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第2話・異変の予兆

「ここか……」

「ちょっと怖いかも」

 見るからに不気味な建造物を前に、レイカが及び腰になる。お化け屋敷も真っ青の雰囲気を発しているのだ。それも仕方ないだろう。


「まあ、ビビってても仕方ない。乗り込もうぜ」

 肝っ玉がデカイのか、ただの考え無しなのか、Jが臆することなく歩を進める。それに付いていく形で、俺達も内部に足を踏み入れた。


「うわ~、雰囲気満点」

 俺の後ろに隠れるようにしながらレイカが呟く。俺も、彼女と同じ気分だった。

 壁や床に染み渡る血痕。所々に転がる死体。明滅する照明。これが現実世界だったら、我先にと逃げ出したくなる光景だ。


「いいねぇ、いいねぇ。ツボを押さえてるねぇ」

 そんな中、一人でテンションを上げるJ。彼は、こうしたホラー物が大好きなのだ。

「じゃあ、Jが先頭な。俺達は後ろからノンビリと行こうぜ」

「は~い」

「そうだね」

 俺の言葉にレイカとハックが賛成の声を上げる。それには、さすがのJも焦りを見せる。

「ち、ちょっと待ってくれよ。俺、弾切れなんだって」

「ハンドガンの弾はあるだろ?」

 初期装備の武器であるため、ゲーム中は至る所で弾が手に入る。なので、彼も持っているはずだ。

「持ってるけど、それだけじゃ無理だろ」


 ハック曰く、ここは中盤の難所だ。彼の言う通り、最弱の武器だけでは無理だろう。その点、俺はマグナムを所持し、ハックは威力が低いものの弾丸をバラ蒔けるマシンガンを、レイカはスナイパーライフルを持っている。身を守るのに不安はない。


「気にすんな。世の中、大概のことは気合いで何とかなるもんさ」

 陽気に言い放つと、俺はJの背中を軽く叩いた。それに対し、彼は反論しようと口を開く。


 だが――


「ガルウウゥゥゥッ!」

「おわッ……!」

 いきなり、Jの姿が横に吹っ飛んで消えた。慌てて視線を向けると、ゾンビとなった警察犬が数匹、彼に襲い掛かっていた。

「Jッ!」

 焦りつつも、俺は腰からマグナムを引き抜き、群がるゾンビ犬を撃ち抜いていく。ハックとレイカも加勢し、何とか救出に成功した。


「ビ、ビビったぁ……」

 床に座り込み、気が抜けたように呟くJ。突然の襲撃だったのだから仕方がない。

「アアァッ……!」

 そこへ、間髪入れずにゾンビが現れる。

「ちょっとは休ませろよッ」

 火を吹く俺のハンドガン。銃弾を頭に食らったゾンビは、声もなく吹き飛んでいく。残酷描写の規制により、血飛沫を上げるだけに止まっているが、不気味な雰囲気と合間って、俺の恐怖心を大きく煽った。

