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森の、中。  作者: ゆらゆらさん
第1章 エルフの故郷(さと)
18/19

大人になるまで

父が塔から帰ってきた。

塔で質問攻めに合ったらしく、疲れた様子だった。


「明日、本人達を連れて誓約だけ先に結ぶと

伝えてきた。披露目は20日後に行うと。

じじいどもは早すぎるだのなんだの騒いでたが

本人が選んだと黙らせてきた。」


このまま引き下がってくれるなどど楽観視は

できないが、と不機嫌そのものの父とは対照的に、

ギルはずっとニコニコと無邪気な笑顔を浮かべ、

上機嫌。


父が「嫁に出す家族の最後の夜くらい家族だけで

過ごさせろ」とギルを追い返すまでは。


この世の終わりのような悲壮な顔でギルが帰った後、

簡単な夕飯をとった。皆無言で黙々と食事を取る。


「シーヤ、こんな早くにとは・・・

だが、ギルなら私もエリーも見張るから。

絶対に手は出させん。


だがもしお前もギルに共鳴を発現する様になったら、

その時どうするかはお前の気持ちを尊重する。」


父の言葉に頷きだけ返し、あまり食事も喉を通らず、

シャワーをさっと浴び早めに自分の部屋へ戻った。


ベッドに横になり、考えを巡らせる。


前世の記憶が戻ったころ、混乱して泣きわめき、

一番心配をかけたのは両親だった。

根気よく話を聞き、私の状況を説明してくれた。


転生がよくあること、そして、この世界のこと、

女に生まれたこと、エルフの運命や伴侶の

あり方を聞いた。


「前世のこと、今は忘れなくてもいい。

そのままの自分を受け入れていけるよう、

私達もシーヤを支えるから。」


父は前妻を亡くし、悲しみに暮れて一人で

森の中を暮らしていたという。

里にも戻らずに数百年、墓を守って暮らして

そのまま一生静かに過ごすつもりだったと。


そこに依頼の途中でたまたま立ち寄ったギルと

組んでいた冒険者パーティーに母がいたそうだ。


「前の妻の時も同じだった。もうあんなに

愛する気持ちは持てないと思っていた。


エリーに共鳴を起こすまでは。

前の妻への気持ちもちゃんと心の中にある。

でも、エリーに出会って・・・同じように

愛しい気持ちを感じてしまった。


エリーともいつか別れがくるだろう。

その時、私を一人にしたくないとエリーが望んで

やっと産まれたのが君なんだよ、シーヤ。


伴侶との別れは辛い。人間は私達より早く逝く。

だからこそ、シーヤを、同族の女を妻にと望む者が

いるんだ。15歳になって、共鳴が発現する頃は

シーヤの意思を尊重しない者達も現れる。


その時は、私達も全力で守る。君には、

自分の望む運命と結ばれて幸せになってほしい。

シーヤを愛する親として。」


父はそういったが、内心戸惑った。特に父が

前妻のことを愛していながら母に惹かれた事。


亡くなって会えないのと今自分が転生したことで

相手と会えない事にどう違いがあるのかと。

夫を愛してるのに今、ここに夫がいないから

共鳴を起こす他の男に狙われる。そしてその相手を、

共鳴によって愛するようになるかもしれないと?


それからは、15になる前に何とか里から

逃げ出せないかと自分なりに考えたりもした。

だが私はチートではない。人間より魔力はあっても

エルフの中では平均的な子どもでしかない。


私に懸命に愛情を注ぐ父と母を見て、悲しませる事は

やめようと思いとどまったが、そもそも子どもの私に

逃げ出せる程の力もなかった。


せめて男に生まれ変わっていたら・・・


何事もなく100歳まで頑張って、成人の儀を迎え、

旅立つ。男だったら難なく出来る事が、

女である故、叶わない。


自分よりずっと老獪な、年を経たエルフ達。

最後の伴侶、と執着する彼らの思いはすでに

愛というより妄執だ。

逃げたとしても、彼らは陣に残る魔力の残滓を

辿って、転移先すら突き止め追いかけて来る

かもしれない。

そもそも100歳までお行儀よく待っていない。


せめて自分が選んだ相手を、とも思うが、前世を

忘れられない今の自分にとっては、誰を選んでも

同じことだろう。

共鳴の発現まで、もっと時間が欲しかった。


長い生をこの里に縛り付けられるのか。はたまた、

里の外で監禁されるか。いくら策を考えようとも、

逃げおおせるビジョンは浮かばなかった。


今日突きつけられた、身に迫る危機の現実感。

早く共鳴が発現してしまったことやザカスら

幾人かの運命の判明。そして、ギル。


これを好機に変えられるほど頭脳が優秀だったら

とっくにギルを利用して里から出ていただろう。


ギルも、ふり、と言うのは方便ではないだろうか。

父の手前、ああした物言いになっただけで。

運命と知っていたのだから、シーヤを伴侶にと

見ていただろうし。


今回の件がなければ、師としてそばにいて、

自分ギルの好みになるまで育つのを待ち、

通常の共鳴を待たずに襲われていたかも・・・


今までの言動が、そんな風に思わせる。

今日のあの真剣さとのギャップがありすぎる。

この騒ぎを好機と、方針転換したと考えたほうが

自然だ。


今後は、ギル以外からの危険も増すが、

母と父とこれまで通り暮らせるのは変わらない。

ギルも、対外的には伴侶となった分、好みの年齢に

達するまで、今すぐには手を出さないと思いたい。


とにかく、今はギルを盾にその他の運命達を

けん制し、鍛錬を積み、成人の儀より前に里の外へ

逃げる。それだけをささやかな目標にしよう。

その前に老エルフどもの寿命が尽きてしまえばいい。

そんなふうにも思ってしまうが、そういった執着の

強い者だからこそ長生きしているのかもしれない。

あまり期待しないでおこう・・・


地道に鍛錬しても、まだ違う色の陣にすら転移

できない自分。転移陣で思うままに転移するには

あと数十年を要するだろう。


これから里に戻ってくる者も増える。

伴侶ギルの存在に時間の無駄、と早々に

旅に戻ってもらえればありがたいのだけど。

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