表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルトリウス家の使用人  作者: 夕影草 一葉
赤毛の将軍と月色の少女
3/32

料理

 帝国軍の赤毛の悪魔と呼ばれた恐るべき将軍は、その優れた知略と戦略によって次々と周辺の小国を征伐し、その敵国から様々な戦利品を持ち帰っていた。

 そのなかでも特に強力な、魔力を帯びた魔導具と呼ばれるものがある。例えるなら魔族の鍛えた煉獄の魔剣やエルフの織ったミスリルのローブなどが有名だろう。

 それらには一歩及ばないが、山の民であるドワーフの愛用していた戦斧もまた、彼の戦利品の中には存在した。刃には魔力が宿り、切れ味は鋭く、その一撃は並みの防具ごと標的を叩き割る事の出来る、業物である。


 ルキウスは、その凄まじい切れ味を誇る斧を振り上げ、そして渾身の一撃をもって標的へと振り下ろした。






 そしてバコッという音と共に薪が割れ、四方に飛び散った。


「この斧を薪割りに使うのは、いささか気が引けるんだが。 一応は、ドワーフの国と帝国との信頼の証としてもらった代物なんだよな」


「わたしに言われても困るわよ。 それに、お風呂に入りたいって最初に言ったのは、ルキウスでしょ。 だったら、お風呂を沸かす薪もあんたが割るのが道理だと思わない?」


「その理屈は分かるけど、納得はできないよな」


「なに? こんなか弱い女の子に力仕事させるわけ?」


「……獣人も買うか雇えばよかったなぁ。 いや、魔法が使えるエルフでもいいか」


 馬に乗れないと駄々をこねるリフィアのために馬車を追加購入し、日持ちのする食材や生活必需品を買い占め、愛すべき田舎の我が家へ帰ってきたルキウスだったが、すぐにまた次の問題点が露呈した。

 それは、リフィアに力仕事を任せるには、いろんな意味で荷が重い事。

 食材の積み荷を降ろす際には、両手を腰に当てて仁王立ちしているだけだった。


「なに? なんか文句でもあるわけ?」


「いいやなんにも、お嬢様」


 現にルキウス本人が、汗を流すために風呂へ入ろうとして、薪割で更に汗をかいている状況だった。

 家事でも水汲みや薪割など、力仕事は少なくない。それに、ルキウスの買い取った邸宅には、大きな畑と庭園が付いている。それらの活用を考えるに、2人だけでは絶対的に人手不足である。

 しかし今から帝都に戻る気はしなかった。すでに日が傾き始め、山が茜色に染め上げられている。今からでは、盗賊や魔物の標的になること間違いなしだ。


「それは今度、考えるか。 そろそろリフィアは夕食でも作ってきてくれ、いい加減に腹が減った」


「任せなさい。 これでも花嫁修業の一環として、料理だって習っていたんだから」


 主人の薪割を窓から眺めていた奴隷ことリフィアは、与えられた仕事のために踵を返す。

 だがルキウスは慌ててその背中に制止の声を掛けた。


「食材はなんでも使っていいが、俺の料理にニンジンは入れるな? 泣き喚く事になるぞ。 ……俺が」


 そんな間抜けな脅し文句に、リフィアは心底呆れた様子で振り返る。


「もしかしてニンジンが食べられないわけ?  もう子供じゃあるまいし、好き嫌いなんて無くしなさいよね。 元軍人の肩書が泣いてるわよ」


「……別に食べられないわけじゃない。 好き好んで食べたくないだけだ」


 苦しいルキウスの言い訳に、リフィアは一言。


「好き嫌いする大人はみんなそういうわよ」


 数十分の後、ルキウスの元には、キッチンからの白い煙と共に食欲をそそる匂いが流れてきた。


 ◇◆◇


「おぉ? ただの小生意気な娘だと思っていたが、これは凄いな」


 薪割を終え、水で火照った体を濯いだルキウスは、何に使うかさえ皆目見当のつかない、見慣れない道具の並ぶキッチンへと訪れていた。

 昨日は干し肉を塩のスープで柔らかくした物を食べたが、相変わらずの不味さだった。それもそのはず、本来ならば戦場で食べる軍食なのだから。

 それが一転、今日はすでに広すぎる程のテーブルに、何種類もの料理が並んでいる。たとえそれが子供の作ったつたない物であろうとも、ルキウスにとっては十分なご馳走となる。

 思わず唾を飲み込むルキウスを見て、リフィアは得意げに笑って見せた。


「ふふん、いいわよ、もっと褒めなさい」


「よッ! ダイトウリョウ!」


「……なにそれ?」


「わからん。 東方では相手を称賛する言葉らしい」


 ルキウスが料理の並ぶテーブルへ着くと、何のためらいもなくその向かいに着席するリフィア。

 本来なら主人と奴隷が同じ食事というのはあり得ないのだが、ルキウスは何かを言うわけでもなく食事を始める。リフィアも食前の祈りをささげ、手元の料理に手を付け始めた。


「東方って、そういえば元軍人って言ってたわね」


「そうだな。 ただ将軍様の事はなぜか一切覚えてないから、俺からは話すことはできないな」


「はぁ? まぁ詳しく聞いちゃいけない事があるなら、聞かないけど……。 他の国の事とか、聞かせてよ」


「それぐらいなら、まぁいいか」


 ルキウスはせがまれるままに自分の体験してきたことを料理に舌鼓を打ちつつ語り始める。

 無論、血を血で洗う戦争の話ではなく、世界の美しき場所についての話を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