「どうやら、あまり遊ばない方がいいみたいだな」

 そんな余裕がある甘い場所ではないということを、改めて認識する俺。この狂った世界では、一瞬の油断が命取りになるのだ。

「それじゃ、気を取り直して行こうか」

 Jを引っ張り起こしながら、場の空気を引き締める。ここからは、お遊びなしだ。

「よし、進むぞ」

 自分が先頭に立ち、歩き始める。この魔の巣窟を制覇するために。


 歩を進めた俺達の目の前にあるのは受付だった。エントランスとも言えるのかもしれないが、用件を聞くためのカウンターが受付という言葉を連想させる。

「ここら辺にも敵はいるのか?」

「分からない。この警察署の敵配置はランダム要素が強いんだ。まあ、ある程度の出現場所は決まってるけどね」

 なるほど。さすがは中盤の難所と言われているだけのことはある。ハックが居るからと言って気は抜かない方が良さそうだ。


「そういや、前から気になってたんだけどよ。他のプレイヤーも居るのに、どうして敵が死んでねえんだ?」

「えっ……?」

 Jの言葉に、そんなことも知らないのと言った風な表情を浮かべるハック。俺もレイカも同じ気持ちだった。

「建物の中は、チームや個人単位で更新されてるんだ。だから、同時に入ったとしても、中身は同じでも別の空間でプレイすることになるんだよ」

「へえ、なるほどね」

 納得したように頷くJ。どうやら、疑問は解消されたらしい。


「さてと……どうする?」

「何がだ?」

 場を取り直すようなハックの問い掛けに、俺は首を傾げた。

「ここは特殊なアイテムを手に入れる必要もないから、大分、ショートカットできるよ」

 つまり、クリアしている彼に頼れば、わざわざ情報を集めなくてもいいということだ。


「どうしようか?」

 Jとレイカに問い掛ける。

「とりあえず、保管庫までは頼らねえか? 散々、迷った挙げ句に弾切れなんて勘弁してほしいしよ」

「そうだね。そうしようよ」

 二人の言葉に、俺は頷いた。

「じゃあ、地下に向かおう。この本棟と渡り廊下で繋がってる別棟に地下への階段があって、その先が保管庫だから」

「渡り廊下は何処に?」

「二階と最上階の四階。階段は、待合室になってる奥の部屋を進んだ先にあるよ」

 ハックの言葉に頷くと、俺は受付を通り過ぎ、左奥にある待合室のプレートが取り付けられたドアのノブに手を掛けた。


 ガチャリ――軽い金属音を響かせながら、ドアが開かれる。俺はJに目配せをすると、そのまま一気に引き開けた。

「アアアァァッ……!」

 瞬間、警察官の服を着たゾンビが俺達に気付き、部屋の奥から歩み寄ってきた。

「一匹かよ……」

 安堵したように呟き、俺は手にしていたハンドガンを構えようとした。

「ダメ、避けてッ!」

 だが、その行動をハックが制する。何事かと思った俺だが、疑問を口にするより早く、足が地面を蹴り横に飛んでいた。


 バンッ――瞬間、乾いた破裂音が鳴り響き、俺が立っていた僅か後方の床を銃弾が抉った。

「なっ……!」

 俺とJ、レイカの表情が驚愕に彩られる。それも仕方がない。銃を撃ったのは、間違いなくゾンビだったのだから。


『バンッ、ババンッ!』


 胸を満たす驚きを余所に、警官ゾンビは絶え間なく銃撃を繰り返す。その濁った目には俺達が映っているのか、中々に正確な射撃だった。

「フザけやがってッ……!」

