追い出されたけどドラゴン公爵の妻になれるので勝ち組でした 1
気がつけば土砂降りの中で、私は家のドアから突き飛ばされる。
びちゃびちゃの地面に腕と膝をついて、何が起きたのかわからないまま。
「そういうことだ。もうお前を養う義務はないのさ!」
成人の誕生日にいきなりだった。
自分の両親が生まれたばかりの私を伯母夫婦に預け、死んだということを告げられたのだ。
今まで普通だったのに、女性が好きなドロドロの劇の悪役ばりの表情。
いきなりの変貌ぶりに何も頭に入ってこないまま、この状態である。
「母さん! なんでこんなことをするんだ!」
騒ぎを聞きつけ、二階から降りてきた兄が元母……伯母に詰め寄る。
「フン! 家長のあたしに文句を言うんじゃないよ! とっとと金持ちの娘を嫁に貰って楽させとくれ」
この国では女が家長として家を継承するから、彼の妻が家を継ぐのよね。
なんて、私こんな状態なのに案外冷静だわ。
「ルエット!」
彼は引き留めているけど、返事をすることができない。
「いかないでくれ……母さんはどうかしているんだ」
そんなことを言われても、帰れないものは帰れない。
鬼の形相で睨まれているのに、私なにか恨まれるようなことした?
今まで育てられた分こきつかわれるならわかるけど、追い出されるとは思わなかった。
それほど私がいるのが嫌になって?
私も兄が大好きだった。でも、本当の兄ではなく従兄だったのだと知った。
けれど、嫌いなわけでもない。何が変わるわけでもないのだ。
「ネフェルは知ってた?」
「俺は……君が妹じゃないことは知ってたよ」
「……でも、妹も従妹も大差ないわ」
イトコと結婚するのは東くらいで、西では禁じられている。
「……ルエット」
「さよなら」
◆
手ぶらで森をさまよっていると雨が止み、泥だらけの服が乾いたころになると空が赤くなる。
人が家に帰っていく頃合いになった。私に帰る場所などもうない。
黄昏ていると、霧の向こうに門が見えてくる。
そこまで走っていくと、立派なお屋敷が場違いな立地の場所に聳え立っていた。
「見慣れない屋敷……」
どんな女性が住んでいるかと思えば、窓から姿が見えたのは男。
ここの当主の夫か、それとも他所から来た変わりものか?