

 そう思った俺は、先ほどの洋服店へと戻るために、来た道を引き返す。


 大通りに出ようとしたその時、ある少年の姿が目に映った。


 3・4歳ほどだろうか。親とはぐれたのか、嗚咽と共に涙を流している。周囲の通行人は好奇の目を向けながら、道の真ん中に座り込む少年を避けるようにして通り過ぎていく。


 普通であれば助けてやるのが道理というものなのだろうが、異世界モノにおける迷子、それすなわち面倒ごとに巻き込まれるフラグである。


 …すまんな少年、俺は面倒が嫌いなんだ。そう心の中で呟くと、俺は少年に気づいていないフリをしながら足早にその場を去る。


 しばらく行って何と無く少年の様子が気になった俺は、後ろを振り向いてみる。


 真っ赤に腫れた少年の両目は、俺をしっかりと捉えていた。



 まずい、目が合った。


 クソ、このやけに目立つ服装が仇となったか。このままでは、俺は「迷子のぼくに気がついたのに無視した性格の悪い大人」となってしまう。

 俺にとって、人に悪く思われるのは、目立つことの次に嫌いだ。


 …仕方ない。今回は面倒ごとを引き受けることにしよう。


 意を決した俺は、少年へと歩み寄る。


「どうしたの?お母さんとはぐれたちゃった?」


 そう声をかけると、少年の嗚咽は一層大きくなる。


 …でしょうね。俺だって小さい頃にこんな奇天烈な格好の男に話しかけられたら泣くわ。


「な、泣かないで!悪い人じゃないよ!」


 俺は慌てて少年を慰める。


「…ほんとに悪い人じゃない?」


 少年の嗚咽が止まる。


「うん、大丈夫だよ。…ところで、何かあったの?」


 俺が尋ねると、彼は俯く。


「…お母さんとはぐれちゃった。しばらく周りを探し回ったんだけど、どこにもいなくて…」


「そうなんだ…じゃあ、お兄さんと一緒に探そうか」


 少年は顔を上げる。


「…探してくれるの?」


「うん、二人で探せばすぐ見つかるよ」


 …まあ、母親の顔どころかこの街の構造すらもよく知らんのだが。


「本当に?」


「うん、多分。…ほら、こんなところで座り込んでてもお母さんには会えないよ。さあ、立って」


 差し出した俺の右手を、少年の小さな手が力強く握り返す。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 少年は満面の笑みを浮かべて言った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「見つからないね…」


 ベンチに座った少年が言う。


「あ、うん、そうだね…ハハハ…」


 そう言って見上げた空は、今にも茜色に染まろうとしていた。


 結局あれから5時間ほど街中を探し回ったが、結局それらしき人影は見つかることはなく、疲れ果てた俺と少年は大通り沿いのベンチで一休みすることにしたのだった。


 …正直言って、ここまで時間がかかるとは思わなんだ。あー、引き受けるんじゃなかった。


 心の中でそうボヤいていると、隣の少年が口を開く。


「僕、お母さんとはぐれる前、わがまま言っちゃったんだ。欲しいおもちゃ買ってくれなかったから…だから、お母さん僕のこと嫌いになっちゃったのかな?だから…」


 少年は不安げに俯く。


「そんなことないよ、お母さんは君のことを捨てたりなんて…」


「でも…でも…」


 ついには少年は泣き出してしまった。


 突然のことに、俺は戸惑う。


 一人っ子として生まれた俺にとって、小さい子供と関わる機会は皆無に等しく、そのためこういうハプニングに対応できるほどの技量を持ち合わせていなかった。


「ほら、えっと…ね。あの〜」


 少年の嗚咽はどんどん大きさを増していく。


 …まずい。これじゃあまるで、俺が泣かせてるみたいに見えるじゃないか。


「小さい子供を泣かせている派手な格好の男」となれば、不審者認定間違いなしだろう。事実、大通りを行き交う人々の多くがこちらのことを怪訝そうな目でチラ見しながら早足で通り過ぎていく。


 お願いだ。早く泣き止んでくれ。


 そんな俺の願いも虚しく、少年の涙が止まる気配はない。


「…アーロン!?」


 突然の声に顔を上げると、大通りの向こう側に小太りの女性が立っていた。


 少年の顔がみるみる笑顔に変わっていく。


「お母さん!」


 たまらず少年が女性へと駆け寄っていく。


「あんた、いままで何やってたの!?心配したんだからね!」


 少年の母は、息子を深く抱きしめる。


「お兄ちゃんと一緒にお母さんのこと探してたんだ!」


 その言葉で、少年の母はやっと気づいた様子でこちらに目を向ける。


「うちの息子がご迷惑をおかけしました。本当にありがとうこざいます」


「いえいえ、お気になさらず…」


 俺はぎこちない笑顔で答えた。



 はあ、やっと終わった…


 長時間の拘束から解き放たれた俺の身体から、流れ出るようにして力が抜けていく。



「…よかったですね、息子さん見つかって」


 …と、再会を喜ぶ親子の後ろから声が聞こえる。


「ここまで付き合って下さった、あなたのおかげです。本当に、本当にありがとうございます!」


 少年の母が腰を折った先には、重厚な鎧に身を包んだ少女の姿があった。


「アリシアさん…」


 俺がそう言うと、少女は俺の方を向く。


「レイ様!?」


 アリシアは驚きの声を上げた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お兄ちゃん、ありがとう!」


「次はお母さんとはぐれないようにね〜」


 帰路へとつく少年ら親子を笑顔で見送る。


 二人の姿が見えなくなった頃、アリシアが口を開いた。



「…お優しいんですね、レイ様」


「…違いますよ。俺はただ、優しい人を演じてただけです。昔っからそうなんスよ、周りに「嫌な人」って思われたくなくて、本心を笑顔で隠し続けて…。俺は優しくなんかありません、ただのエゴイストです」