 苛立ったJが瞬間的に身を乗り出し、ハンドガンを放つ。距離があったためにダメージは少なかったが、仰け反らせることには成功した。


「お返しだッ!」

 その隙を見逃さず、俺も立ち上がってハンドガンを構える。そして、額の辺りに狙いを定めると、連続して二発の弾丸を撃ち込んだ。

「ガッ……グガァッ……!」

 一発目は肩、二発目が眉間を貫く。急所である頭を撃ち抜かれたゾンビは、ゆっくりと後ろ向きに倒れた。


「…………」

 一転しての静寂。俺達は油断なく銃を構えていたが、警官ゾンビが動かないことを確認して警戒を解いた。


「な、何なんだよ、コイツは?」

 Jが俺とレイカの気持ちを代弁する。

「ウェポンゾンビって種類の敵だよ。中には、こうして銃器を使ってくる奴等もいるんだ」

「マジかよ……」

「まあ、そうそう出てくる敵じゃないけどね。ここは場所柄、そういうゾンビが配置されてるんだ」

「それでも面倒だな。何か見分ける方法はないのか?」

「ここだけで言えば、警官の帽子を被ってるのがそうだよ」

 確かに、目の前でひっくり返っているゾンビは帽子を被っていた。

「じゃあ、コイツに気を付けて進もう。複数の敵が出た場合は、帽子ゾンビを優先的に狙ってくれ」

「オッケー」

「了解」

「うん、分かった」

 三人の了承を得ると、俺は先に進んだ。


 待合室の奥のドアを潜ると、廊下に出た。幾つか照明が破壊されているのか、薄暗さが不気味な雰囲気に拍車を掛けている。

 どこから敵が出てくるか分からない緊張感に鼓動を早めながら、廊下を慎重に進んでいく。すると、突き当たりに目当ての階段が現れた。

 一段一段、ゆっくりと上っていく。そして、二階へと着いたところで、俺は緊張を解して銃を下ろした。


 だが、それがいけなかった。


「ガルウウウゥゥッ!」

 雄叫びを上げ、ゾンビ犬が飛び掛かってきたのだ。

「クソッ……!」

 掴み合うようにして床を転がる。その勢いのまま投げ飛ばそうとしたが、爪が服に引っ掛かって上手くいかなかった。

「兄弟ッ!」

 反射的にJがハンドガンを構える。


 しかし、次の瞬間――


『バンッ!』

 ハンドガンのものより大きな銃声が鳴り響く。同時に、俺に噛み付かんとしていたゾンビ犬が、血飛沫を上げながら吹き飛んだ。


「ふう……」

 安堵の溜め息を吐いたのは、レイカだった。その手には、未だ発砲煙が立ち上るライフルが握られていた。

「サンキュー、レイカ」

「どういたしまして」

 笑みを浮かべながらレイを述べると、彼女も笑顔を返してくれた。


「うわぁ……こめかみを一撃だぜ。相変わらず凄えな」

 レイカの狙撃能力は、俺達の中でもズバ抜けている。最初は、スナイパーライフル自体がなかったため、その特技を活かせず回復係だったが、今では立派な戦闘員だ。

「俺が危ないときも頼むぜ?」

「弾が勿体無いからヤ~ダ」

「うわっ、酷え」

 軽口の応酬に、場の雰囲気が見た目と反して明るくなる。常時、緊張の連続なのだから、こういった時間があってもいいだろう。

「それじゃ、気を取り直して行こうか」

 俺の言葉に、三人が頷く。それを確認すると、渡り廊下に向かって歩き出した。


 そこから先の道程は、戦闘の連続だった。帽子ゾンビに手間取ることもあったが、それ以上に数が半端なかったのだ。お陰で、保管庫前へと着く頃には、手持ちの弾薬が心許ないことになっていた。

