夢のつづき
怠く、体が、動かない。
少し息苦しく、もぞもぞ寝返りをしようとする。
ふわふわと、温かい。瞼が重い。
腕に包まれたままそっと頭を撫でられる。
これは、朝の、夢の続き・・・?
幸せな夢の続き。起きたら覚えていられなくても、
今だけ。今だけ・・・
夢の中だけでも一緒にいさせて。忘れかけている
貴方の名前を呼んで、抱きしめられて眠る幸せを。
おでこに頬ずりをする顔に手を伸ばす。
剃っても少し残るひげが当たってチクチク・・・
ひ げ が な い !!
バっと目をあけると、腕枕で抱き締められている。
目の前には鎖骨とその肩にかかる、長い
プラチナブロンド。
視線を上げるとギルの顔が目の前にある。
ベッドの中でギルに抱きしめられている。
パニックで頭が働かない。
潤んだような、苦しそうな憂いの瞳と目が合い、
頬にそのまま触れるようなキスをされた。
「シーヤ・・・他の男の名前を呼ばないで・・・」
覆いかぶさるようにギュッと強く抱きしめられた。ギルの髪が顔に当たる。腕から逃れようともがく。
違う!嫌だ!私が欲しいのは、この腕の中じゃない!!
振りほどこうとしても、びくともしない。
いつものギルと違う、本気の男の欲の気配に心と
身体ぜんぶがギルを拒否する。
いつもの冗談交じりよりもずっと真剣で直球な、
タガが外れてしまいそうな危うさを感じ取る。
私を落ち着かせるように背中を撫でる手が、
震えている。顔を埋めている首筋に涙が伝う。
ギルが、泣いてる・・・?
「ごめんね。落ち着いて。何もしないから。
お願い。私を拒まないで。シーヤ。聞いて。
君は気付いていない。アードも気付いていない。
中の人が大人だからなのかな。
私の感応性が強いからかな。
君が眠っていると、共鳴が起きるんだ。
普通はまだ起きないはずの共鳴が、まるで呼んで
いるみたいに。
身体は大人までもう少しだけど、君の心はきっと
運命を呼んでるんだ。
思う相手は私じゃないだろうけど・・・
君が医務室で眠った時、すぐにわかった位に。
今までは範囲が狭くて、君の家に行き来している
私しか気づいていなかったようだけど、今日のは
塔に他にも運命の者がいたら、気付かれたかも
しれない位・・・強く魔力を感じた」
その言葉に、抵抗する腕が止まった。私が、
いつも夢に見ているのは、あの人の夢。
「ねえシーヤ、君は今、兄者の娘のシーヤで、
この世界で、エルフの女性として、生きている。
そして周りはそれを強いる。
だから、私の提案を受け入れてくれないか・・・?」
震えたような声でそのまま首筋に噛みつかれた
ような痛みを感じた。感覚でわかった。
キスマークをつけられたと。
「フリだけでいい。君が私を運命として受け入れたと。
伴侶になったと。」
「な、何を言ってるの・・・」
「もちろん、本当に私のものになってくれたら
理想なのだけど・・・この塔にはジジイどもが多い。
塔は安全じゃない。
シーヤというより寿命の為に若い伴侶を待ってる
ような奴ばっかりだ。
このままだと、15を待たずに拐おうとする奴は
多いだろう。私が、守りたいんだ!
伴侶が決まって印さえあれば手出しできない。
君がさらわれて、なんて」
さらに抱きしめる腕に力が籠る。
「絶対に、嫌だよ・・・!私の、シーヤ・・・
私だったら、守ってあげられる。嫌だけど、
ずっと、前世のことを忘れられなくても
いいから・・・一緒にいてくれるだけでいいんだ。
一緒にいたいんだ。
今すぐ決めてほしい。時間がないんだ。
100歳までに私を好きになれないなら、一緒に旅に
出てもいい。兄者には本当の事を話す。だから・・・」
いつもと違いすぎるギル。真剣な表情で涙を流し、乞う様に願いを紡ぐ。
「僕の、伴侶になって。シーヤ。」