 俺の行動が誰かに嫌悪感を与えてはいないか、俺の行動が誰かを傷つけてはいないか。


 物心ついた頃から、俺は他人の視線を気にしながら生きてきた。


 民衆に紛れ、他のみんなと一挙手一投足同じ行動をとれば、俺「個人」が誰かを傷つける責任を負うことはない。だからこそ、おれは「平凡」な人生を望む。


 …そんなんじゃいけないのはわかってる。でもその一方で、それがこのややこしい人間社会で生きていく上で最も賢いやり方だということもよく理解している。


 俺に「優しい」なんて言葉は相応しくない。

 俺は軽蔑されてしかるべき人間だ。



 俺の言葉に、アリシアはすかさず反論する。


「いいえ、あなたは確かに優しい人です」


 アリシアはすっかり赤く染まった空を見上げながら続ける。


「本当にあなたが優しくないのなら、他の人を傷つけることに負い目を感じたりしないはずです。それに…」


 アリシアは俺の方へと向き直る。


「あなたが少年に笑顔で声をかけている姿を見たとき、私は『優しい』と思いました。きっと、あの子とそのお母様も同じでしょう。だからあなたは優しいんです。私が言うんだから間違いありません」


 彼女は、汚れひとつない笑顔でそう言った。



「でも、俺なんかが…」


「も〜、しつこいですね。そもそも、勇者として召喚されたこは、あなたが世界の命運を託すのに相応しい人間だからじゃないんですか?」


 俺が勇者に相応しいかどうか。そんなことはどれだけ考えても分からない。


 だけど、この少女の言葉を信じてみるのも悪くないかもしれない。そんな気がした。



「なんか、ありがとうございます。…初めてです、俺にそんなこと言ってくれた人」


 アリシアは突然顔を真っ赤にしながら俯く。


「ど、どうしたんスか、アリシアさん」


「いや、べ、別に…」


 彼女は俺に聞こえるギリギリの声で言った。



「あ!見失ったと思ったらこんなとこに!」


 振り向いた先には、リリーナとカミラの姿があった。


「…て、アリシアも一緒じゃん!あんたたち、二人で何してたのよ!」


 アリシアの顔がより赤くなる。


「別に何もしてませんよ。それより、どう言うことっすか、『見失った』って」


 俺が尋ねると、リリーナは目を泳がせる。


「いやあ〜ね、えっと、それは…」


「実は解散した後、私達はお前をつけていた」


 あからさまにテンパっているリリーナを尻目に、カミラが口を開く。


「カミラ、なんで言っちゃうのよ!」


 リリーナが小声でカミラに言う。


「そんな様子で誤魔化しきれるとでも思ってるのか?」


 カミラに冷静に反論されたリリーナは、バツが悪そうな顔をする。


「で…えっと、なんで俺のことつけてたんすか」


 リリーナが渋々口を開く。


「…実はあの時、レイの反応が余りにも面白かったから、一人にして様子を観察しようって言ってたの。それで、解散したあと私たち3人で合流して、しばらくあなたを尾行してたんだけど、突然アリシアがいなくなっちゃって…。でそっちに気を取られてたら、あなたを見失ったってわけ」


 つまりこいつらは、俺を孤立させて放置プレイを楽しもうとしていたわけだ。


「ちょっと、なに面白がってるんですか!この格好で出歩くの、マジで苦痛だったんですからね!」


 俺が猛抗議すると、まるで堪え切れないと言った様子で二人はクスクスと笑い出す。後ろを見ると、アリシアも口元を手で隠しながら笑っていた。


「笑い事じゃないっすよ!あなたたちもこの格好してみたらどうなんすか!」


「いや、ごめん…無理w」


「私も同意見だ」


「レイ様、私も無理です」


 女性陣は一斉に首を横に振る。


「はあ、もういいです…」


 俺は大きくため息をついた。



「…さて!もう遅いし、そろそろ王城に帰りましょう!」


 リリーナが声を上げる。


「明日は出発式だ。万全の態勢で臨むためにも、質の良い睡眠が重要だ」


 カミラが眠たげに目を擦る。


「あなたはただ寝たいだけじゃ…ともかく、明日から長い旅が始まります。しっかりと準備を整えましょう」


 そう言うと、アリシアは王城に向かって歩き出す。俺たちもそれに続いた。



 …果たして、こんなてんでバラバラのパーティメンバーで本当に大丈夫なのだろうか。先が思いやられる。

 でも、この3人となら、魔王討伐の旅も意外と悪くないかもな。



 人もまばらになった大通りを王城へと引き返しながら、俺はそう思った。

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