「ヤバくねえか、これ」

「確かにな」

「どうしよう」

 不安感に襲われる俺達。しかし、ハックだけは余裕の表情だった。

「大丈夫。その不安も、すぐに無くなるよ」

 そう言うと、目の前のドアを勢い良く開けた。

「おおっ、揃ってんじゃないの」

 嬉々とした声を上げたのはJだ。そんな彼の目の前には、各種の弾がドッサリと置かれていた。

「好きなだけブッ放せそうだな、おい」

 そんなには置いてないが、当分は困らないほどの量であることは間違いない。

「よし、持てるだけ持っていくぞ」

 その言葉を合図に、俺達は作業に取り掛かった。

 一応、弾の所持数には限度があるため、一切合切を持っていくことは出来ない。残念なところではあるが、仕方がないことだろう。

「これで……よしっと」

 メニュー画面からアイテム欄を確認すると、ハンドガンの弾がマックスになり、それなりにマグナムの弾も補充できた。これで、激しい戦闘にも対応できるだろう。


「みんな、終わったか?」

「おう、バッチリだぜ」

「ガッツリ頂きました」

「オッケーオッケー」

 不安の一つが解消されたことで、全員が笑顔だ。やはり、アクションゲームで戦うための準備が整うというのは、かなりの安心感を与えてくれるようだ。

「じゃあ、行こうか」

 そう言うと、先程よりも頼もしく感じる銃を手に、保管庫から出た。そして、辺りの部屋から今後の展開に必要な情報を集める。


「ええっと……ここから戻ればいいみたいだな」

 情報を纏めると、どうやら中庭にある銅像の隠し装置の作動が、警察署クリアには必須らしい。

「引き返すってこと?」

「他に道はない……よな?」

 ハックに視線を向ける俺。

「ベタに進むなら、そうなるね。でも、近道もあるよ」

「どこに?」

「この通路の突き当たりにあるマンホール。下水道を通って本棟に戻るんだ」

「げ、下水道……?」

 レイカが表情を曇らせる。まあ、出来るなら避けたい道ではある。

「まあ、いいじゃんか。行くだけ行ってみようぜ」

 そう言うと、Jはさっさと歩き出してしまった。仕方ないので、俺達も後を追うことにした。


「ここか……」

 すぐにマンホールへと到着する。それを俺とJの二人で開けると、垂直に下へと延びる梯子を降りる。

「くっせ~」

 さすがのJも、鼻を刺す悪臭に顔をしかめる。俺も、思わず鼻を摘まんでしまった。


 と、その時――


『ガサガサガサッ!』

 耳障りな音が辺りに響いた。その発生源は――ゴキブリだった。

「イヤアアアアアアッ!」

 それを理解した瞬間、レイカが悲鳴を上げて梯子を駆け上がってしまった。一人にするのは危険なので、俺達も慌てて追い掛ける。

「無理ッ! 絶対に無理ッ!」

 珍しく、レイカが感情を爆発させる。まあ、女の子なら当たり前かもしれない。

「仕方ない。来た道を戻ろうぜ」

 俺の言葉に、Jもハックも頷く。さすがに、あそこを通る気にはならなかったのだろう。


 結局、俺達はベタな進み方をして、本棟の渡り廊下の前まで戻った。少なからず時間は掛かったが、敵は倒しながら来たので、大した戦闘はなかった。


「中庭って、あそこだよな?」

 言いながら、俺は渡り廊下の窓から中庭に視線を向けた。

「う~わ~」

 そこから見える光景に、Jが間の抜けた声を上げる。中庭には、大量のゾンビが居たのだ。

「あそこを突破すんのか?」

「突破じゃなくて殲滅だね。中央にある銅像の隠し装置を動かさなきゃならないから」

 もしくは、作動させるまで足止めするかだ。

「どっちにしろ、リスクは高いよな」

「じゃあ、少し減らそうよ」

 そう言うと、レイカは窓を開けてライフルを構えた。

 直後、一定感覚で銃声が鼓膜を震わせる。それに合わせて、眼下のゾンビ達がバタバタと倒れていく。

「よし、これで帽子ゾンビはいなくなった」

「えっ?」

 レイカの言葉に、俺は改めて倒れているゾンビに目を向けた。すると、確かにヤられているのは帽子を被っている奴等だった。

「何だよ、全滅させちまえばいいじゃんか」

「無茶を言わないの。ライフルの弾は貴重なんだから」

 確かに、ライフルの弾はマグナムの次に入手しにくい。楽をするために消費するのは論外だろう。

「さあ、バカは放っといて行こう」

 バッサリとJを切り捨てると、レイカは俺とハックの手を取って歩き出す。

「お、おい、ちょっと待てって。悪かったってッ」

 慌てて追い掛けてくるJ。結局、四人揃って中庭へと向かった。


 一階に降り、幾つかの部屋を抜け、廊下を進み、俺達は目的のドアの前に立った。

「アアァッ……ウアアァ……」

「グルルルッ……ガウッ……」

 金属製のドアを隔てて、群がる敵の気配が嫌というほど伝わってくる。これまでにない緊張感が、俺達を支配していた。

「どうする、兄弟?」

「装置の作動を優先しよう。無理に殲滅する必要はない」

 一掃しようとすれば、弾も回復アイテムも使ってしまう。出来れば、それは避けたい。

「レイカが装置、俺達が援護。いいか?」

「オーケー、任しときな」

