里の朝
里の朝は早い。
朝日と共に起き、日暮れと共に眠る。
古き日本の昔ばなしのようだ。
起きて、木の実や穀物、スープなどで
軽い朝食をとる。
母の作るスープのよい匂いが漂ってきた。
私は母を手伝うために着替えた。
キッチンの魔動コンロに向かって立つ母に
ハグをする。
「母さま、おはよう」
笑顔とキスが返ってくる。
「シーヤ、おはよう」
スキンシップは外国映画の日常のようだ。
もと日本人の私にも15年も毎日の習慣となれば
いい加減慣れた。
「クェイルの卵を取ってきてくれるかしら?
さっき鳴いていたから餌もあげてちょうだいね」
クェイルとは鶏のような鳥だ。家畜としてよく
飼育されている。
裏口の扉を開け、朝日にキラキラと照らされ光る
カルバの木々を眺めた。
この世界の一日は、地球より6時間ほど長い。
季節によって日照時間は異なるが、
10~15時間程夜になる。
夜は魔物や魔獣の活性化するため、基本的に
室内で過ごす。
里のまわりは防壁のように太く高いカルバの木々が
絡み合って生えている。
高さもさることながら厚さは数メートルにも
なるだろうか?
遠い昔の強い魔力をもった祖先が使った植物魔法で
このように成長させたそうだ。
要所には魔石が埋め込まれ、警備担当の大人たちが
パトロールしながら魔力の足りなくなった所に力を
注いでいる。
それに沿うように結界魔法で守られた里は、
森の外よりずっと安全なのだが空からの侵入に
やや弱い。
それも人の国に比べたら、の話だ。
ここの結界は人の国の王城並みに強固だ。
魔力の強いエルフ達が生まれ育ち、この世界でも
類を見ない魔素の濃い場所であるのもそうなのだが
そこまでして守りを固めるには、ひとえにエルフが
「過保護」 だからである。