雪の花
白い6方向の花弁~六花。とても寒い日に見つけた白い輝き。
冬の終わりに近いある日のこと。魔王は所用があって外に出ていた。先日まで降り続いた大雪で、足首まで雪が積もっていた。吐く息は白煙のように立ち上り儚く消える。少々肌寒いが外へ散策してみるとしよう。今日も何か面白いことを見つければいいが。魔王はそう独り言ちた。
外は白銀の世界と化していた。山も建物も皆雪を纏っていた。今頃動物達の中には冬眠して春を待つものもいるだろう。
「そういえば近年新たな遺跡が発掘されたそうだな。今度勇者を誘い出す罠として使ってみようか。
まぁ後の参考となろう。」
魔王はふと思いついてその新たなに発見された遺跡を探索することにした。
最近魔王の頭を悩ませている問題がある。それはバトルの場所であった。
大体城が戦場と化すのだが、毎度毎度派手に城の調度品等を破壊されて、修復するのに膨大な魔力と費用がかかるといったこと。側近の中には「お戯れは城の外でお願いします」と苦言を呈する者も出る始末。
最近では本物の城そっくりの空間を魔力で創りだし、本物の城はカモフラージュすることで城崩壊を防ぐのを思いついたが、なんさま余計に疲れて別の手を考えないといけなくなった。それは勇者と真剣勝負するための力とともに戦うための空間を維持するための魔力が必要になるからである。それならば勇者を誘い出すための拠点を増やせばいい。その為にも色々と調査が必要だと魔王は自ら探索に乗り出したのである。
「全知全能に等しい私を挑むのに相応しい戦う場を見つけたい。己の全てを持って究極のバトルが楽しめるようなダンジョンを・・・・。」
その言葉には並ならぬ決意が込められていた。
この遺跡はおよそ2000年前の遺跡のようだ。遺跡の様式、装飾からかなり昔のものだ
少々懐かしく思いつつ触って調べる。近頃大地震により、かつて埋もれていた遺跡が現れたらしい。
(当時地の国では大戦争があっておりその為に大地震が各地で起きたのだ。勇者の祖先が戦の終焉をもたらしたらしい。)
入口は洞窟だった。松明に火を灯して進む。その際魔王は目をふと閉じて精神統一してから全ての感覚を研ぎ澄ませた。頭の中に冷たい風が一瞬遮ったように張り詰め出す。
この先は未知な領域ゆえ何が起こるか自分でもわからない。周囲に引っかかるものがいないか見てみるのも必要だろう。幸い近くには生き物の気配はないようだ。が罠が仕掛けられていることもある慎重に進むべきだろう。闇の頂点に君臨する私を恐れてか私に近づくものがいない。
(若干生き物の気配がかすかにしているが、その気配は弱々しいから無視する。無闇に事を荒立てることしたくない。ここは数百年も密閉したところだった。ここに生き物の気配がほとんどしないのもあたりまえかもしれない。松明で洞窟内を照らしながら魔王はいろいろ洞窟に想いを馳せていた。当時の私は非常に若く幼かった。人を傲慢に見下し、今よりも自由きままに無茶やっていた。白い複雑な装飾文様神殿らしきところには哲人達が色々と議論を交わしていたな。どんな議論を交わしているか知りたくて神殿に忍び込んだり…。あるときは獣と獣、人と獣、獣と人の生死をかけた激しい闘技を見て人間の
闘争本能に冷めた目で眺めてみたり…。様々な映像が頭にフラッシュバックする。
やがて二手の分かれ道にきた。
適当に方向を選び、調べ終わったあとにまた引き返してもうひとつの路にいけばいい。まさかこの私を見事はめるような罠なんてここにあるまいとやや慢心して進んでいるとカチッとスイッチが入る音がした。思わず足を止めて耳を澄ませると・・・。ごろごろごろ・・・。なにか大きなゴツゴツしたものが転がる音がだんだん大きくなっているではないか。またたくまに後ろの方から大きな岩が一心不乱にやってきた。
「ぬおぅ~!踏み潰される」
魔王たる自分が情けないことだが、この狂乱した大岩に逃げ惑う羽目になった。こんな姿絶対勇者に見せられないいや見せたくない。
大岩は加速して襲いかかる。魔王は転ぶように走って大岩からがむしゃらに逃げ出した。それが小1時間とばかり、どこともわからない入口に飛び込んでは、どこともない出口へ抜け出す。到底この遺跡の調査どころではなくなってきた。幾度も逃げども大岩から逃れられない。
(やむを得ない。遺跡を破壊してしまうかもしれんが)
と最終手段を使おうと思ったその時、目の前に白い一筋の光が差し込んできた。魔王はその光に向けて大きく踏み出す。それに連れ出し光が大きくなってきた。やがて足が宙を切った。文字通り魔王は落ちていった。
ドシャン!!
1時間ほどたっただろうか。雪の冷たさを肌身に感じて魔王は目を覚ました。
よろよろと体を動かせば、目の前にはあの大岩がある。
どうやら自分は遺跡から投げだれるようにして外に出たに違いなかった。
尻餅ついたお尻を痛めつつも、魔王ははっと目を見張るものを見つけた。
「こんな寒い中でも生えているのか」
地面は雪まみれだが、ところどころで緑のものが覗き込んでいた。
雪の被り具合によっては白い雪の花のように見えた。
(雪は六花とも言われる。だが雪を花に見立てるものあながち間違いではないな)
雪の結晶は小さくて見えないが、六角形で花弁のように見える。
そっと雪を払ってみると6枚の花弁をつけたスイレンのような植物がいくつも植わっていた。
(何の花だろう。とても可憐な花だがでもこんな寒い雪の中咲くとは強い生命力を感じる。)
魔王は早速後で調べるためにその植物の一つか枯れないように丹念に注意をはらいながら持ち帰った。
なるべく暖かすぎず、元いた場所に近いところにその植物を育てることにした。2日ほどかけて植物辞典等で調べてようやく魔王はその植物の名を知った。その時魔王にはその植物にどこか誇らしいもののように感じられた。「この雪の中という過酷な条件の中育ったこの『雪の花』。まるでどんなに軽くあしらわれても私に挑んでくるあの勇者を思い起こさせるな。」
「魔王!お前を倒してやる」「今日こそオレがお前を…」
あの初めて会った時に感じた強烈な新鮮な感覚は今でも忘れられない。
今まで魔王たる自分に挑んでくるもの数知れなかったが、あの勇者が初めて来た時予感がしたのだ。この長すぎる退屈なりがちな人生を生き生きとさせてくれるスパイスが。
魔王は勇者とのあれこれを思いつつふと窓の外を見た。
つい先日まで積もっていた雪がほとんど温かい太陽の光に溶けてなくなり、
気温も先日より暖かい。
「もうそろそろ長い冬も終わりだな。」
残りの冬をどう楽しもうかと魔王は思索にふけりながら、ゆったり部屋の中に戻っていった。(終わり)
もうすぐ春が近づいていますね。寒い冬の名残のお話。
ほっこりしてください。