「了解だよ」

「うん、頑張る」

 三人が了承してくれたのを確認すると、俺はドアノブに手を掛けた。そこで、一度だけ深呼吸しち気を落ち着けると、一気にドアを押し開けた。


 途端、俺達の存在を察知したゾンビ達が一斉に動き出した。

「オラァッ! 掛かってこいや、腐れ死人がッ!」

 好戦的な性格そのままに、Jが切り込んでいくそんな。彼の後ろを付いていく形で、俺達も小走りで銅像へと向かう。

「ウアアァァッ……!」

 ゾンビが束になって襲い掛かってくる。それをハックのマシンガンが止め、Jのショットガンが仕留めていく。

「ガルウウウッ!」

 飛び掛かってくるゾンビ犬。それを見て取ると、俺はマグナムを引き抜きトリガーを引いた。

 しかし、そうしている間にも、横合いからゾンビ達が近付いてくる。俺は左手でハンドガンを持つと、反動に耐えながら連続で銃弾を放った。


「クソッタレが、どんだけ居るんだよッ!」

 Jが毒づく。確かに、倒しても倒しても、数が減る様子がなかった。

「おかしいな。こんなに居るはずないんだけど」

 眉を寄せながらハックが疑問を口にする。だが、今は気にしている暇はない。目の前の敵を倒す以外に頭が回らないのだ。

「止まれば死ぬだけだッ。気合いで踏ん張れッ!」

 檄を飛ばす。しかし、そう言いながら俺の指も疲れで痺れてきた。


 そこへ――


「みんな、もう少し頑張ってッ!」

 レイカの声が耳に届く。必死すぎて気付かなかったが、どうやら銅像前まで辿り着いたらしい。

「ハック、J! レイカに敵を近付けるなよッ!」

「任せろってのッ」

「分かってるってッ」

 活路が切り開かれたからか、二人の声にも張りが戻る。このままの勢いで行ければ、乗り切ることが出来るだろう。


 だが、そこで異変が起こった。


『バンッ、ババンッ!』

 いきなり、俺達のものとは違う銃声が鳴り響いたのだ。気を動転させながらも視線を向けると、全滅させたはずの帽子ゾンビが、五体ほどの群れで迫り来ていた。

「なっ……! 倒したんじゃねえのかよッ!」

 そのはずだ。しかし、現実として奴等は俺達を殺そうとしているのだ。

(考えてる場合じゃないッ)

 無理矢理に戸惑いを追い払うと、俺は帽子ゾンビに突進した。

「アアァァァッ……!」

 すると、当然の如く進路を邪魔される。だが、俺は迫ったゾンビの腕を捻り上げると、そのまま盾にして前進した。

『パパンッ!』

 連続して放たれる銃弾。しかし、それは仲間の身体を傷付けただけで、俺に届くことはなかった。

「もうちょっと知恵を付けなッ!」

 そう言い放つと、容赦なくマグナムの弾を浴びせてやった。ヘッドショットは無理だったが、武器の威力が一撃で帽子ゾンビを沈めた。


「やった、動いたよッ!」

 盾にしていたゾンビを投げ捨てると同時に、レイカの声が上がる。警戒しつつ振り返ると、銅像が動いて地下への階段が現れていた。

「兄弟、戻れッ!」

 Jの言葉をキッカケに、俺は踵を返して走り出した。群がるゾンビを殴り、撃ち倒し、黒い口を開けた階段を目指す。

「――、早くッ!」

 レイカが俺に手を伸ばす。その白い指を目指すように、俺は地面を蹴って階段に飛び込んだ。

「ハック、閉めろ!」

「了解!」

 俺が地下へと転がり込むのを確認すると、ハックは内側から銅像を動かし、外界との出入り口を閉じた。


「ハアッ……ハアッ……!」

 薄暗い階段の踊り場に、乱れた息の音だけが響き渡る。苦しさを象徴するものだが、同時に強く無事を意識させるものでもあった。

「大丈夫?」

「ああ……何とかね」

 レイカの問いに答えると、俺は踏ん張って立ち上がった。奇跡的に、どこも怪我はしていないようだった。

「無茶したな、兄弟」

「しょうがないだろ。ああでもしないと倒せなかったんだから」

 あのまま放置していたら、いずれはレイカが撃たれていた。彼女を失うのは、俺達にとって多大な損失なのだ。


「でも、ちょっと格好よかったかな」

「えっ……」

 不意の誉め言葉に、俺の思考が停止する。緊張の連続で張り詰めていた精神では、処理しきれなかったのだ。

「や~ん、兄弟ってば照れてるぅ。可愛い~」

「バッ……そんなわけねえだろッ」

 咄嗟に切り返すが、悲しいかな、声が裏返っていた。

「下らないこと言ってないで、さっさと先に進むぞッ」

 それを誤魔化すために、早足で階段を降りていく。そして、目の前に現れたドアを、何の警戒心もなく開け放つ。


「ガアアアァァッ……」

 途端、とんでもなくデカくてゴツい化け物が立っていた。

「あ~あ、開けちゃった……」

 後ろでハックが溜め息混じりに呟く。

「なあ、コイツ……なに?」

「この警察署のボス」

「マジで?」

「うん。かなり強いよ」

「ガアアアアアアアアアアッ!」

 ハックの言葉を裏付けるように、地を震わす咆哮を上げるボス敵。それを合図に、俺達は一斉に武器を構えたーーー


〜〜〜第3話に続く〜〜〜

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